十二話『交響曲第5番』
突如殺人犯になることを運命付けられた俺は、次第にその事実も受け入れていく。人を殺さなければ自分が殺される体質に、唾を吐きたくなる事もあるが、それよりも周りの人間の不幸のほうが怖かった。同日の深夜。全てを諦めた俺は、眠るサユリの頬を撫でた後、ナイフを持ってホノカと夜の街へ出る。「カガミ、お前は立派な殺人者だよ。私も胸を張れる」新たなる殺人犯の活躍に嬉しそうに口角を上げるホノカ。俺は「たった一人殺したくらいで……」と呟くが、自分から発された他者の命を軽視する発言に「!?」と目を見開く。同時に、早い曲の裏拍のような動悸も走る。立ち止まる俺にホノカは、「どうした?」と問いかける。だが俺は答えない。「カガミ」俺は脳内のノイズを掻き消すように、早歩きで街の中を進む。ホノカも浮遊しながら俺の背後を着いていく。
見つけた。女教師を殺害した場所からは少し遠いところで、同い年ぐらいの女子高生が制服姿のまま歩いているところに遭遇する。「ごめんね、君。ちょっといい?」怪しく笑って話しかける俺。「は、はい!」女子高生は振り返る。「……」無言のまま、女子高生の胸にナイフを突き刺す。「ぇッ……??」戸惑う表情のまま、血を噴き出す女子高生。俺はなぜか冷静だった。ナイフを女子高生の身体から抜いて、今来た道を引き返す。「カガミ、二度目となれば慣れたものだな」ホノカが俺を賞賛するが、「そもそもお前が俺を殺人犯にしなければ、こんなことにならなかった」と冷たい声で言葉を返した。「だが、お前が殺人犯になったおかげで、これから死ぬ運命だった周りの人間が救われている」ホノカの俺を肯定するような言葉も、いまは素直に受け入れることは出来ない。
「じゃあカレンも……ヒロムも……救われるべきだ……」静かに言うとホノカは、「みんなを生かしたいんだろう??」と笑う。俺はコクリと頷いた。「いや…もういい。全部を救うなんて妄言だ、最低限……サユリさえ守れたら俺は満足だ……」他の人間を見捨てるのが最低だってわかっている。俺もどうかしちゃったんだと思う。でも、全員を片っ端から救うなんて、汚れた手の俺には到底無理だ。「お前、本当に人の子か……?」ホノカは驚いたような表情を浮かべる。「もう違うんだろ??」俺は笑いながら言った。「……カガミ、お前本当に疲れてるんじゃ……」心配するホノカに、「はぁ……だいたいおかしな話だろ?? 俺を半死神にしといて、そんな事言うなんて。それともお前、なんなんだ?? 昔なにかあったのか?」俺は探るように問いかけるが、「お前に語る必要があるか?」と、ホノカは機嫌を悪くした。
嫌な空気が流れる中、俺とホノカは自宅へと戻る。部屋へと入ると、サユリは相変わらず俺のベッドの上で気持ちよさそうに眠っていた。「サユリ……」愛しの彼女の名前を呟く。パジャマに着替え、サユリの隣に入る。「好きだよ、サユリ」そう呟き、部屋の電気を消す。そうだ。サユリさえそばにいてくれたら。ホノカは壁にもたれ腕を組み、「……」と不満そうな表情を浮かべる。そして窓から寝床を探して浮遊していった。朝。眠っていたサユリと俺は、ゆっくりと目を覚ます。「おはよう」顔を合わせ、優しい声で言葉を交わす。「カガミ……」サユリは俺を抱きしめる。「……良かった……」目に涙を溜めるサユリ。「へ?」脈絡の無い安堵の言葉に、首を傾げる。「だって……昨日のカガミ……つらそうだったから……」そう言いながら、サユリは俺の胸に顔を埋めた。
嗚呼、本当に可愛いな……。これが、俺の恋人なのか。なんて贅沢なんだ。泣いている恋人の背中を摩りつつ、「大丈夫だよ」と声をかける。「カガミが死んだら、私も死んじゃう」サユリは笑いながら言った。「そんな事言うなよ。俺はサユリに生きていて欲しいんだ」「私だって、カガミに生きていて欲しいもん」ベッドから出て伸びをするサユリ。「着替えるから出てって!」「お、俺の部屋なんだけど……」そう言うと、サユリは俺がいるにも関わらずパジャマのボタンを外し、ブラジャーを見せつける。「ご、ごめん……!!!!」俺はあたふたして部屋を出た。サユリといいホノカといい、俺はなんだか女の尻に敷かれている気がする。階段を降りると、母さんが朝ごはんを作っていた。
「あら? まだパジャマなの? 早く着替えないと」「サユリが着替えてて……」「ふぅん?? 学校遅れないようにしなさいよ。今日の朝ごはんはお魚だからね」母さんは皿を用意しながら優しい声で言葉を綴る。「そういえば、また殺人事件があったらしいな」そこに現れた父さんがスーツに着替えながら言う。「やぁね、最近物騒で」母さんの言葉に、父さんは不安げな表情で「女の先生が殺された事件といい、今回の事件といい、この街の近くだ」と顎に手を当てながら考えるような仕草を取る。「偶然じゃないかな?」俺が笑うと、父さんは真剣な表情で言った。「犯人はこの辺りに住んでる可能性が高い」父さんの言葉を聞いたサユリが呟く。「怖い……」
サユリが来た事に誰よりも早く気がついた俺は、「あ、サユリ着替え終わったか」とサユリを見ながら言って階段を上がる。部屋に入ると、ホノカがいた。「いまから着替えるんだけど」「お前の着替えなど毛ほども興味が無い」「いや、少しぐらい興味持てよ」ホノカに文句を言いつつ、堂々と制服に着替える。「お前、昨日はどうしたんだ」俺の問いにホノカは、自慢するかのように「貸し切り状態のスイートルームで寝たぞ。羨ましいだろ」と死神生活のエンジョイ話をペラペラ語る。「不法侵入だな」俺が目を細めながら言うとホノカは、「死神にこの世の法律は通用しない」とあっさり答える。「じゃ、朝ごはん食べてくるから」そう言って扉を閉じては、階段を降りる。
一階では、ニュースが流れていた。『女子高生が何者かに殺害された事件で、防犯カメラに映った犯人の映像は、20代前半から30代後半の─』ニュースの声が聞こえては、「!?」と振り返る俺。完全に油断していた。幸い顔は映っていないものの、女子高生を殺しているシーンが完全に防犯カメラに映ってしまう失態を犯した。なぜ当時の俺はそんな単純なことさえ気が付かなかったんだ!!!!!




