三十一話『秒読み』
心を弾ませながら、最愛の人と顔を合わせる。「おはよう、サユリ」俺が家の前でサユリに声をかけると、サユリも「おはよ」と笑顔で返す。並びながら歩いていると、サユリが「進路…どうしよう」と俯きながら呟く。「まだ決まって無いのか?」俺がサユリに言うと、サユリは「就職か…そのまま大学か…」と真剣な表情を浮かべる。「うちは大学付属の学校なんだから、そのまま進学するのも────」と俺が言いかけると、サユリは「じゃあ進学した先は?」と続ける。俺は「…」と黙り込む。「将来の夢、何も決まらないや…。ただ、カガミがそばにいてくれたらって…それ以外の将来像が何も見えないの」サユリの真剣な悩みにも、俺は喜びを感じてしまう。俺がそばにいたらなんでもいい。か。その言葉が真実だといいんだが。「俺はサユリから離れる気は無いよ。だからサユリの好きな道を選べばいい」俺が言うと、サユリは「そうだね、まだ時間はあるんだし考えとくよ」と笑顔を見せる。
そんなサユリに、唐突だが気になっていた事を聞いてみる。「ねえ、サユリ。俺に隠し事してない?」以前サユリにも聞かれた質問。サユリを疑っているわけじゃない。でも、試したいんだ。事実を。俺はまっすぐサユリを見つめる。サユリは「ううん、どうして急に?」と首を傾げる。そのサラッとした言い方。確実にサユリは何もしていない。シロだ。俺は心から良かったと安堵する。「いや、最近サユリと帰れない日が多かったからさ」俺が言うとサユリは、「ごめんね???生徒会のお手伝いに行ってたの」と優しい声で話す。なら仕方ないか。俺は頷く。「それは生徒会になりたいからか?」俺がサユリに問うと、サユリは俯きながら「う、うん…」と呟いた。「いいんじゃない」俺はサユリを全肯定する。「生徒会になりたいなんて立派じゃん」
俺が一歩先を歩きながらサユリに言っては、サユリは「ミサも次の選挙で生徒会に入りたいって言ってるから、私も一緒に」と語った。「ミサ???あいつが生徒会になったらいじめのこととか全部お前のせいにされるんじゃ…それにお前だって前ミサに酷い事言われてただろ、なぜそんなに…」俺がサユリを心配すると、サユリは「だってミサは私の友達だもん…!!!!」と言い切った。「それに、あれは本当にいじめじゃないし、ミサが言い方きついだけで、ユリカだって伝えたらわかってくれるよ!」こちらに訴えてくるサユリに、俺は「そうか…」と何も言い返せなくなる。ミサは確かに言い方がきつい。ユリカが誤解してるのだろう。サユリがいじめに関与するなんて、そんな事は確実に無いんだし。
「でもね、先生も最近勘違いしてるの」サユリはそう言うと、上目遣いで俺に訴える。「カガミ、お願い。岸田先生の誤解を解いて!」サユリのお願いは断れるはずがない。「わかったよ」俺が答えると、サユリは少し笑ったような気がした。その後も昨日見たバラエティ番組の名探偵の話、芸能人のゴシップニュース、サユリの好きな音楽などなどについて話しているとあっという間に門の前まで来る。門前でスーツの男たちがインカムを付けながら何やら俺の方を見ていたがそれは現状気にしない。さて、岸田先生の誤解を解く。と言っても何からするべきだろうか???俺が出来ることは限られているような。
「おはよ」適当に教室にいる奴らと挨拶して自分の席に座る。「おーい弐式」後ろの席から俺の首を引っ張る大柄の男子生徒・分倍河原。俺はバランスを崩して転びそうになる。「なんだよ分倍河原」席を近づけながら少しキレ気味に言うと、「ヘルドルノートって知ってる?」と耳打ちしてくる。「はぁ???」俺が分倍河原に問うと、「ヘルノートってアニメにちなんで事件とか晒してるSNSで有名なインフルエンサー。」分倍河原の説明に、「興味無いね」とキッパリ答える。分倍河原は、「そこに逃走する後ろ姿の連続殺人犯の映像がばっちり映ってるんだよ!!!お前に雰囲気似てね??」とスマホの画面を見せてくる。「風評被害だ、」俺が言うと分倍河原は、「靴を履いて160cm前後って事は犯人はもっと小さい可能性がある。となれば、ちょうどお前ぐらいじゃないか~?」とニヤニヤしながら俺の顔を覗き込む。なるほど、つまり朝、門の前に居た奴らは情報を聞きつけて俺を追っていた警察って訳か、問題が山積みだ。どうする。
「人を殺人犯扱いしないでくれ、それに席が前後ってだけでたいして仲良くもないだろ俺たち。失礼じゃないか?」分倍河原に言っては、分倍河原は「冗談を冗談を受け取れねえんだなカガミって」と鼻で笑う。本当に失礼な奴だ。常識というものを身につけてない。親に躾されなかったんだろうか?可哀想な奴だな。でもヘルドルノートか。覚えとかないとまずい。そんな事を考えていると、教室に担任の岸田先生が入ってくる。「おーい、揃ってるかー」岸田先生が言うと、生徒が一斉に正面を向く。「今日は大切な話がある。心して聞くように」岸田先生の言葉の後、しんみりした空気が流れる。「どうやら本校、国立創集院大学付属、創集院中高一貫校の例だけでいじめと思われる例が二件発覚している。一件目は大我大夢の死因にも大きく関与している。上級生に脅迫されて被害者が万引きや犯罪行為に及んでいるものだ、上級生の中には逮捕された例もある。上級生から脅迫されたら担任に相談した後、学年主任にも相談するように。そしてもう一件目。お前ら本当にしっかりしてくれよ。匿名でいじめの相談が入ってる。それもこのクラスだ。今まで気づけなくて悪かった」岸田先生の報告に、沈黙から一転、ざわざわと近い席の人と話し出すクラスメイト達。「なあ弐式、いじめなんて見たことあるか?」という分倍河原に、「さあ…」とあえて何も言及しない俺。恐らく、ミサの取り巻きとユリカの事だろう。ユリカを流し目で見ると、下を向いて黙り込んでいる。「大我の事も何も知らなかった」と反省するように呟く分倍河原に、「当事者じゃない俺たちが下手に介入する事じゃない」と教える。「うん…」分倍河原は素直に俺の言葉を受け入れる。学校側にいじめがある事が確認された。ユリカは救われるのだろうか。その日の授業はなんだか浮かない気持ちのまま終わった。いじめ問題でこの学校が世間に注目されるのは本望ではない。俺が殺人事件の犯人だとバレてしまう原因にもなりかねない。
…まずは。授業終わりの岸田先生に「すみません」と話しかける。「突然つかぬ事をお伺いしますが、さゆ…笛野さんがいじめの件で疑われてるって本当ですか??」俺の問いに、岸田先生は「証言には鳥羽美沙、笛野小百合をはじめとするその他数名の名前が上がっているが、なんだ」とこちらを見る。「笛野さんは一切いじめに関与していないと主張していました。なので彼女に疑いの目を向けるのは辞めて頂けませんか」俺は岸田先生に伝えるが、岸田先生は「被害者が確かに言ってるんだ。現状、彼女らが犯人であると言う証拠も、犯人でないという証拠も一切ない。白黒がはっきりするまではどうしようも出来ない。教員としては加害者より被害者に寄り添うべきだ」と少し疲れているような表情で言った。「そうですか…申し訳ございません、変なお願いしてしまって」謝罪するが、「お前は確か笛野と幼なじみなんだよな。気にするのは当然だ」と岸田先生は俺を責めることは無かった。「まさかこの学校でいじめ問題が発覚するなんて」資料を見ながら椅子をくるっと回す岸田先生。「僕も注意しておきます。」岸田先生に一礼して校舎を立ち去る。そして門の前で暫くサユリを待っていると、「じゃあな弐式」と自転車に乗っている分倍河原に声をかけられる。俺も「じゃあな、」と分倍河原に手を振っては、さらに五分後。サユリが「ごめん!!!!」と謝りながら駆け寄ってきた。やっぱり、俺の彼女は誰よりも可愛い。いじめなんてしてるはずないんだ。




