三十二話『無償の愛』
サユリとの帰り道、「誤解解く事は出来なかった……」と告げる。そんな役たたずの俺にサユリは、「いいんだよ」とこの世の全てを浄化するような笑みを浮かべる。世の中がいくら汚くたって、欲望や汚職にまみれていたって、俺にはサユリがいればそれでいい。サユリ、サユリ、サユリ、脳味噌がもうサユリの事でいっぱいになる。お前さえいてくれればいいんだよ。サユリの顔をぼーっと眺める。「ねえ、私が疑われたままいじめの主犯って事にされたらどうしよう」不安そうな表情で俺の腕に抱き着くサユリ。何も出来ない俺は、「その時は一緒に罪を背負ってあげる」と優しく微笑みサユリの頭を撫でた。「無実なんだから堂々としていればいい」とサユリに言っては、「うん」と頷く。サユリから暖かな温度を感じる。イチャイチャしながら俺の家の前まで来ては、「じゃあね」と不安げな表情でサユリが立ち去ろうとするものだから、俺はついついその唇を奪い取ってしまう。
「ん"ッ……」サユリは俺の背中に腕を回してそのキスに答える。唇を離せば、「ちょッ、いきなり……」と照れるサユリ。「いいだろ? 彼氏なんだから」と俺が爽やかに言っては、サユリは「惚れ直しちゃうよ???」と恥じらいながら俺のほうを見つめる。確か今日は母さんも外出でいないし父さんもいないはず。ホノカはどこにいるのだろう。「来て」俺はサユリを連れて家の中に入る。サユリは「……」と黙り込む。階段を二人で上がり、俺の部屋にサユリを招き入れる。「カガミ」俺の名前を呼ぶサユリ。俺は「ここなら落ち着くでしょ?」とベッドに座りサユリを見上げながら言った。サユリは「うん」と頷いた後、「あのね」と口を開く。「なに?」俺が問いかけると、サユリは「ミサが段々悪い子になってるの……」と小声で言った。
そしてサユリは証拠の動画を見せる。『お前家が寺なんだろォ!? だったら般若心経いまここで全部読み上げて私たち払ってみろよ!!!! 南無してみろよ!!!! お前仏本当に信じてんのか!!!????』倉庫裏で怒鳴りながらユリカを何度も蹴り飛ばすミサ。『できませんッ!!!!! そんな事できないッ!!!!! 私は僧侶じゃない!!!!』倒れながら首を必死に横に振るユリカ。取り巻きたちが『日本はそもそも神道なんだよ!!!! 神信じてんだよ!! お前神様信じてねえのかよ!! 勝手に即身仏にでもなっとけハゲェ!!!!!』と荒々しい暴言をユリカにかける。「……なあ、サユリ。なんでこの動画持ってるんだ」サユリに問いかけると、サユリは「ミサに貰ったから証拠として残してある」と答えた。さらにその動画には続きがある。
『本郷寺の変~~~!!!!』取り巻きたちがユリカを煽りながら芸人の踊りを披露し、『ぎゃははははは!!!!!』とミサが爆笑する。その後も画面が何回も揺れながら、最後は『辞めて!!!!!!』と悲痛なユリカの叫びと共に画面が真っ暗になる。その映像を見せたサユリは、「やっぱり……先生に見せた方が……」と悩む。そんな事をしたらミサとサユリの仲が悪くなってしまう。そう思った俺は、「一応映像貰っていいかな?」と笑顔でサユリに言った。サユリは「わかった……」と頷き、俺のスマホに動画を転送する。「カガミ、カガミなら私を守ってくれるよね?」と可愛らしい声で問いかけるサユリ。俺は「当然だ」と即答し、サユリに片手を差し出した。「なに」サユリの言葉に、俺は「約束の握手」と微笑む。
サユリは俺の手を取ると、「なんだか子供みたい」と目を逸らした。離れる手と手。「そうかもしれないな」参ったような笑みを浮かべたあと、「でも、完全にサユリのこと守りきれてなくてまだまだ未熟だなって」と少し落ち込むような素振りを見せる。するとサユリは「ううん」と首を横に振った。そして、「カガミは生きてるだけでいいんだよ」と俺を肯定する言葉をかける。その言葉が欲しかった。思い通りだ。やはりサユリは俺の彼女。俺の全てを肯定してくれる立派な存在。「ねえ、サユリ」俺は少しの狂気を纏いながら、サユリに告げる。サユリもオーラの変化に気づいたのか、俺を見上げる。「俺のためだけに生きてよ」俺の提案にサユリは、「なにを言い出すの」と声を掠れさせる。「出来るでしょ???」俺はベッドから立ち上がり、サユリに顔を近付け、顎をクイッと持ち上げる。
「サユリに頼まれた事はなんでもする。だから、サユリは俺の事一生全肯定だけして」俺の大胆な欲求に、サユリは瞳を揺らした。「……カガ……ミ?」サユリは言葉を詰まらせる。「ね?」俺が少し圧をかけながら言っては、「それって、カガミは私にどうされたいの」とサユリは呟く。「だから言ってるじゃん、全肯定されたいって」俺が言うとサユリは、「私、今までずっと全肯定してきたよね?」と少し強気に言葉を返す。俺の神聖なサユリは、俺にたいしてそんな事しない。「もっと欲しいんだ」出来るだけ、可愛らしい声で、少し甘えん坊な男を演じる。サユリは「……」と俺に疑いの目を向けながら、「……いいよ」と頷く。「なんでもいい」サユリの答えに、俺は口角を上げる。少々強引だが、最高峰の愛の約束。
「そうだ、これこそ愛だ」俺は笑いを堪えきれない。「これこそ本物の愛だ」語り出す俺に、サユリは「え……?」と首を傾げる。「無条件に愛し、無条件に愛される。これこそが俺の求めていた真実の愛!!!! 今日、今、この瞬間、やっと証明された、やっぱりサユリは俺の本物の彼女だ」俺が高笑いを上げると、「ちょっとカガミ???」とサユリは動揺する。「好き、サユリ」俺はサユリをその場に強く押し倒す。「ちょっと、ちょっと……」サユリは床の冷たさを感じながら目を逸らす。そして勢い余って───。




