表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
78/86

七十八話『マリア組の思い出 物語上の✕✕』

 夕方。母さんが作ったクッキーをカレンと食べていると、ピンポーン。とチャイムの音が鳴る。「はいはい~」と言いながら母さんが玄関まで行くのを見て、俺とカレンも顔を合わせた後バタバタついていく。「今日隣に引っ越してきた笛野です」と菓子折りを持ってやってくる綺麗な女性。その後ろから、ひょっこりと俺と小さな同い年ぐらいの女の子が顔を出していた。うぐッ…。俺は息を飲む。最初は一目惚れだった。その女の子を知りたいって、なぜか強く惹かれた。「よろしくね」と女の子に言われては、「嗚呼…」と小声で返す。その後から妙にドキドキして、せっかくのクッキーを二、三枚残した。「どうしたの、いつもは食べるじゃない」と母さんに言われては、「ッ!!」と何も答えず自室に戻った。俺はクマのぬいぐるみを抱きしめ、「ぅぅぅ……」と声にならない声をあげる。心臓がバクバクする。「恋ってこういう事なんだ…」と呟いては、身体が火照るように熱くなるのを感じた。「なんて名前だっけ、笛野さん、笛野さんか、かわいい……」俺はそう言いながら、クマのぬいぐるみを抱きしめる力を強くする。「ダメだもう笛野さんのことしか頭にないよ…」同い年ぐらいの小さい女の子に初恋を奪われた俺は、これからあの子とずっとお話出来るんだ。なんて胸が弾んだ。


 数日後。なかなか女の子に会えない事が気がかりだった俺は、幼稚園の送迎バスを待っている間もソワソワしていた。「カガミ、なんか変だよ」とヒロムに指摘される。「変じゃないもん」俺が答えるとヒロムは、「だーめ、ちゃんと言って?」と目線を合わせてくる。「いやだ」俺が首を横に振っていると、数日前引越し挨拶に来た女の子が、「あ!!」と俺を見つけて嬉しそうな表情を浮かべる。「君!!!この間の!!」「弐式くん!!!!!」


 俺は名前を呼ばれると、「笛野さんおはよ、」とぎこちなく返事する。「私サユリ!!!サユリでいいよ!!!弐式くんは下のお名前なんて言うの?」目を輝かせながら問いかけるサユリ。まだ五歳の俺にその瞳は眩しくて、目を逸らす。「カガミだ、俺はカガミ」名前を名乗るとサユリは、「かっこいい名前だね!!!」と満面の笑みを浮かべる。「あ、ありがとう」幼少期の俺は胸を弾ませていた。バスがやってきては、ヒロムが「行こうぜ!」と先を走っていく。俺もヒロムの後についていく。緊張からか、モジモジしているサユリを振り返り、「行くぞ」と声をかけると、サユリは「うん!」と頷いた。バスの中では、各自好きなように雑談を繰り広げていた。ヒロムの隣に座る俺。後ろに座るサユリは隣の子と離せずモジモジ。するとサユリの隣の男児は、「君、新しい子?」とサユリの身体を触り、雑に絡みに行く。サユリは、「ヒッ!」と怯え、下を向いた。「なんだよ、ノリ悪いなこいつ」と口を尖らせる男児。俺は、「…」とその様子を眺めた。園に到着すると、荷物を棚に入れたあと、園児たちは塗り絵や本を取り出し、各々が興味を持った事をはじめるが、サユリは黙ったまま誰とも話さず、おもちゃのひとつ触ろうとしない。「サユリ、どうしたの?」俺が問いかけるとサユリは、「私、ノリ悪いのかな…」と朝、男児に言われた事を気にしていた。「もっとお友達出来るって思ってたのに、失敗しちゃった。」サユリはそう言いながら、グスグスと泣き始める。「そうだよね、もっと元気出さなきゃね、」と作り笑いを浮かべるサユリに、「別に、あいつと無理に仲良くなる必要無いと思うぞ」と伝える。サユリは「へ?」と涙を拭いながら俺の方を見た。「そのままのサユリを、受け止めてくれる子も必ずいるはずだから。」俺が言うと塗り絵をしていたヒロムが、「そうだよ!」とこちらを振り返る。「見て、これさつまいもの塗り絵、よく塗れたと思わない?」ヒロムはサユリに笑顔を向ける。「すごい…美味しそう!私も書きたい!」サユリは塗り絵に興味を持ったのか、塗り絵を取りに行く。女児二人も、「サユリちゃん一緒に秋の塗り絵しよ!」と近寄る。俺は、ふッと笑いながら、サユリが喜んでいる様子を眺めた。俺も塗り絵を取りに行く。みんなで並んで塗り絵をしていると、先生が「みんな仲良いのね~♡」と嬉しそうに話しかけて来た。「いぇーい!!」みんなでピースする俺たち。「先生見て!!!!」さつまいもの塗り絵をみんなで先生に見せびらかす。そんなことをしていると、今朝、バスに乗っていた時にサユリの身体を触った男児達のグループが、「…」とこちらを眺めていた。その事に気づいた俺は、「…」と視線を返す。すると男児達は、目を逸らした。一体、なにを企んでいるんだ。サユリに何か手を出そうとしているのか?それはダメだ。俺はサユリを。サユリを守らなきゃ。その頃から俺は、サユリを守りたい。という気持ちが先行していた。サユリを守って、ヒーローになりたいって。最初は小さな恋が原動力だったはずだ。出会った当時から俺は、サユリという存在で頭がいっぱいだった。…これが駄目だった。淡い夢の中で、俺は自分がいかに愚かで、駄目な人間だったかを思い知る事になる。でも、当時の俺は、これから何が起きるかなんて、サユリがどんな人物かなんてしらない。だから、堕ちていく。溺れていく。表面上の完成された物語の中に生きる、"サユリ"という存在に。


 閑話休題。お弁当を食べた後の俺たちは、お昼寝タイムと言うなんの意味があるかも分からない時間を過ごすことになる。それよりも、お弁当前に歌う歌のほうがもはや存在意義を感じないのだが。幼稚園には園児達が余計な茶々を入れない年齢であることをいい事に、意外と今も"無駄"な文化が根強く残っていたりする。「じゃあみんなー、お布団敷いたからぐっすりおねんねするのよー♡」先生はそういうと、部屋の電気を消した。俺とヒロムを挟んで、真ん中にサユリという配置だ。サユリは、「…スゥー」と丸くなって眠っている。俺はサユリの寝顔ばかりを見て、眠る事に集中できない。ヒロムも大の字になって爆睡する。俺は、「ひつじがいっぴき、ひつじがにひき」と羊を数えながら眠りにつこうとするが、飽きてしまいカバンからスーパーレッドの絵本を取り出す。「ダメよ」先生に見つかっては、耳打ちで「ぐっすりしなさい」と注意された。俺は、「わかったよ…」と先生に生意気な態度を取りつつ、布団にこもる。次第に段々と眠くなっては、布団の中に入り、静かに眠った。夢の中で眠る当時の俺を見せられる。不思議な感覚だ。いま現実では何が起きているんだ。俺は本郷寺で殺しをしていたはずだ…なのに、なぜ淡い記憶の中にいる。以前も似たような事があった。その時は自然に眠っていたんだっけ。いや、ホノカが…。ダメだ、思い出せない。確実に言えることは、いま俺は記憶の中で過去の自分を見せつけられている。ということだ。これは無駄な思考だ。とりあえず過去の俺が起きるのを待とう。それしか方法は無い。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
幼馴染の展開!やっぱりエンドルートは幼馴染ルート!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ