後編
アルベルトの顔が見れない。ちょっと心臓に悪い。でも週末になると異世界に行ってしまう。そして、アルベルトの顔を見ると嬉しい、幸せ、心が弾む。
「リナ様、どうされました?」
「んー? どうもしてないよ」
「そうですか? 何かいつもと違うような気がします」
「全然そんなことないよー」
納得いかない顔でアルベルトが私を見つめる。ヤダやめて。その顔でこっち見ないで。平静な顔をするために、月曜日の仕事の事を考える。やめときゃ良かった。テンション下がるわ。
「聖女様、どうかしたのか?」
途中で殿下が現れて、私の顔を見て心配していた。どうもしてないですよ、と作り笑いで答えた。
「聖女様は普段向こうで仕事をして、休日はこちらで祈ってくれているからな。疲れがたまっていないか? 体調は大丈夫か?」
優しい口調で殿下が心配してくれる。殿下素晴らしい。さすが顔も心もイケメン。殿下の優しさに感動していると、アルベルトがムッとした顔になった。こんな表情は初めて見るかもしれない。
「リナ様、私も心配していますよ。ほら、私の目を見てください! リナ様への思いやりが伝わりませんか?」
肩をガシッと掴まれて目を覗き込まれる。やめてー! 私の心臓を止めようとしないでー! そしてそんなこと自分で言うなよ。
「大丈夫です! 伝わっています!」
「それなら良かったです」
焦って言う私に、アルベルトは嬉しそう笑う。殿下が、邪魔になるか? ではまたなと言って帰っていった。邪魔じゃない。もっと居て。てか何しに来たの? せめてこの空気なんとかして帰って。
「アルベルト様の方がおかしくないですか? どうかしましたか?」
ほんと最近はアルベルトの方がおかしい気がする。なんだか甘い空気を身に纏っているような。
「そうですね。私はリナ様がとても好きなので胸が高鳴って落ち着かないんです」
「そうだったんですか」
私のことが好きだったんなら仕方ないな。恋してるんだったら、そりゃあ挙動不審にもなるだろう。アルベルトが恋ねぇ。恋かぁ。
「リナ様、私はあなたが好きだと言っているんですよ」
「そうですよね。恋したら落ち着きがなくなるのは仕方ないで……私が好き?」
「そうですよ。聞いていましたか? あなたに恋してるんですよ」
「えっ? 恋? アルベルト様が私に? 冗談? ドッキリ?」
アルベルトの言ってる事が理解できない。
いやいや、まさか。こんな美人が私のこと好きになるなんて。異世界人と言うハードルもあるし、いつ扉が繋がらなくなるかわからないし。てか好きって、私たち両思い? 嘘だー。
「冗談じゃありません。あなたみたいな心優しい聖女様に惹かれるなんて当たり前でしょう?」
「当たり前じゃないですよ!」
「いえ、当たり前なんです。リナ様はもっと私のことをわかってください。ほら、私の顔好きでしょう? この顔がずっとあなただけを見つめるんですよ。嬉しくないですか?」
「嬉しいですけど、でも、だって……。私たち違う世界の人間じゃないですか」
アルベルトのことが好きだと思った時、同時にダメだと思った。これ以上好きになったら、会えなくなった時に立ち直れる気がしない。
「そうですね。違う世界と言うのが気になりますね。急に扉が繋がらなくなったら困ります」
「そうでしょう? 愛し合って急に離れ離れになったらと思うと怖いでしょう?」
「でも、私はリナ様の事が好きですから。そうですね……。よし! 決めました」
何を決めたんだよ。一人で納得して終わらせないで教えてよ。
「リナ様は私と、ついでにこの国に必要な人です! 絶対に必要な人です! なにがなんでも必要です!」
圧が凄い。怖い。
「なのでリナ様は基本こちらに住むことにしましょう。お仕事つらいと言ってましたよね? 私の妻としてこちらでお祈りしつつゆっくり過ごしてください。休日には向こうに帰れますし、ご両親や友人にも会えますよ」
「えっ?」
「扉が繋がらなくなるかもしれませんが、昔の文献では聖女様はお年を召されるまで行き来されていたとありました。多分……なんとか……大丈夫? でしょう」
お前ほんとにテキトーだな。繋がらなくなったらどうするよ? てかこのパターンはあれだ。絶対あれだ。
「ねっ、リナ様。私のそばにずっといてくれますよね。妻として私と永遠の愛を誓ってくれますよね」
驚くほど色気のある表情でアルベルトは私を見つめる。綺麗な顔が近付いて来て動けない。
「ア、アルベルト様、近いです」
「はい、近付いてますから。私の可愛いリナ、愛していますよ」
ほらー、やっぱり! アルベルトは自分の顔の良さをわかってる。そしてその顔がめちゃくちゃ私のタイプだと言うことも知っている。
あー、もう無理。降参して私は目を閉じる。
アルベルトがクスッと笑う。
唇に暖かなものが触れる。
仕方ない。これからは一緒にいてあげよう。アルベルトがどうしても私を妻にしたいと言うんだから仕方ない。そんな言い訳をしながら、私はアルベルトの背中に腕をまわした。




