五十四話『監獄』
「火神くんはどうして殺人なんてしようと思ったの?」視線を合わせながら首を傾げる堂上。俺は下を向きながら「みんなを守るため……」と答える。「こうしなきゃいけなかったんだ…。みんなを守るには…。」俺の言葉の後、堂上の眉がぴくりと動く。「……殺人鬼に守るなんて言葉を使って欲しくないんだけど。」堂上に言われては、身体がぴくりと震え「ごめんなさい……♡」と頭から謝罪の言葉が勝手に出てきてしまう。「つまり、誰かに脅されてるとか、そう言うこと?」子供を相手するように問いかける堂上に、「うん、」と頷く俺。「そうか、火神くん。火神くんはみんなを守るために殺しなんかに手を出してたんだね」堂上はそう言うと、俺の頭を優しく撫でる。撫でられただけで、ぴくりと身体が震え快感を覚えてしまう。堂上の優しさと威厳でどうにかなってしまいそうだ。「二日後、お出かけに行こうか」堂上の提案に、「お出かけ???」と呟きながら彼を見上げる。「そうだよ、お出かけ。……一緒に行こうよ。君が殺した人たちのお墓」堂上に言われては、ハッ、と動悸がする。今までの殺人劇が、一気にフラッシュバックする。「許して貰えるかどうかは火神くんが殺した人たちに聞けばいいじゃない。手枷も足枷も外してあげる。それでも、"守りたかったから"なんて正当化出来る?それに君が殺した舞妓さんには彼女を大切にしている家族がいた。彼女だけじゃない。今まで君が殺した人間一人一人に人生があった!!!」瞳孔を開いて語り出す堂上。俺は罪悪感で瞳を揺らす。「君はれっきとした犯罪者なんだよ、どう足掻いても守りたい、だなんて語る資格は無いんだ。人の命を奪った時点でそれは正当化してはならない行為だ、僕は君を裁かないといけない、君は裁かれないといけない。僕が正義で君は悪だ。それ以上でも、それ以下でもない」堂上はそう言うと、ベッドに座るだけの俺の身体を押し倒す。
「な゛ッ!」俺は冷たいベッドの感触にぴくりと肩を震わせる。「ひッ……」堂上は俺のズボンに手をかける。その後はあまり覚えていない。ただ頭がグラグラして気持ち悪い。はーッ、と俺は白い息を吐く。なにをしていたんだっけ。身体が熱い。なんだか汗もかいている。ベッドも染みている気がする。でもどこか心地良くて、ウトウトする。これはもう、洗脳だ……。そんな時、サユリの顔が脳裏に過ぎる。「!!!!」こんなところにいる場合じゃない。「はぁ~ッ……」静かに息を吐く。「火神くん。お疲れ様。」そう言うと堂上は俺にそっとキスをした。「んッ……♡」嫌で嫌で仕方ない。心の中では気持ち悪くて仕方ないのに、身体はどこか堂上を求めてしまう。「ねえ、火神くん。僕に一生従うって言ってよ、一生服従するって言って。」堂上に言われたことには、何も反論出来ない。「サユ……リ……」俺は無我夢中で愛する人の名前を呟く。自我を保つために。少しでも"自分"でいるために。「ッチ」堂上は舌打ちする。「お前はただの殺人鬼だ!自分が殺人鬼だと認めろ!恋人を守った気になるな!本気で恋人を守るってことは……!」堂上は思い出してはいけないことを思い出しそうになり、頭を抱える。
「俺……は……殺人鬼……です……」頭の中から勝手に声が聞こえる。早く、早く人を殺さなきゃ、こんな事してる場合じゃない。早く人を殺さなきゃ、誰かが死んじゃう……!そんなのだめだ、絶対に許されない、もし……もしサユリが……サユリが死んだら…?「ははッ……はッ……」罪悪感か、薬の効果か、フワフワと気持ちいい感覚が残る。「サユリ……早く助けに来てくれ……サユリィ……」俺がサユリの名を何度も呼んでいると堂上は「火神くん。僕に絶対服従するって言って??」と再度俺に問いかける。「……堂上……に……一生……服従……します……」俺の頭から勝手に言葉が出ると堂上は、「正解。よく出来ました。」と満足気に笑った。「サユリ、サユリ、サユリ……!!!」俺は恋人の名前を何度も叫ぶ。「サユリ……サユリ……サユリ……サユリ……」そうでもしていないと、頭がおかしくなりそうだったから。「笛野さんは来ないよ、火神くん。」堂上に言われてしまえば、「ぅ゛ぅぅ……」と涙が溢れ出てしまう。「サユリがいないなら俺がもう生きている意味なんてない……」俺が嘆くと、堂上は「殺人鬼に生きる意味が存在していいと思ってる?」と首を傾げる。「どう腐ってもお前は殺人鬼。醜い醜い殺人鬼なんだよ。」堂上の冷たい言葉に、俺の瞳が潤んでしまう。理不尽だ、理不尽だ、理不尽だ、理不尽だ、!!もう耐えられない!!俺の事なんて誰も考えやしない!!考える気なんてさらさらないんだ!!!誰も理解しない!!!それどころか責めてくるばかりだ、はやく、はやくサユリのところに行かなくちゃ、サユリ、サユリに会いたい、サユリ……。
「火神くん。もう少し僕の事も見てほしいんだけど」堂上に言われて、嫌でも視線が堂上に寄る。「……ズボンとパンツ濡れちゃって気持ち悪いでしょ」堂上に言われては、「いやッ!!」と叫ぶが、「綺麗になるんだし喜んで欲しいな」と寂しげな表情で発せられた言葉が続き、精神が管理されているかのように、「ありがとうございます……」と喜んでしまう。手枷と足枷を一時的に外されては、「お洋服取ってくるね」と堂上は部屋から出る。逃げるならいましかない!!!!俺は扉に手をかけるが、ドアノブに手をかけても扉が開かない。「くッ……」俺が悔しがっていると、どこかからホノカが浮遊してくる。「カガミ。返事はしなくていい。学校の様子を見てきた。サユリとお前のクラスは騒然としていたぞ。まず教師が頭を抱えていた。お前が捕まった事は匿名とはいえ関係者やクラスメイトたちには伝達されているからな。分倍河原ってやつが一番驚いてたぞ。もう学校には戻れないだろうな。サユリはなんだか様子がおかしかった。お前が殺人鬼であったことをどこか喜んでいるような雰囲気だった。」ホノカに言われては、脱走を諦めその場に女の子座りになって下を向く。「火神くん、お洋服持ってきたよ」大人しく座っていると堂上がやってくる。「着替えたらお父さんたちのところに行こうか。お昼ご飯用意してくれてるから」俺の様子を見て、堂上は楽しげに笑う。「ちゃんとベッド座って?」堂上に言われては、身体が大人しくベッドに向かう。「力抜いて」堂上はそう言うと、俺のズボンと下着を脱がす。あまりの恥ずかしさに目を瞑るが、一瞬で「はい、出来たよ」と俺を着替えさせた。みっともない。本当に情けない。こんな姿、サユリが見たらどう思うだろうか?
「行こっか、火神くん」堂上に手を引かれては、別室に移動させられる。「……カガミ」そこにいたのは父さんと複数人の警察官たち。捜査本部のメンバーだろう。久しぶりに自分の手で食事が取れる。「違うんだ父さん……俺は……」罪を弁解しようとするが、上手い言葉が見当たらない。「まあいい。犯罪者に真摯に向き合うのが警察の仕事だ。私たちはお前を責めたりしないが、それ相応のものとして扱う」父さんに言われては、俺は力無くがっくりと頭を下げる。「やはり連続殺人犯はお前だったか。堂上はかなり最初の捜査から容疑者を絞ってお前に目をつけていた。だが模倣犯が出ている。模倣犯については何も知らないのか」父さんは真剣な目を俺に向ける。「俺は知らない……知らない……何も……」俺が呟くと父さんは、「お前には堂上のような優秀な刑事になって欲しかった。なれると思っていた…。実の息子が殺人犯だなんて……私は……。」と目を細めながら切なげな表情を浮かべる。「……まあいい。食事の前にこんな空気は嫌だろう。あまり豪華なものでは無いがゆっくり食べなさい」父さんに弁当屋の弁当を差し出される。捜査本部の刑事たちが、ジロジロとこちらを眺めてくるためかなり食べづらい。「……」だが気にせず食事を摂る。傍から見れば俺は凶悪な殺人犯だ。こちらの事情なんて配慮されるはずも無い。四十分ほどで食べ終わると、父さんが「ゴミ箱はあっちだ」と指を指す。
ゴミ箱に弁当のゴミを捨てては、校長室のようなソファーに座ったままの父さんに、「カガミ。お前がどんな姿になろうと私はカガミの父親だ。息子がやった事には責任を持つ。この仕事もお前の判決が下ったら辞めるつもりでいる。」と告げられる。「警察を辞める!?」かつて憧れた父から警察と言う肩書きが無くなる事実に動揺する俺。「駄目だ、駄目だよ父さん、駄目だよ…」俺が震えた声で言うと父さんは、「自分がやった事の重みを知りなさい」と静かに答えた。嗚呼……どうすれば俺はこうならないで済んだ?どこから間違えていた?周りの人間をことごとく死なせて俺だけ生き残れば良かったのか……?誰か、教えてくれ。




