八十三話『前夜』
ゴーン。ゴーン。テレビから重たく響く除夜の鐘が年が明けた事を告げる頃には、ピザやお菓子、ジュースは机に置きっぱなしのままに、ヒビキ、イズミ、トウマ、サユリが床に寝転がっていた。レイに、「片付けますか」と言われては、「嗚呼」と答え、皆が飲み食いした残骸をレイと一緒に片付ける。「レイさん…。」俺は洗い物をしながらレイに問いかける。「なんですか」レイは俺が洗った皿を拭きながら答えた。「…大人って、楽しいですか」俺の問いにレイは、「新年一発目にされる質問じゃないな」と笑ったあと、「楽しいですよ、大人は子供よりも自由だ」と答える。「自由…」俺が呟くと、「親の縛りも無けりゃ金もある。何をやろうにも制限もない。ただ、全ての行動に責任が生まれる。それが大人になるって事です」レイはそう言うと、拭いた皿を一時的にカゴの中に入れる。「…」俺は考えながら、洗い物をする。「俺が✕✕を作るって言ったら…レイさんは背中を押してくれますか」俺が問いかけるとレイは「はぁ…君はとんでもない事を考えるな」と答えた。「それを作ってどうしたいんですか」レイに問われては、「…俺は…」俺がその後続けた言葉を、レイは「頑張って。」と肯定した。
頑張って、か。倫理も無く人道を外れた計画を肯定されては、自分が否定されたような気分になる。"止めて欲しかった" でもこれで俺はわかった。俺を真剣に止めてくれる大人なんていないんだと。みんな俺の破滅を望んでる。当然だ、傍から見たらただの支配者なんだから。片付けを終えた俺は、「ありがとうございます」とレイに言って自室の中へ入る。やたらとガキ臭いレイが用意した子供部屋。もう十七だって言うのに、情けない。俺はパソコンで打った計画書を見て溜息をついた。「本当にこんなのでいいのかよ」どこまでだって堕ちていく。心ではそんな事を言うが迷いがあるなんて。それだけ俺が人間として不完全ということだろう。かといって死神にすらなれない。いや、なる必要が無い。俺は中途半端に救われてはいけないんだ。確実に"報い"を受けなければならない。「ぅ゛…」俺は心臓を抑える。もう身体が行動に追いつかない。早く決めなければ。そんな事を考えている間に俺は眠くなり、椅子からバランスを崩すように落ちてそのまま床で寝てしまった。
一月二日。俺の呼びかけで半死神たちがリビングに集まっていた。「いよいよ明日、一月三日に天使代行が一人でここに乗り込む。俺は一人で天使代行に乗り込ませた上で、その様子をヘルドルノートの捜査員に撮影させ警察内部の対立を煽る予定だ。」俺が前に立って言うとトウマが、「本当に一人で来るのか」と問いかける。「一人であいつが来なかったら皆殺しにするまでだ」俺がトウマに答えると、割って入るようにイズミが「ほんまにそない上手いこといくんかいな。天使代行言うたら、ヤバいやつちゃうんか?」と首を傾げる。俺は、「問題ない」と答える。「地獄の道具だけで足りないなら暴力団ルートで大量に仕入れた武器もある。」俺が言うとトウマは、「いつの間にそんな事をしていたんだ」と感心する。「はいは~い♡」と言いながらロイが、台車に重ねた銃や閃光弾を持ってくる。「最終決戦だ」俺が言ってはイズミが、「なあ夜叉鏡……この戦い終わったら、お前どないすんねん。」と俺に問いかける。
俺は、「…」と少し黙った後、「どうしよっかな」と乾いた笑みを浮かべる。「まさか、ノープランとか言わへんよな」イズミに詰められては、「ノープランなわけないだろ。」と冷静なツッコミを入れる。「俺ら人殺しとるんやぞ……!どっかでケジメは取らなあかんやろが!俺らだけがええ思いして済む話ちゃうねん!俺かて……罰、受けな気ぃ済まへんわ。タダで人殺してええわけあるかい!タダで救われるなんて、そんな都合ええ話あるかボケ……!」イズミはそう叫ぶと、「ほんまに最終決戦なら、夜叉鏡。わかってるよな?」と俺に真剣な瞳を向けた。トウマも、「俺の事もちゃんと罰してくれ」と俺に訴えた。俺は「…わかってる」と答える。「逮捕されたら周りの人が死んでまう。せやから…俺は…」と言いかけるイズミに、トウマが「新年早々物騒だ」と制止した。ロイが、「まあまあそう暗くならない♡」と言った後、武器が入ったダンボールを開封する。「カガミくんが大金叩いて買った武器なんだから有効活用してね?」と声をかけた。
同時にルルからメッセージアプリで、"明日、本当に一人で行きます"と返事が来る。ルルが本当に一人で来たら。俺の完全勝利だ。待っていろルル。必ず俺が逃げ切ってやる!俺がそんなことを考えているうちに、ヒビキが目を擦りながらパジャマ姿でやってくる。「朝からカチャカチャうるさいわね…何してんのアンタたち」ヒビキはそう言うと、「なにこの大量のチャカ」と首を傾げる。ロイは、「最終決戦に向けての準備だよ~ん」とヒビキに説明する。ヒビキは、「最終決戦って。そもそもどうなったら私たちは終わりなのよ」と俺に問いかけた。俺は、「…警察さえどうにか出来れば後はこっちのものだ」と微笑む。「そんな簡単に言うけど…日本警察は手強いわよ」ヒビキはそう言うと、「私も悪党になったものね」と微笑んだ。来たる一月三日に全てが決まる。もう出来ることはした。決戦前にこれ以上やることは無い。必ず思い通り、俺の物語は俺の手の中にある、全ては俺の思うがまま、さあ来い、ルル!!




