三十三話『聖歌』
事が済んだ後。俺の布団を被るサユリ。サユリはひっく、ひっく、と喉を鳴らす。「カガミ……突然過ぎるよ」サユリは身体を少しぴくぴくと痙攣させながら俺を見つめる。「ごめん、止まらなかった……」頭を抱えながら謝る俺に、サユリは、「いずれはこうなるってわかってたけど!」と頬を膨らましながら言う。「あまりにも愛おしくて、華やかだったからつい」俺の言い訳に、サユリは「だからって激しいのはイヤ」と俯く。「全肯定」俺が笑顔で言うと「うぅ……」とサユリは瞳を揺らしながら黙り込む。「ねぇ。カガミのとっての私ってなに?」サユリの言葉に、俺は「大切な彼女」と答える。「ならいいんだけど」とサユリはそれ以上の言葉を続ける事を避けた。「さっさと服着なよ」服を投げ渡しては、「見られるの恥ずかしい……」と呟くサユリ。「別にもう恥ずかしいも何も無いよ」致してしまった俺からすれば、サユリが目の前で着替えていようがたいしたことはない。「着替える、着替えるから、あんまりジロジロ見ちゃダメ」恥じらうサユリに、無言でスマホのカメラを向ける。
「ねえカガミ!!!!」訴えるサユリ。「いいじゃん。俺が見るだけなんだから」俺が言うとサユリは、「わかったよ……」とその場で下着をつけたり服を着たり……。中学生の頃の俺なら耐えられないような景色だ。でも、今は違う。凝視出来るぐらいには俺も成長した。……だが、こんなことをしている場合だろうか。勢いの余りに軽率な行動をしてしまった。サユリを傷つけてなければいいが。だがサユリは俺の事全肯定するって言っていたし。俺の行動は間違って無いのだろう。なら構わないか。しっかり撮影させてもらった。「ネットにあげたりしたらぶん殴るから」というサユリに、「わかってるよ」とだけ答える。サユリは俺を見ながら「カガミって意外とSなんだね」と笑う。「お前だって誘ってるようなものだろ」と言い返しては、「でも我慢出来なくなっちゃったんだ」と俺を揶揄う。俺はサユリに鋭い視線を向ける。サユリは「……」と黙り込む。
「ねぇ、サユリ。俺に離れて欲しく無かったら俺をバカにするような真真似は辞めてよ。そうじゃないと……」サユリは確実に俺が好きだ。だからサユリは俺を否定したりしない。「うん……わかった……」小声で同意するサユリ。急激に凄まじい快感を覚える。昔の俺ならこんな風にサユリを手荒に扱ったりしなかっただろう。でも、繋ぎ止めておかなきゃいけないんだ。サユリを、俺の世界に。「いい子」俺が言うとサユリは、「カガミに嫌われるぐらいなら、なんでもする」と瞳を潤ませながら、縋るように俺の袖を握りしめた。俺は口角を上げる。完全勝利───────。なら多少強引にサユリを俺の元に引き寄せても、誰にも咎められはしないだろう。「ありがとう」サユリに優しい笑顔を向ける。サユリはどこか怯えるような目を俺に向ける。
「俺はサユリの為にこんなにも尽くしているんだ、だからサユリも俺に尽くしてくれないと不公平だよね???」怯えるサユリに子供を相手するように言っては、サユリは「うん」と頷く。そうだ。そうだサユリ。お前は俺の言葉にYESだけ言っていればいいんだ。俺の物語の中でヒロインを演じるだけでいい。無理な話ではないだろ???? たったそれだけの事だ。それだけの事が出来れば、俺はサユリへの永遠の愛を保証するよ。サユリの為なら俺はなんだってしてやれる。どんな姿にもなれる、お前に罪があるのならその罪だって背負ってみせるさ。俺はサユリが良ければ全ていいんだ。だからサユリ……サユリも俺の為に……。「ははっ、ははっ」今度は乾いた笑みを零す俺に、サユリは戸惑いを見せる。「ねえカガミ、やっぱり最近疲れてるんじゃない??? 壊れる前に休んで……」サユリの言葉に、俺は少しの苛立ちを覚える。
「……全て、全てお前の為に生きてるんだ、お前が俺に奉仕すると言うのなら俺は休息を得る事が出来る、言葉には責任を持てサユリ、俺に休んでと言っていいのは俺に絶対服従出来る奴だけだ」衝動的に湧き出るいくつものセリフ。昔の俺なら絶対に言わなかったであろう言葉が息を吐くように飛び出す。完全にリミッターが外れている。むしろリミッターなどいらないとさえ思えてくる。「ッ……カガミ……」俺の名前を弱々しい声で呼ぶサユリ。「俺が信じられるものはサユリしかないんだ………お願いだから……俺の理想のサユリのままでいてくれ」俺の必死な訴えに、サユリは「私は変わらないよ」と都合のいい言葉を吐いた。「何があっても、カガミがいい」俺を抱き締めるサユリの声は、どこか寂しげで、震えていた。俺の脳内では祝福の聖歌が流れる。オルガン、聖歌隊の歌声、イエス・キリストの像、十字架、ステンドグラスの窓。
そんな雰囲気を感じとれる程、俺にとって都合の良すぎる展開に全身で快楽を覚える。サユリが俺に献身する道を選んだ。何があっても俺がいいと言ってくれた。サユリは絶対に浮気しない。サユリは絶対に俺の元から離れない。それはもう確約された事実だ。俺は既にサユリの「なんでもいい」という言葉も聞いている。なんでもいい。何があっても俺がいい。嫌われるぐらいならなんでもする。夢でも見ているのだろうか? あまりの気持ちよさに飛んでしまいそうだ、これは、これは、今夜の殺人はきっと捗るだろう。殺人に"楽しみ"なんて気持ちも僅かに湧き上がってくる。サユリは間違いなく殺している俺でもいいって言ったんだ。そんなの好都合じゃないか。全ての神に感謝だな。やはり人間は救われる!!!!!
俺みたいな苦労した人間はいずれ報われなければならないんだ、人間は皆報われるために生まれてきた。なのに理不尽な理由で死んでこの世からリタイアする。なら何事も効率的に人生を歩まなければならない。無駄な苦労なんてしている場合じゃないんだ。人生は百年前後しか用意されてない。何をするかは自分次第だ。なら、全てサユリの為に生きるしか無いじゃないか。サユリも俺の為に生きると言ってくれている訳だし。最高だな。抱き締められながら、「好き……サユリ……」と愛の言葉を囁く。サユリも、「カガミ……好き」と力強く俺を抱き締める。サユリに抱き締められると強い安心感を覚える。嗚呼……やはり。やはり俺はいつまでもサユリの事が好きなんだな。時には手荒に扱ってしまうこともあるけど、それは好きの裏返しなんだ、だから……理解してくれ……。サユリ……。




