五十一話『混乱』
「じゃあ私と同居して???」サユリからのお願いに、「はぁ、?」と俺は言葉を失う。「出来るでしょ、カガミなら」サユリにゴリ押しされれば、「そんなの急に言われても……隣同士なんだら今まで通りでいいじゃないか……」と俺は困惑する。「じゃ……全部ネットに晒すよ?」とサユリは俺を脅す。「ぁッ…ぁ」サユリを愛しているが故、何も言えなくなる俺。サユリは俺から離れるとバタバタと階段を駆け降りる。「カガミのお母さん!!」サユリは俺の母さんを呼んでいるようだ。俺もサユリの後を追うように階段を降りる。サユリと母さんが何かを会話している。母さんは時折首を傾げながら悩むような表情を浮かべている。母さんもサユリを止めてくれ、サユリと同居は嬉しい、嬉しいんだが、学生の身分でするべき事じゃないだろ……!!それに今のタイミングだと色々と!!!階段からサユリと母さんを眺めていると、浮遊してきたホノカが「こりゃ一本取られたな」と面白がる。俺はホノカの腹を肘で殴る。だがホノカは何も気にしない。「はぁ、最初に言ったこと忘れたか」と呆れるホノカ。「ちょっと待ってくれよサユリ、同居なんて高校卒業した後だって出来るじゃないか!俺もそのつもりだったし……!!!」俺がサユリに叫ぶのと同時に、母さんは「でもいずれ結婚するなら同居は早いうちからしててもいいんじゃないかしら、お父さんにも聞いてみるわね、」と首を縦に振った。
「は!?!?」俺は母さんの返答を聞いて固まる。「ちょっと待ってくれよ、まだ学生だぞ!?女と二人きりで……なんて!」俺が言うとホノカが横から「三人暮らしじゃないか、両手に花だぞ」と揶揄ってくる。サユリは「ありがとうございます!」と満面の笑みを浮かべる。俺抜きで話がどんどん決まっていく。俺の物語だって言うのに全く俺の意思が尊重されないじゃないか!!!!
俺が心の中だけで悲痛な叫びを上げると、サユリが「良かったね、カガミ。ず~っと一緒だよ?」と甘い言葉をかけてくる。だが俺はサユリに対する恐怖などは一切無かった。むしろ嬉しいのは当たり前なんだが、レイ・テンダーの件も抱えてる今にやるべき事かと言われるとそうでは無い。二人だけの世界に閉じこもりたい。その願望がサユリと一緒だったのは良いことだが、本当に俺の運命は俺の事情を置いてけぼりで……。それにサユリに察されていたのもどうかと……。待ってくれ。本当にどうにかしてくれ、でも俺はサユリと常に一緒にいたかったわけで……。なんだ、情報量が多すぎて脳内処理ができない。「今日はもう帰るね???」サユリはそう言うと俺に手を振る。「カガミのお母さんもありがとうございました!!」サユリはペコッと母さんに頭を下げる。母さんも「また来てね???」とサユリに手を振った。「サユリちゃんに本当好かれてるわね~、あんないい子逃しちゃだめよカガミ」脳内処理が一切出来ずその場に固まる俺に母さんは言うが、俺は「……」と未だになにが起こったのか理解出来ないままだった。「サユリと……同居……?」混乱したまま俺が呟くと母さんは、「ん?サユリちゃんと住むの嫌?」と首を傾げながら俺に問いくる。「嬉しい、嬉しいのは当然なんだが……」と言葉選びに困る。そんな俺を見て、「ふふッ、私は学生のうちに同居なんて出来なかったから羨ましいわ」と微笑む母さん。誰も……誰も話が通じない!!俺の人生だろ???俺の世界だろ???俺の願望は確かに叶ってるんだ、サユリから誘われるなんてむしろラッキーなんだ。でも、時期って、時期ってものがあるだろ、!?はぁ……。頭を抱える俺を見て、母さんはキョトン?と不思議そうな視線を送りホノカは「はははははッ!!」と爆笑する。
「勘弁してくれよ……」なんて言いながら俺は黙って階段を上がる。俺がベッドに座ると、浮遊しながらついてきたホノカが「お前少し揺さぶられたからって軽々秘密言わない方がいいぞ」と指摘してくる。「ダメだ、サユリに嘘なんかつけない……」俯きながら俺が言うと、ホノカは「警察にも殺人鬼にもなれない凡人が」と毒を吐く。「私はお前がもう少し面白いものを見せてくれると思っていたよ。カガミ。私を失望させるな」ホノカの言葉に、俺はチッと舌打ちする。「特等席で楽しませてやってるのに文句か」俺が言うとホノカは、「客が楽しみに見に来た演劇で大根役者が出てきたら誰だって文句を言うに決まっているさ」と俺を馬鹿にしながら答えた。「喜べカガミ。もうお前とはお別れだ。お前の呪具は私が回収する。私が運命をもう一度書き換えればお前はこの因果から救われる。お前だってそうなりたかったはずだ。悪になりきれないのならもう終いにしないか」ホノカの提案に、「ダメだ!!」と俺は叫ぶ。「これは俺に与えられた試練、ここで運命を書き換えるのは逃げと同じだ、俺が答えを見つけるまでお前にはそこにいて欲しいんだ、俺が納得行く前に強制終了だなんてそんなの間違っている!」俺が言うとホノカは、「馬鹿だな、ここで私を止めなければお前は全てを忘れて楽になれると言うのに。それに私は代わりを探して面白いものが見れるしWINWINだと思うが」と俺の言動が理解できないような表情を浮かべる。「お前は確か死神になることも拒んだな。なぜ次々と救済を拒む。教えろ、カガミ。辛いから楽になりたいんじゃないのか」静かな声で問いかけるホノカ。
「……俺は……俺が納得するまで……止まれない…カレンも……ヒロムも……ユリカも無駄死にになってしまう……あいつらを生き返らせる事が出来るなら俺は普通の青春に戻りたい……」俺の言葉を聞いたホノカは、「それは出来ない。だがお前を植物状態にして一生幸せな夢を見せることは出来る。現実は何も変わらないがな」と説明する。「……ダメだ!!それは頼めない」俺が言うとホノカは、「私をここに引き止めるならもっと面白いものを見せてくれ」と溜息をつく。「……わかった」俺は静かに答える。ベッドの上に座り、下を向く。俺のMPは確実に減っていた。サユリも、ホノカも。俺を違うベクトルで追い詰めていく。特にサユリは厄介だ。俺はサユリに反論なんて出来ない、むしろサユリに何をされようが身体は喜びの声をあげる。俺はサユリをどうするべきだろうか。サユリのあの狂気にさえ欲情してしまう俺にどれだけ変態なんだと自己嫌悪を覚える。サユリになら何をされたっていい、辱めを受けたっていい、上等だ。だけど、サユリが何を抱えているのか俺は知りたい、あいつが普段何を抱えているのか、真実を知ったって俺はサユリを否定しない。……否定しないと言うのに。視界が揺らぐ。少し疲れたのかもしれない。俺はベッドに寝っ転がる。食欲もあまりない。ベッドに寝っ転がる俺を見たホノカは、「情けない。もっとキョースケのように上手くやれよ」と吐き捨てた。




