二十四話『宴』
風呂から帰ってきた俺とヒロムは、風呂上がりのサユリと合流する。「いまミサがお風呂入ってるからね」サユリの言葉に、「おう」と返すヒロム。「なんかビデオ見ようぜ」ヒロムはテレビを付けると、某猫型ロボットアニメのディスクを入れた。「この年齢になってまでそんなもの見るのか」鼻で笑う俺に対し、ヒロムは「まだヒーローに憧れてるカガミに言われたくありませーん」と返す。簡単に論破されてしまった俺に、ギクッと衝撃が走る。「カガミって意外とレスバ弱いよな」図星をついたかのように言うヒロムに、「べっつに…」と返す言葉が見当たらない俺。
「未来から来た猫型ロボットなんてめちゃくちゃだ、論理的じゃないし現実味も無い」俺が言うと、ヒロムは「カガミはこの世の全てが論理で片付くと思ってるの??」と問いかける。「自分の意思を持つAIが可能だとしても、猫型でそれに児童に寄り添いながら画期的な道具まで、場面ごとに合わせて選択出来るAIなんて人間に作れるか??俺は無理だと思う」と俺が断定すると、ヒロムは「それって、現時点でしょ?百年後にはどうなってるかわからないじゃない、実際百年後には計り知れないほど科学は発展してると思うよ。カガミって頭がいいのに視野が狭いなぁ」と笑った。その指摘に、俺は心の中で驚く。ひょっとして、今現在に囚われすぎて未来を予見する力がかなり欠けているのかもしれない、と気づかされる。「とりあえず現実の事は忘れて一緒に見よ」ヒロムがテレビに釘付けになる中、俺も隣で画面に視線を向ける。
俺とヒロムがアニメを見ている最中に、ミサが風呂から上がってくる。それと同時に、サユリはミサにバスタオルを手渡す。「ありがと!」ミサが微笑むと、サユリは「はい、牛乳!飲むって言ってたもんね?」とミサに牛乳を手渡す。ミサはそんなサユリを見ながら、「サユリは本当に気が利くね~」と笑った。ヒロムは、「一緒にビデオ見ようぜ~!!!」と女子二人を手招きする。有名な猫型ロボットのアニメ。その日俺たちが見た話は、主人公の少年が自分だけの国を作りたいと猫型ロボットに提案する。猫型ロボットはひみつ道具を出して主人公の建国をサポート。だがこの主人公は何故かいつも上手くいかない。最後の最後で状況がひっくり返される。そもそも、建国しようなんて考えが幼稚なんじゃないか、って俺は思うけど、感性が違うのかもしれない。だって、すぐ隣を見れば、ヒロムも、ミサも、サユリも、食い入るようにアニメの世界に入り込んでいる。彼らにとってロマンとは、そういう論理では語れない領域にあるものの事を示すのだろうか。
お菓子をつまみながらアニメを見終わった俺たちは、ヒロムの「もう遅いし寝る支度しようか」という言葉に続き、ベッドの準備を進める。「本当に楽しい旅行だね、ヒロムがいなかったら体験出来なかったなぁ」サユリの言葉に、ヒロムは「ぁ、ありがと」と恥ずかしそうに答える。俺はそんなヒロムに、わかってるな?と言わんばかりの視線を向ける。ヒロムは気まずそうに俺から目を逸らした。
電気を常夜灯に切り替え、ベッドに入ると、遅れてヒロムが「カガミ~~」と声を弾ませ、嬉しそうに飛び込んできた。「ちょ、辞め、近…!!!!!」俺が布団の中でゴソゴソ動いたのを見たミサが、「ちょっと男子二人!!辞めてよ!!!布団の中で変なことするの!!!寝られないわ!!!」と声をあげる。ヒロムは「大丈夫、何もしてない~~」と言うが、距離感がおかしいので普通に抱き締めてくる。「カガミ~~」ニヤニヤしながら俺の名前を呼ぶヒロム。もちろん気持ち悪いので彼とは反対方向を向く。「ちょっとそっぽ向かないでよ!」と言うヒロムに、「俺だって寝られないんだよ」と呟く。ヒロムは「そーだ」といたずらに笑うと、俺の全身を擽る。「ちょ、ゃ、やめッ!!!ひゃッ!ひゃはッ!!」無意識に笑ってしまえば、ミサが再び「夜中にじゃれるな!!!」と大声を上げた。「まあまあミサ、そう怒らないであげて仲良しなのはいい事だよ」とサユリが宥めると、ミサは「全く…」とため息をつきながら布団を被り目を閉じた。「ヒロム、本当にやめろ」俺が耳打ちでヒロムに言うが、ヒロムは「あ~カガミからはじめてこんな声聞いた」と反省の色を見せない。「カガミって結構声高いよね。声変わりまだ来ないの?」と問うヒロムに、俺は「声変わり来なくて悪かったな」と冷たく答える。「弟みたいだよ」と笑うヒロムの股間を足蹴りした後、「おやすみ」と俺はヒロムと反対を向いたまま眠りにつく。ヒロムは「えっ!?カガミもう寝るの!?」と言うが、俺の意識はもう夢の中だった。
夢の中。まず最初に感じたのは、甘い香り。靡く長い髪の少女が、俺の目の前を通り過ぎる。でも、現実とは違う制服で、すぐに夢の中だということを理解する。その少女はサユリによく似ているが、サユリよりも少し大きくて、色っぽい。その少女を追いかけると、俺に気づいたのか、振り返って柔らかく微笑んだ。「カガミ。絶対ダメだよ。」確かにサユリの声だった。でも、本人じゃない。なんだ、この夢は。
俺が目覚める頃、サユリも、ヒロムも、ミサも着替えが済んでいて俺の顔を覗き込んでいた。「うわぁぁぁ!?!?」驚いた俺が声をあげながら起き上がると、「可愛い寝顔ずっと晒してたわよ」とサユリが言った。ミサも、「顔だけは本当にイケメンなんだから」と頷く。ヒロムは、「早く準備しろ、カガミ!」と俺に片手を差し出した。「うんっ!!!」ヒロムの手を取りベッドから立ち上がる。今日もまたいい一日がはじまりそうだ。




