二十七話『告白』
昼食を摂り終えた二人は、お土産屋の袋を両手に持ち水族館の中を出る。出口で俺を見ながら「楽しかったね」と笑うサユリ。サユリからその言葉が聞けるなら俺はここまで来た意味があったと言える。サユリは、「…」と、緑髪でロングヘアの高校生ぐらいの女の子と、その子と同い年ぐらいの男の子が並んで歩いているほうを見つめる。「どうした?」俺が問いかけると、サユリは、「すごい美人さんが歩いてるなって…」と呟く。「そうか?」俺が言うと、サユリは「え?カガミってあんな美人さんが歩いてても興味無いの?」と俺を不思議そうに見つめる。「一々人の顔なんて覚えてられないよ」俺の言葉にサユリは、「でもカガミって私の行動とかは気持ち悪いぐらいよく覚えてるよね」と鋭い視線を向ける。ギクッ。俺は図星を突かれ「ぁ、ああ…」と言葉を詰まらせる。「私が前髪数センチ切っただけの時もすぐ気づいて」「私が全く同じ柄だけど新しい靴下を買った時も新品ってすぐわかってたし」「私が寝坊してブラジャーつける時間無くてスポーツブラで学校行った時もすぐ…!!!」と次々前例を出して俺を追い詰めるサユリ。「いや、それは!!!!!」俺が露骨に焦ると、サユリはグッと俺に顔を近づける。「本当は私の事かなり好きでしょ」と問いかけるサユリに、俺は「ぁ、いやっ、その、ぁ、」と言葉を選べなくなる。「いくら頭良くたってこういう時に適切な判断出来ない男はダメね!!!私が何を求めてるかぐらい察しなさい!」サユリはそういうと、時計台の方向へ走り出す。「待ってくれサユリ!!」俺がサユリを追いかけると同時に、緑髪でロングヘアの女の子がこちらに流し目を向けた気がした。
「ちょっとサユリ、!!!」俺が息を切らしながら走ると、サユリは、「こっちこっち~!」とピンピンした様子でこちらに手を振る。「そんなんじゃ大好きな女の子にも逃げられちゃうわよー!!!」と言うサユリの前で、体力が限界に達し「ゼェーッ…」と息を吐きながら前屈みになる。「ちょっとカガミ!」サユリが俺を支えに来る。「もうっ、」サユリは俺の身体を起こすと、「体力不足。」と一言俺に言い放つ。「仕方ないだろ…運動嫌いなんだから…」と俺が言うと、サユリは「そんなんじゃ警察なっても犯人追跡出来ないじゃない」とため息を吐く。「警察になる頃には体力つけるよ」俺が言うと、「警察になる頃には。じゃダメ。高校生の頃には体力つけとかないと」とサユリは腕を組み、真剣な目で俺をじっと見つめた。「そうなるといいけどな」そう言って立ち上がり、時計台を見上げる。この時計台はずっとここで秒針を刻んできたんだ。そんな威厳を感じた。サユリも、時計台に視線を向ける。
なんだか気持ちが昂った俺は、サユリに顔を向ける。「なに?」サユリは突然俺に見つめられ、奇妙そうな表情を浮かべる。割と混雑してる。雰囲気も無い。場所も普通の時計台の前。客たちの声でザワザワしてる。そんな下準備も何も無い環境。数時間前のサユリの言葉が効いた俺は、調子に乗って口を滑らせる。「俺はッ…ずっと前から…」俺が最後まで言おうとすると、サユリが「好きだったんでしょ?」と肝心なセリフを奪う。「なっ、なんで勝手に言うんだよ!!!」俺が顔を真っ赤にしながらサユリに言っては、「こんな何の脈絡も無く改まって言わないでよ!!!」と怒られる。「で、で、その、返事。返事は?」と俺が問いかけると、サユリは、「んふふ、」と微笑むばかり。「言ってくれよ!」俺が涙目で訴えるとサユリは、俺の背中に腕を回しながら、「すーき、」と優しい声で返事した。
その瞬間に、俺の脳は溶かされる。ドロドロに溶けて、何も考えることが出来ない。ただ、サユリが本当に俺のサユリになった。その事実だけが静かに残る。理解出来たのは数秒後。「まじかよ…」俺はまた座り込み頭を抱える。到底本気でサユリが俺の事を好きだなんて思ってなかったから。「ずっとずっと待ってたのに」と笑うサユリ。俺はサユリの方を見ることが出来ない。全身の体温が熱くなっているのを感じた。「今日からよろしくね、"彼氏"のカガミ♡」と甘いセリフを吐くサユリ。俺はよろけながら立ち上がり、「嗚呼…」と答える。「ほ、本当に俺でいいの??」とサユリに問うと、サユリは、「カガミ以外考えられないよ、」と勝ち誇ったような表情を浮かべた。「サユリ……」俺はサユリに視線を奪われる。沈黙が続く。今、ここで彼女の唇を奪うことが出来れば…。その希望的観測は、「カガミ~~~!!!!!」空気を読まないヒロムの大声によって掻き消された。
俺とサユリは反射的にそっぽを向く。ヒロムは「え、なに」と動揺するが、サユリと繋がれた手は何があったかを静かに証明する。「ひょっとして」ニヤニヤするヒロム。「ちがう!!!!!!」俺がサユリの手を離しながら必死に誤魔化しては、後から来たミサも「ひょっとして、カップル成立ぅ~~???」とサユリを揶揄う。サユリは少し恥じらいながらも俺の腕にしがみつき、「そうよ!!!!絶対誰にもカガミの事渡さないんだから!!!」と宣言した。堂々たるサユリの振る舞いに、ミサとヒロムは「おめでとうー!!!!!」「よかったなカガミー!!!」と祝福の声をあげる。その様子を見ていた街の人たちがチラチラとこちらを見る。「やめろやめろ!!!!!!恥ずかしいって」俺は慌てるがサユリが腕にしがみついて離れようとしない。「照れるなって~~~。お熱いですなぁ」自分ごとのように嬉しそうなヒロムに、俺は「はぁ…」とため息を吐く。サユリの腕を振りほどいては、「さっさと中行こう、資料館になってるみたいだし」と照れ隠しをしながら先頭に立って時計台の中へと歩いていくのだった。




