十九話『欺けるレベルの本気のベール』
SNSで死にたいと嘆いている人。その中でもまずは頭が悪そうな女を対象に、"死ぬ前に俺に会いに来てくれませんか。"とメッセージを送る。何人から返事が来るかはわからないが、逃げられない恐怖を作り出すには鬱状態にある人間を選ぶのがいいと俺は考えた。なぜなら、極限まで追い込まれた人間の思考力はほぼゼロに近い。そこでホノカがその対象に自分の関係者以外の人間を守るために人を殺せ。と無理矢理運命を書き換えれば、対象には"生きる理由"が生まれる上、自殺する事すら許されなくなる。これは俺にしてはいいアイデアだ。「お前は死神を超越した悪魔か」ホノカのツッコミに、「ホノカ。悪魔なんてよしてよ。サユリを、周りの人間を俺の手を汚してまで守り抜いてるんだよ???なら俺は悪魔なんかじゃない。救世主だよ。俺の行動を否定するなら、それは俺と同じ状況にある当事者にならないと無意味だ。誰も俺の事なんて理解しようとしないんだ。なら、俺がどう動いたって勝手だろ???」と微笑む。これで何人かに連絡は送れた。顔合わせのその日まで俺は淡々と人を殺すだけだ。俺はベッドに寝転がり天井を見上げる。ここまでは順調だ。後は捜査の撹乱さえ出来れば俺の勝算は見えてくる。後は警察を欺いて、人を殺し続けてサユリを守る。ただそれだけだ。サユリさえそこにいてくれたら俺はもうなんでもいいんだ。俺はなにも間違ってない。まさかこの俺が警察に追われる身になるとは夢にも思ってもいなかった。これじゃあただの殺人鬼じゃないか。いや、違う。俺はそんな薄汚れた人間じゃない。俺は俺の美学で愛のために自分を犠牲にしている運命に掻き乱された可哀想な主人公だ。俺の世界はなにも間違っちゃいない。俺が生きる世界は俺こそが主役で俺が思い描く物語は誰一人邪魔する事が許されない。じゃあ俺の物語はどこから狂った??? はじめからか??? いや、それも違う。ホノカが介入してきた段階だ。それまで俺は至って普通の青春を、普通に謳歌していた高校生だったはず。なぜ俺は殺人に手を染めた? ホノカに運命を書き換えられたからだ。なぜ今になって尚殺人を続ける?
俺が人殺しを辞めればサユリが死ぬ可能性があるからだ。俺は覚悟を決めるのが遅かったから無駄にカレンもヒロムも犠牲にした。必要無い犠牲を生んだ。俺はもうそんな犠牲を繰り返したくない。もしも本当に次に死ぬ相手がサユリだったら??? そうなったら俺が生きる意味さえ無くなってしまう。それだけは……それだけは駄目だ。脳内で自問自答を繰り返す俺に、ホノカは馬鹿にするように笑みを浮かべる。「瞑想か? カガミ。悟りでも開きたいのか」「違うよ。もう眠くなってきたんだ。俺だって疲れが溜まる事ぐらいあるさ」
俺の言葉の後、ホノカは、「私ももう眠い。入れろ」とぬいぐるみを抱きしめながらベッドの中に入ってきた。俺は、はぁ、と溜息をつく。「ホノカ、女の子なんだから堂々と男の布団に上がり込むの辞めようよ」俺が注意すると、ホノカは「どうせお前は私に気など無いだろ」と冷静に答える。「まあそうなんだけど」俺はホノカに適当な言葉を返すと、布団を被り眠りにつく。気づいたらかなり寝込んでいた。カーテンの隙間から朝日の光が差し込む。「ん~……」 まだ眠くて仕方ない俺が目を擦ると、隣にはホノカが丸まって寝ていた。「キョースケ……」ホノカが謎の名前を呟くが、俺はその名前を気にもせず階段を降りる。「おはよう。父さ……」俺が父さんに声をかけると、父さんは俺の両肩を触る。「また殺人事件が起きている、お前、本当に何も知らないな?????」いつになく焦るような表情を浮かべる父さんに、母さんは「辞めなさいよ、貴方。カガミが関わってるわけ無いじゃない」とフライパンで料理を作りながら言った。
「だが、お前、カガミは昨日夜中に帰ってきてだな……それに、防犯カメラに映った犯人は20代から30代だ、カガミが黒い服を身に纏っていたらそういう風に見えなくもない……それに昨日は実際……」と父さんは俺に疑いの目を向ける。「貴方、実の息子が殺人犯だと言いたいの???」母さんの少し怒ったような声に、父さんは「だが仮にカガミを犯人とした場合、全ての辻褄が……」と思考を巡らせる。さすがは父さん。何十年も警察にいるだけあって、中々鋭い。「じゃあ、父さん。提案なんだけど。」俺は、うーんと考えるような素振りをした後、「俺の部屋調べてみる???」と問いかける。父さんは、「協力してくれるのか?」と俺を真剣な表情で見つめた。「だって自分の身の潔白は証明したいじゃない?」俺が爽やかに笑いながら言うと、父さんは「うーむ……」と考え込んだ後、「お前の部屋に行こう。」と階段を上っていった。これは、上手く父さんを誘導できたら返って最大のチャンスだ。このチャンスを俺が逃すはずない。
「カガミ。私の部下が最初に言ったんだ。」俺の部屋に入ってくると、父さんが口を開いた。「部下?」俺の問いに父さんは、「その部下は防犯カメラを一目見ただけで、映像の犯人は若く、身のこなしが軽い。しかも、このエリアの地理に詳しい。この近辺に住む、あるいは通学している若者に絞るべきだ。って言ったんだ。警察内部の関係者で事件現場の範囲に定期的に通えて、20代~30代に見えなくもない人間はカガミぐらいしかいない」と語り出す。俺は「なんで警察内部の関係者って絞ったの?」と父さんに問いかける。「毎回犯行直後に犯人はサイレンが聞こえる前に移動が出来ている。だから犯人は無線を傍受しているか、あるいはどのタイミングで通報が入り、どのルートで警察が来るかを予測できているんじゃないか。ということらしい」父さんの言葉に、「ようは容疑者の所作がプロっぽいって判断か」と俺は頷く。「でも私はそれに関しては否定したんだ。そこまで予測出来る人間が防犯カメラに映るような真似をするかと」父さんの推理を聞き、「とりあえず父さんは俺の部屋を調べれば???」と催促する。
父さんは、「悪いな、カガミ」と申し訳なさそうに部屋を調べに行く。俺は壁にもたれながらスマホで連絡を取る。父さんも間抜けだな。俺を疑いながらいま俺の一番身近にあるスマホを調べようとしないだなんて。警察もそんなものか。父さんが調べている後ろで着々と計画を進める俺。父さんは引き出しや本棚、パソコンの中身さえも調べだす。パソコンの中身に手をつけた父さんは、アニメキャラの卑猥な画像に「おおっ……」と言葉を詰まらせる。「カガミ、まさかお前こんなものを夜な夜な……」別の意味で俺を追い詰める父さんを前に、「やっ、辞めろよ!!!! それはっ、その、なんて言うか、」とあからさまに戸惑う男子高校生を演じ切る。「お前もまだまだ思春期の子供か」冷静な態度をとる父さんに、「はぁ、」と安堵するような仕草を見せる。……あまりにもわざとらしかったか??? 部屋をある程度確認した父さんは、「おかしいものは何も無い……。」と呟いた。「当然だよ、だって俺は何も罪を犯してないんだから。」父さんを納得させては、「満足した?」と優しい声で話しかける。父さんは「嗚呼、」と頷き、俺の部屋から出て行った。参ったものだ。家族に警察がいるんじゃ、油断出来ないな。「おい、カガミ。私がいなかったらどうしていたんだ」父さんが部屋に出ていったあと、ナイフともう一台のパソコンを持ったホノカが布団から現れる。「助かったよ」俺が声をかけると、ホノカは「お前も大変だな。」と俺を憐れむように笑った。




