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「良いのかぁ? この女が死んでも」
「やれば? 殺して良いよ」
余りにも軽く返された返事は悪者が期待していたものとは全く異なるものだ。
「はぁ? お前、勇者だろ?」
「あのさぁ、そもそも何で見ず知らずの赤の他人を助ける義理があると思ったの? 嫌だから、面倒だし。それに勇者だから? 何なの?」
嫌々押し付けられた勇者という称号に苛立ちが募り物言いも荒いものになる。
「勇者は助けるもんだろう」
「一言も話したことの無い赤の他人の為に命を張れって? 馬鹿らしい。僕はさぁ、そういうのやらないよ」
もはや悪人は何方なのか。悪者側が人質にと取った女性はこれでは助かる見込みも無いなと達観している。
自分の人生も最後はこんなものだが、中々良い人生だったなと懐古していた。
「ゆ、勇者様、助けて下さい......み、見殺しは、い、いけません」
「じゃあさぁ、アンタがやれば? 助けてあげなよ。お金あげたら助けてくれるって言ってるよ。ほら、やんなよ」
シスター服を着ている仲間だと思われる女の背中を押して前に出す。
「え? あ、いえ、でも私に、そんな力は ......」
「へぇ、じゃあ何アンタはさぁ。自分には到底出来ない様な事を僕に押し付けようとしてた訳? てかさぁ金出せば? お金貰えたら助けるって言ってたじゃん? あげなよ? 出来るでしよ」
「そ、それは、あ、あげても助けて貰えるか......」
「だから? アンタに出来るのって金渡すしか無いでしょ。自分の身銭を切る事もしたくない。かと言って助けるだけの力も無い。目の前に困った人が居るのに他人に善意の押し売りかましてやらせようと頑張るって......頭おかしいの?」
目に涙が溜まっていくシスター服の女。
「泣いても何にもならないよ。僕にはそういうの効かないから。そもそも僕とアンタの関係も希薄な物だと思うし、さぁ! ほら! 助けに行ってあげて!」
ぐっと更に背中を押して前へと進めさせる。
シスター服の女は震える手で金の入った袋を出して悪者に差し出す。
「そ、そ、その方と交換です」
何だか気の毒に思った悪者は黙って女を解放して金の袋を受け取った。そして、そそくさとその場を離れていく。
シスター服の女は静かに泣き出した。声を押し殺してポロポロと涙を溢す。
助けて貰った女はシスター服の女の手を握り何度もお礼の言葉を告げた。
「泣かないで下さい。貴女のお陰で助かりました。もう駄目だと思っていたので本当にありがとうございます」
キッと助かった女に睨まれるも無表情で見返す勇者。
「助かったんだから良いでしょ。あとさぁ僕が助けたとして謝礼金出せた? 僕はねぇ高いよ」
「え? 高い?」
「当たり前の話でしょ。無償でやれって? そんな事はしないよ。だってさぁ旅費だって掛かるし食費もあるし」
無償で助け続けて生きていける? とガラス玉の様な目に見つめられ言葉に詰まった。
「ちなみに冒険者としてのランクはSだよ。本当に高いでしょ? 払えた?」
冒険者としてのランクは下がEランクから始まって最高ランクがSだ。
Bランクから個別依頼が入るようになりランクが上がるにつれて依頼料も上がっていく。Sランクともなると1件に付き金貨3枚からが相場である。
平民が月に稼ぐ平均額が大銀貨15枚程。
銅貨10枚で銀貨1枚、銀貨10枚で大銀貨1枚。大銀貨100枚分で金貨1枚になる。
助けて貰ったは良いが報酬が払えず借金塗れという事になる。
そこは勇者が助けた事を黙っていれば払わずに済む話しなのだが。この勇者は黙っているつもりは無いらしい。
「じゃあ、そういう事で早く街に行きたいから先に向かってるよ。お荷物......聖女様」
せめて泣き止むまで待ってやれよと女は心の中で罵った。
マリアと呼ばれたシスター服の女は鼻を啜りながら立ち上がるとヨロヨロと勇者の後を追い掛ける。
「そうだ! 私も街に帰るんです! 一緒に行きましょう」
さっと聖女様の隣に立ち並んで歩き始めた。
「あの、どうして2人で旅を? どう見ても仲良さそうには見えませんが」
鼻を啜りながら話してくれた内容に驚く。
封印されていた筈の魔王が目を覚ました。そう神託が下されたのだそう。
たまたま次期聖女だと言われていたマリア。
勇者と共に魔王退治か魔王封印を成功したら真の聖女だという証明になるだろうと、教会から締め出されてしまったそう。可哀想に。
そして勇者の神託も名指しで下された。その勇者がゼーロンである。既に冒険者としてSランクに達していた事もあり丁度良いね。と魔王退治の王命が下されてしまったのである。
大した会話も出来ていない状態で、じゃあ宜しくと王都から送り出された2人。悲しい事に勇者と次期聖女が魔王退治に向かうぞーと新聞各社に報じられた事で国中に顔が知れ渡り辞退も出来なくされた。
出発の時だけは華やかにパレードも組まれ、そこから逃げられなかったのである。




