十八話『足音』
ホノカと二人で夜の住宅街を歩く。そこで俺はホノカにこんな問いをぶつける。「俺…いつまで殺人犯やらなければいけないんだ」俺の問いにホノカは、「さあな。私の飽きが来るまでじゃないか??」と表情を一切変えずに答える。自宅の前まで来た俺は俯く。俺はサユリを失わないために殺しを続けているはずなのに、『お前は悪者だ』と外部から指を指されているみたいで。でも俺は何度だって言ってやる。俺がこうなったのは他の何でもない。抗いきれない運命のせいだと。ホノカさえ目の前に現れなければ俺は永遠に完璧な男子高校生として青春を謳歌出来たはずだ。「お前の飽きが来るまで、か。まるで俺の物語を破壊する事を楽しんでいるようで気に食わないな」俺が言うとホノカは、「お前は立派な主人公だよ。私を退屈させない完璧な主人公だ。」と口角を上げた。
俺が家の扉を開くと、玄関には二つの靴があった。母親のものと、父親の……。嫌な予感がする。だが父さんは仕事が早く終わった日や休みの日を除いては夜遅くに帰って来ることが多い。もう大抵の人間は寝ている深夜だ。父さんだって俺が寝ていると思っているに違いない。まずいな、父さんと遭遇すると面倒な事になる。どうする? ここは一先ず引くか? 駄目だ。俺の部屋を開けられたらどちらにせよ同じだ。ならば堂々と。俺は緊張しながら息を吸う。「ただいま、父さん」Yシャツ姿でテレビを見る父さんに穏やかに話しかけた。「こんな時間にどうしたんだ、カガミ。珍しいな」父さんに問われたが、「どうって。夜風を浴びたくなったんだよ。なんだか眠れなくてさ。」と爽やかな笑みを浮かべながら返す。だが父さんは一筋縄では行かない。「うーむ……」と目の前の息子に違和感を覚えたかのように考え込む。「ねえ、父さん。俺が夜に散歩に行くってそんなに不自然かな???」俺の問いに父さんは、「……いや。不自然じゃないが。お前だってここ最近の連続殺人は知ってるだろ。危ない事にはあまり巻き込まれて欲しくないんだ。なるべく夜中に出かけるのは辞めてくれないか。カレンに続いてお前にまで万が一の事があったら」と俺を心配するような事を言う。
「大丈夫だよ。父さんは心配しすぎなんだって。」全く、俺の本音にも気づかない親が何か言っている。だが、一切説得力が無いんだよ。この親は俺が子供の頃から、"一番であれ" "完璧であれ" "誠実であれ"と繰り返してきた。俺がそのためにどれだけ苦労したかも知らずに。その上、要望通りに成し遂げたって対した報酬も与えない。少しぐらい褒めたっていいはずのに、両親は、特にこの父親は、いつも"完全体"を欲求してきた。それなのに、心配なんて口にされても。「ねえ、父さん連続殺人事件の捜査の内容、聞けないの?」俺は父さんの隣に座り顔を合わせる。父さんは、「どうしてお前が聞きたがるんだ」と俺に鋭い目を向ける。「いいじゃない、俺だって父さんみたいな警察になりたいんだ。事件の情報、少しぐらい」俺が言うと父さんは、「いや、駄目だ」と口を閉ざす。「外部には絶対漏らしてはならない事になっている。警察になりたいのなら警察の事情を理解してくれないか????」父さんの言葉に、俺は「わかったよ、父さんも苦労しているんだね。」と労いの言葉をかける。父さんは、「悪いな、カガミ。」と俺に謝った。「うん、こっちこそごめんね? じゃあ、おやすみ」俺は水を一口飲んだ後、父さんの隣から立ち上がり自室へ戻る。
自室の扉を閉めた後、浮遊するホノカに「うまく乗り切ったな」と話しかけられた。「だけど捜査情報は聞けなかった」俺が悔しそうな表情を浮かべると、ホノカは、「当然だ。警察が簡単に情報を漏らすと思っているならお前は馬鹿だ」と俺を見下しながら馬鹿にするように笑った。「出会った頃から思っていたが、やっぱり腹立つなお前」淡々と俺が言うと、ホノカは「声を荒らげること少なくなったな。理性を保ってるつもりか?」と俺に問いかける。「めんどくさいじゃない、そういうの」と答えては、俺は眠りにつかずパソコンを開く。「寝ないのか?」浮遊しながらパソコンを覗き込むホノカに、「ちょっと仕掛けようかなって」と笑ってみせる。「仕掛ける????」ホノカの言葉の後、俺は続ける。「警察は連続殺人犯を探してるんでしょ?? だったら、至る所に殺人犯がいた方がカモフラージュできるでしょ? ホノカも地獄には殺人犯が足りてないって言ってたし。ねえホノカ。他の人間の運命を書き換える事も意図的に出来るんだよね?」
ホノカは、「嗚呼。出来なくはないが。でも私がお前にその運命を背負わせたのはお前がサユリを地獄に送る事を妨害したからでなんの理由もない人間にそんな残酷な使命を」と答える。「……俺が連れてきた人間を俺と同じ運命に書き換えて。」ホノカの言葉を遮り俺が頼むと、ホノカは「お前、そんな身勝手な都合で他人を利用するのか」と目を見開く。「当然でしょ? ホノカだって身勝手な理由で俺の運命を書き換えたんだから反論は出来ないよね?」と笑った。「つまりは、仲間が欲しい。と」ホノカの言葉に、「仲間じゃないよ。」と俺は笑う。「俺が捕まりたくないだけ」傍から見れば最低な台詞に、ホノカは「どうなっても知らないからな」と溜息をついた。「じゃないと、サユリが死んじゃうんだよ。そんなの俺耐えられない。この世で俺が一番必要なのはサユリなんだ」これは命の天秤だ。多少の犠牲は仕方ない。ホノカは、「弐式火神。やはり私の目に狂いはなかったようだ」と満足そうに語る。「だからホノカも見ててよ。俺は絶対にサユリを守り抜くよ。たとえ、俺が死んだとしてもね。これは純愛なんだよ。ホノカ。純愛こそ、人間の感情が創り出した最高傑作。やっぱり俺とサユリは真実の愛で繋がってたんだ。」俺の台詞に、ホノカは「お前はそのままでいい。この世の理を知ろうだなんて思わなくていい。勘違いしたままの"人間"でいろ。カガミ」とそのままの俺を肯定した。




