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「買ってきたよ、お姉ちゃんの好きな生チョコ!一緒に食べよっ」

 大きなケーキをぶらさげて、アパートに妹のあずさがやってきた。私が生まれ育った街を出て、ひとり暮らしを始めてから、4回目の夏が訪れようとしていた。

「なによ、あんたいきなり」

「今日誕生日でしょ?でもどうせ姉ちゃんは、ひとり寂しくビールでも飲んでるのかなーなんて」

「悪かったね。ひとりでビール飲んでて」

 私はふくれっ面のまま、あずさの買ってきたケーキを広げる。確かにあずさの言うとおり、私はひとり寂しくビールを飲んでいた。でもそんなことはどうでもいい。あずさが来たかぎりは、一緒に朝まで付き合わせよう。

「たまにはうちに帰ってきなよ。お父さん寂しがってるよ?」

 あずさがケーキを頬張りながら私に言う。

「そうだねぇ。でもバイト休むと生活苦しいからなー」

「そんなに金ないの?たまに休むぐらい平気でしょ?」

「うん。まあね」

 私はこの街でバイトをしながら気ままに暮らしていた。知らない街の知らない景色は、私を思い出から開放してくれるから楽だ。

「最近どうよ?何か変わったことあった?」

 私がビールを飲みながらあずさに言う。あずさは隣の犬が死んだことや、あの街に大型スーパーができたことなど、どうでもいいことを一通りしゃべってからこう言った。

「史生も引越ししたみたい」

 史生の名前を聞いたのは、本当に久しぶりだった。

「この前たまたま、あのアパートの前通ってさ。なんとなく気になって1階の集合ポスト覗いたら、史生の名前がなくなってた。2階を見上げても誰も住んでないみたいだったし」

「ふーん。妙子と同棲でも始めたかな?」

 他人事のようにそう言った私に、あずさが抗議する。

「お姉ちゃん、悔しくないの!?史生はお姉ちゃんのものだったのに!」

「ものとか言わないでよ、ものとか。史生は誰のものでもないよ?史生は史生だもの」

 あずさは何か言いたげに私を見た後、大きくため息をついた。

「お姉ちゃんのそういうクールな考え方、私にはわかんない。私だったら絶対史生を離さない。私が史生の記憶をよみがえらせてみせる」

 あずさの言葉に私は笑った。そしてバカにしているわけでもなく、素直にこう思った。

「いいね。あずさは素直で気持ちがいい」

 あずさはすねたような顔で私を見る。

「でも私はこれでいいの。今、別に後悔してないし」

 私はあずさに笑いかける。あずさはじっと私の顔を見つめた後、静かに口を開いた。

「お姉ちゃん。私、結婚するのよ」

「結婚!?」

 思いもよらないその言葉に、飲みかけのグラスを落としそうになった。

「できちゃったのよね、赤ちゃん」

 あずさはそう言って、照れくさそうに自分のお腹をなでた。

「ホントに!?相手はあの彼氏?」

「うん。お姉ちゃんも知ってるでしょ。テニス部の先輩の」

「お母さんとお父さんはなんて?」

「最初はすごく怒ってたけど、今は結婚式楽しみにしているみたい」

「そう……」

 私がつぶやきあずさを見る。あずさはためらいがちに顔を上げ、私に言った。

「お姉ちゃん……私の結婚式に来てくれる?」

「もちろんよ。当たり前じゃない」

 そして私はにっこり笑ってこう言った。

「よかったね。あずさ」

 私の言葉に、あずさはやっと微笑んだ。

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