七十二話『俺だけの力』
それからまた暫くが経った頃。俺、ヒビキ、トウマ、イズミ、ロイ、ホノカはリビングに集められた。レイが「私の会社の職員にヘルドルノートの人間が接触しました」と説明する。ヒビキは「ヘルドルノート…」と目を丸くする。「どうやら彼らは普段はアイドルの不祥事を公開しているようですが、最近は犯罪や各要人のスキャンダル、いじめ問題も取り上げています」とレイが言うと、イズミは腕を組みながら、「あかん…。そろそろほんまにサツに目付けられてまうわ」と真剣な表情を見せる。トウマも「…対策はあるのか夜叉鏡」と俺に視線を向けた。俺は、「二週間前。天使代行に接触された」と報告する。「天使代行!?」驚くイズミ。「あかん、なんかやばいやつらが周りにうろうろしとるわ」とイズミは立ち上がり腕を組みながら、あっちにいったりこっちにいったり動き回る。トウマが脚を伸ばしてイズミのバランスを崩させると、イズミは「うわわわわ!なんやねん!!」と声を荒らげた。「うろうろしているのはお前だ」とトウマは低い声でイズミを制止する。「全員捕まる前に何か策を打ったほうがよろしいかと」レイはそう言うと、俺に期待の眼差しを向けた。「…」俺は下を向きながら片手で頭を抱える。「弐式もお手上げか」とヒビキに言われては、「いいや?」と答える。「策はある。あるんだがかなり外道な手だ。出来れば使いたくない」と俺が言うと、イズミは、「何言うてるん自分、とっくのとうに外道な悪役はんやろ」と横から入って言い返す。「被害は出来れば最小限に抑えたいんだ。あと俺に外道なんて言うな」と俺が言うと、イズミは「はい」と従う。トウマは、「夜叉鏡、俺はもう十人以上を手にかけた。お前はともかく、俺は成人済みだ。死刑は免れないよな」と問いかける。「でもお前たちは救われたくてここに来たんだろ?生きる意味は出来たじゃないか。トウマには役割を与えた。イズミには快適な暮らしを与えた。ヒビキには生きる意味を与えた。これ以上なんの文句がある」と俺が言うと三人は下を向いて黙る。「レイだって秘密を隠してやってる、全員何かしら俺に救われてるんだ。俺に文句を言える立場じゃない」と俺が言うと、レイは「その通りです。我々はただカガミくんに従うのみ!!全てなんなりとお申し付けください。金のことしか私は活躍出来ませんがね!!!」と愉快そうに笑い出す。「で?まずはヘルドルノートをどうにかした方が良さそうですね、どうします?訴えますか??」とレイは俺に問いかける。俺はしばらく考えた後、「利用できる。」と答える。「手間だが俺だけ今夜の任務は明け方に行う。いまの警察は堂上だけじゃなく天使代行まで味方につけてる。気を緩めるな」とイズミ、トウマ、ヒビキの死神代行たちを見ながら指示する。「ヘルドルノートの連中を張り込むのか?」とホノカは俺に目線を送る。「どうせ能力を使う気なんだろうが、お前のその能力はリスクが大きい。」と俺の計画を見透かして制止した。「わかってるさそんな事」と俺はホノカに答える。「捕まってしまえば元も子もない」とホノカは言うが、俺は「止まることは許されないんだ」と冷静に言った。ホノカは「…」と黙って俺を見つめる。分倍河原に教えて貰ったヘルドルノート。そんな奴らに興味のカケラも無かったが、いざ自分の近くに刻一刻と近づくと、それなりの恐怖を感じる。
深夜。皆が車に乗って出ていったのを見送った後、俺は茂みの中へ隠れる。「はーッ…」反動でなんだか貧血気味だ。頭がふらっとする。ロイは「頑張ってるね♪」と俺の後ろを浮遊しながらやってきた。「…嗚呼」と俺は静かに答える。暫く張り込みをして、続々車も到着しはじめると、茂みの方へ遠くから黒ずくめの男が小走りでやってくる。俺は、「ここになんのようだ」と問いかけるが、黒ずくめの男が、「捜査本部のルルって奴が金くれるって言うから突撃に~~」と軽い口調で語り出す。「駄目ですか??悪いことしてるんですよね??僕らを止める権利、貴方にあるんですか?僕のツイツイイッテシマッターのフォロワーは百万人以上だ。影響力はありますよ。それに貴方は警察に顔が割れてるんだ。弐式火神さんって言ったっけ??高校生、それに警察官の息子で人生棒に振るなんて面白い~~。お父さんも泣いちゃいますねー?確かスーパーレッド好きだったんすよね??あれあれぇー、?闇堕ちですかぁ?今どきダークヒーローなんて流行らないっすよ、」とベラベラとよく喋る男に、静かに苛立ちを覚える。「言いたいことはそれだけか」と俺はそう言うと、男の頭を強く抑える。「暴力ですか???高校生のクソガキが一丁前に暴力ですか、僕呆れちゃうなぁ、」まだベラベラ喋る男に瞳孔を開きながら、「斬、捜査本部の人間をはじめとする、この事件に関わっている警察の個人情報を全て調べて俺が指定した日の十九時にお前のアカウントに晒せ。」と命令する。男は、「わかった」と頷いた。男は「このメールで連絡する」と俺にアドレスを書いて渡した。
黒ずくめの女が後から遅れてやってくる。「ちょっと!アンタ、私の彼に何したの!?」女はそう言うと、俺の方に一眼レフカメラを向ける。だが俺はその女の頭も抑える。「痛い痛い痛い痛い!」女は暴れるが、俺は「斬、お前は自分のアカウントに自分が一番恥ずかしいと思う写真を不特定多数が見ている前で撮影し投稿しろ。今日中に!!」と命令する。女は「はい、わかりました!!!」と答え、足早に去っていく。ロイは「おー、ナイス」と賞賛する。「捜査に関わる全員をネットに晒しあげる事で家族やその他の身の安全までを人質に取る最高なやり方だ。女の方はもうあの男に安易に関われないだろ」と俺が言うとロイは、「お疲れ様。じゃあこのまま殺しに行こうか。阿笠君呼びに行くね」と浮遊していった。
ドクッ、ドクッ、俺は反動で火傷したような心臓痛に襲われる。木に片手をつきながら、「ぅ゛ぅ…」と呻き声を上げた。「はぁッ!??」背中を殴られたような痛みに衝撃が走り、身体を前に倒す。「…俺が選んだ…」俺はそう呟くと、静かに蹲る。でも心を鬼にしなければ、サユリは死んでしまう。だから…




