三話『序章』
「お母さんに連絡入れておかないと……」サユリはケータイを開いてメールを入力する。「厳しいよな、サユリの母さん」俺はサユリがメールを入力しているところを覗き込む。「うん……」とサユリは言及を避けて俯く。「何かあれば俺に言ってくれ。相談ぐらいは乗ってやる」俺は俯くサユリを優しく撫でた。サユリは「ありがと……」と何かを考えるように呟く。家の前まで辿り着き、扉を開けて玄関に入る。「母さん、ただいま」「おかえりカガミ。あら?サユリちゃんじゃない、また来てくれたのね~」お玉を片手にサユリを見て嬉しそうにキッチンへ向かう母さん。
サユリは、「こんばんは、お邪魔します」と軽く挨拶して、靴とスリッパを履き替える。バタバタバタ。と妹の弐式花蓮もやってきて、「お兄ちゃんお帰り!サユちゃんもやっほ~!」と気さくに声をかける。サユリは「こんばんは~」と背を低くしてカレンに目線を合わせながら返事する。カレンは、「お兄ちゃん!!!早く一緒にご飯食べよ~!今日はカレーだよ!!」と俺に抱きつく。「そんなにはしゃがなくても大丈夫」と俺はカレンを見ながら優しい声色で言った。「……」ムスッとサユリはどこかまた不機嫌そうな表情を浮かべる。「ご飯出来てるわよ~」盛りつけを済ませた母さんは、「食べて食べて♡」と三人を座らせる。「あれ、今日お父様はいらっしゃらないのですか?」父さんの不在に気づいたサユリが母さんに問う。
「今日は仕事で帰りが遅いみたいで……」と俺が割り込んで答えた。母さんも、「そういうこと」とウィンクする。「いっただきまーす!」カレンはスプーンを握り、豪快にカレーを食らう。「いただきます」俺とサユリ、母さんは、カレンより遅れて料理に手をつける。「そんなに焦らなくても……誰も取らないんだから」カレンに注意する俺を見て、サユリは「うふふ」と微笑む。カレンは「だって美味しいものは一番に食べたいじゃ~ん」と美味しい料理を前に嬉しそうな表情を浮かべる。「はーいはーい、聞いて!!!」と俺とサユリの二人を見るカレン。母さんは、「あんまり二人の邪魔しちゃダメよ」とカレンに言うが、カレンは「いいじゃない、私とお兄ちゃんの仲だもん!」とあざとく答えた。
「なぁに?」サユリがカレンに問うと、カレンは「あのねあのね、今日ね、八人目の彼氏が出来たの!!!」意気揚々と俺とサユリに伝える。サユリは、「は、八人目……」と目を丸くする。「いいでしょ~?」とカレン。母さんは、「八人全員愛せるの??あんまり増やしちゃダメよ、男の子たち可哀想だから」と絶対にそこじゃないツッコミを入れる。カレンは、「あっちが好きって言ってくれるんだから何やってもいいでしょ???」ととんでもないクズ発言をした。芸能人だったら確実に週刊誌に撮られてたな。「次の彼氏はお兄ちゃんにしようかな~」ニヤニヤとサユリの反応を試すように揶揄うカレン。「あのなぁ。俺にはもうサユリって大事な彼女がいて……」と言うが、サユリは気分が悪くなったのか立ち上がる。
「サユリちゃん?」母さんは立ち上がるサユリを見上げながら心配する。「ちょ、ちょっと外行ってくる……」急な出来事に、「サユリ!?」と声をかけた後、俺はカレンを睨む。俺に睨まれたカレンは、ヒィッ!と怯えつつ、「やり過ぎちゃった?」と母さんに問う。母さんは「反省しなさい、恋人同士の邪魔しちゃダメよ」とカレンを叱る。カレンは、「はぁい」と大人しくなる。食事を中断して立ち上がり、玄関の前で「どこ行くんだよ!」とサユリの腕を掴み引き止める。「ごめん、ちょっとコンビニ行ってくるだけだから」と俯きながら答えるサユリ。「コ、コンビニ???食事中に……」と俺が言うが、「行かなきゃダメなの!!!」と声を荒らげサユリは俺の腕を振り払い飛び出してしまった。
遅れてきたカレンが「サユちゃん大丈夫?」と首を傾げる。「コンビニ行ってくるだけらしい……」と俺が答えるとカレンは「良かった……怒ったわけじゃないのね……」と安堵するが、「食事中にコンビニ!?」と驚く。残った母さん、カレンと食事を食べながらサユリを待つ。二十分、三十分してもサユリが帰ってこない。これは不自然だ。なんだか妙な胸騒ぎもする。「ねえ、お兄ちゃん。サユちゃんそろそろ探しに行った方がいいんじゃないの……」サユリの事を心配するカレン。「すぐ帰るから!!!!!」慌てて街へ飛び出す俺。何も考えず一番近いコンビニの方向へ走り出す。本当にコンビニにいるのだろうか??家の近所のコンビニに辿り着くがサユリの姿は無い。
路地裏に入ると、サユリが何やら長い緑髪の女の子と何やら話をしていた。普通に会話をしていると思った俺だったが、「辞めて……私は何もしてない!!無実よ!!」壁まで追いやられ、首を横に振りながら許しを乞うサユリを目撃し、事態は一変する。どうやらただ事じゃないということは大して頭が良くない俺でも感じとれる。「おい!!!俺のサユリに何やってんだ!!」女の子は俺の声に気づくと、逃走する。「大丈夫か???」俺が力無く女の子座りになるサユリを支えると、サユリは「さっきの女の子に……首……絞められ……」と恐怖に震えたような表情を浮かべる。「ッチ……」サユリを傷つけられた事実に対し苛立ちを覚えた俺は舌打ちして、「待て!!!!」と女の子がいなくなった方向を追いかけた。
息を切らしながら、女の子がいなくなった方向を駆け抜ける。「こっちだぞ」と声をかけられた先は、イエス・キリストの像が静かに俺と女の子を見守る公園だった。女の子は十字架のネックレスを片手に「お前は真実の愛を信じるか????」と問いかける。「……」ゴクリと息を飲む俺。女の子は俺に催眠術をかけるようにユラユラと十字架のネックレスを揺らす。「お前にも素質があるみたいだな???」ニヤリと笑う女の子に、俺は「素質……?」と固まる。俺にグイッ、と顔を近づける女の子。「綺麗な目をした可愛らしい坊やだ、あいつに似ているな」女の子は、俺の顎を持ち上げながら言う。俺は「辞めろ!!」と女の子から離れる。「俺の彼女に何をした」女の子に静かな声で問うと、女の子は「全く」とため息をつく。「何って、私が任務を遂行しようとしたらお前が邪魔してきたんじゃないか」女の子は不気味に微笑んだ。




