十六話『ラブは0』
俺は、サユリへの気持ちに疑心暗鬼になったがサユリの表情をじっと見つめる。「サユリ。サユリは本当に俺でいいの?」俺の問いにサユリは、「なに、その迷ってるみたいな言い方」と少し歩いていった先で立ち止まる。「本気にさせたのはカガミだよ」サユリの言葉に、俺は惑わされる。「ねえカガミ、私が高校を卒業したら、お嫁さんにしてくれる?」サユリの台詞に、俺は「……」と黙り込む。今までなら二つ返事で答えたはずの台詞だ。俺はここで嫌でも勘づいてしまった。サユリを都合のいい依存先として利用している事に。この愛のような形をしたものが、本当は歪みある姿をした幻想かもしれないということに。でも、俺はそれを認めたくない。
「カガミ」期待するような表情でこちらを見つめるサユリ。「答えが出せるまで、待ってて」俺の選択に、サユリは「カガミなら即答だと思ってた」と少し俯く。「結婚するなら確実にお前を幸せにしたいから」とってつけたような台詞を吐いては、即答出来なかった自分自身にまた嫌悪する。だがサユリは「ずっと待ってるよ。十年でも二十年でもずっと、カガミが答えを出せるまで待ってる」と微笑んだ。なぜそこまでサユリは俺を肯定するんだろう。俺以上にいい男はこの世にいくらでも存在するのに。でもそんな男たちにサユリを手渡せるかと問われたら、答えはNOだ。でも俺はサユリを恋人として大切に出来ていない。ただの依存対象として見ているような……。
「カガミと離れるなんて嫌だよ」再び並んで歩き出せば、サユリがそんなことを言いながらこちらへ肩を寄せてくる。「どんなカガミでも、カガミがいいの。カガミじゃなきゃ駄目なの」サユリの主張に、俺は違和感を覚える。俺は繋いだ手を信用しきれない。「………」サユリに疑いの目を向ける。「サユリ……お前……」俺は言いかけた言葉を飲み込んだ。サユリは、「なぁに?」と問いかけるが、俺はサユリから目を逸らす。これはどっちが正しい。俺の感情はどっちが正しい。嗚呼、もうこんなに核心が持てないのなら、早く帰りたい。俺はサユリと繋がれた手を離す。ここは一先ず、試しだ。
「サユリは俺が俺じゃなくなっても、愛してくれる?」俺の問いに、サユリは「……」と数秒沈黙する。「カガミじゃなきゃ、嫌だ……私はカガミが好きなの、だからカガミが化け物みたいになったら私にはカガミを愛せる自信がない……」なるほど。やっぱりそうだ。俺の理想のサユリと現実のサユリの認識にズレが生じている。俺の理想のサユリは俺がどんな姿になっても確実に愛してくれる存在だ。「……俺は……」俯きながら答える。「サユリがどんな姿になっても愛するよ」この言葉の選択。俺はサユリを依存対象にする事を選んだ。たとえこの関係が歪んだものでもいい。サユリのそばにいる事でしか、もう救われないと思ったから。
その後も他愛のない会話を続けながら、俺の家の前まで二人で戻る。「今日急にデートって言ったのに連れて行ってくれてありがとう」扉の前でサユリとキスをしては、手を振りサユリがその場を後にするのを見送る。「……ウハウハだな」不機嫌そうなホノカの声に振り返る。「俺に気があるとか辞めろよ、お前」ホノカに言っては、ホノカは「YESと答えたら私はどうなるんだ」と口角を上げる。その回答に、俺は少し絶句する。「揶揄うのも大概にしろ」構って欲しそうに俺の前後左右を浮遊する彼女を無視して自室に入る。「カガミ。サユリとのデートはどうだった」
ホノカの問いに、「どうって事無かったよ」と答える。「なんだ、素っ気ないな。お前が愛して止まないサユリの事だ……」ホノカは俺の反応に少し驚いたような表情を見せる。「そうだよ、俺が愛してやまない、俺ばっかりが愛してやまない人」俺の台詞に、「なにかあったのか」とホノカは目を丸くする。「……」俺は下を向きながら、「俺が化け物みたいな姿になったらサユリは俺を愛せないんだって」とホノカに言った。ホノカは「当然だろ。サユリが好きなのは今その場にいるお前なんだから。いきなり化け物が現れてもそれをカガミと認識する事が出来るはずない」と落ち込む俺の様子を見ながら冷たく言葉を放った。
「俺ならサユリがどんな姿になっても愛するのに??? それって不釣り合いだ、でもサユリを突き放すなんて事は俺には出来ない」俺の葛藤をホノカは「バカだな」と笑う。「愛する人間にそんな事を言ったらおしまいだろ。無条件にサユリを愛してやれないのか」無責任なホノカの言葉に、腹が立つ。「お前がはじめた物語だろ、お前に運命を書き換えられて無ければこんなことにはならなかった」俺が冷静に言うと、ホノカは「お前はサユリをどうしたい」と問いかける。「サユリの全ての権利を俺が所有したい」俺の言葉にホノカは、「あーあ」と呆れる。「それってどういう意味かわかってるか」
ホノカは静かに俺に言った。「お前はもうサユリを都合のいい"逃げ"の道具としてしか見ていない」ホノカは俺を冷たい目で見下ろす。「……」否定は出来なかった。部屋に沈黙が続く。「どうする、カガミ。このままサユリを切り捨てるか? それとも逃げの道具だと自覚した上でサユリに一生依存するか??」淡々と突きつけられるホノカからの問いに、俺は「それでも俺はサユリを捨てたりしない」と覚悟を決めた。「つまりはサユリを自分の逃げ場として利用し続ける事を選ぶと???」ホノカは俺の答えを馬鹿にして笑う。ここでサユリを見捨てたら、俺が殺人者になる理由が無くなる気がして。俺は、俺の罪の理由を全てサユリただ一人に押し付けた。「最低だ……。俺って……」




