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オロチ再び

作者: ミヤモン

ヤマタノオロチ伝説とスサノオノミコトの両親を祀った伊弉諾神宮をモチーフにしたアクションSF短編小説です

オロチ再び

プロローグ:古の討伐

神代の昔。この国がまだ形を成さぬ頃、出雲の地に天を覆うほどの巨躯を持つ災厄があった。八つの首と八つの尾を持ち、その身体は幾多の峰を連ね、谷を埋め尽くしたという。その名を――ヤマタノオロチ。

怪物は川を濁らせ、森を枯らし、村を焼き、人々の命を贄として喰らった。年に一度、清らかなる娘を差し出さねば、大地は裂け、空は荒れ狂う。人々は恐怖に支配され、豊穣の地は血と涙で染まり、絶望の淵に沈んでいた。

その頃、高天原を追われ、荒ぶる心を胸に地上を彷徨っていた一柱の神が、その地に降り立った。**素戔嗚尊スサノオノミコト**である。彼は人々の嘆きを聞き、天を睨みつけて宣言した。「この地を覆う呪われし大蛇よ。我が名はスサノオ。汝の理不尽、この手にて断ち切らん」

老夫婦と、その最後に残された娘、**櫛名田比売クシナダヒメ**は、神の威光に震えながらも涙してすがった。「神よ……どうか、この子だけは……。もはや我らには、この子しか……」

素戔嗚は静かに頷き、腰に帯びた剣の柄を叩いた。「案ずるな。我が神剣、**十拳剣とつかのつるぎ**にて、必ずや屠ってみせよう」

素戔嗚の知恵は深く、策を巡らせた。八つの門を建て、それぞれに強き酒を満たした八つの桶を置く。やがて現れたオロチは、酒の匂いに誘われ、八つの首をそれぞれの桶に突っ込み、たちまちそれを飲み干して深い眠りに落ちた。

好機。素戔嗚は十拳剣を抜き放つ。それは人の世の業とは思えぬ輝きを放ち、夜の闇を真昼のように照らした。神剣は風を切り、雷を纏い、オロチの八つの首を次々と斬り落としていく。最後に巨大な尾を断ち割ると、その中から一層不思議な輝きを放つ、見事な剣が現れた。後に**天叢雲剣あめのむらくものつるぎ**として、皇位の象徴となる神剣である。

だが、オロチの怨念はあまりに強大で、神の力をもってしてもその魂を滅しきることは叶わなかった。素戔嗚は残された力のすべてを使い、その魂を地の最も深い場所――黄泉の入り口に封じたという。

そして、時は流れた。永劫とも思えるほどの時が。

現代。その古の封印が、静かに、しかし確実に解かれようとしていた。

第一章:復活の兆し

西暦20XX年、島根県・斐伊川上流。満月の夜、山間の静寂を切り裂き、突如として地鳴りが響き渡った。大地が呻きを上げ、木々が悲鳴を上げるようにざわめく。夜空には不吉な黒雲が渦を巻き、紫電が山肌を繰り返し引き裂いた。その異常現象は、防衛省統合幕僚監部の観測網に、前例のない警報として記録されていた。

「島根県北部、未確認の震源を捕捉!マグニチュード換算不能!地熱変動にしてはパターンが異常です。中心部に複数の高エネルギー反応が同心円状に…まるで、巨大な生命活動のようです!」

モニターに映し出された幾何学的なエネルギー分布図に、若いオペレーターの声が上ずる。

報告を受けた防衛副大臣は、厳しい表情で眉根を寄せた。「生命活動だと?…ただの自然災害ではないと?…最悪の事態を想定する。直ちに第9特殊機甲連隊に出動命令。現地へ急行させろ」

即時発令された緊急出動命令――コード「鬼神」。最新鋭の装甲戦闘車、10式戦車、そして攻撃ヘリ部隊が、闇夜を切り裂いて山中へと展開する。

深夜、斐伊川渓谷。第9特殊機甲連隊の隊員たちが、光学迷彩を施した車両から音もなく降り立った。隊長の**神谷隼人かみや はやと**は暗視双眼鏡を覗き、立ち込める霧の向こうを睨みつける。

「…状況は?」

隣に立つ副官が、険しい顔で首を振った。「視界不良。ですが…空気がおかしい。生臭い…。まるで血と、錆びた鉄の匂いです」

その言葉が終わるか終わらないか、川の対岸の森が音もなく揺れ、山のように巨大な木々が、まるでマッチ棒のようにへし折れた。

ズズズズズ……ガシャアアアアン!!

地を擦るようなおぞましい音と共に、地の底から響くような咆哮が谷を揺るがした。暗闇の奥で、常軌を逸した巨大な影が蠢いている。

「熱源反応、急速接近!八つの大型生体反応を同時確認!距離150!」

オペレーターの絶叫が響く。月光が雲間から差し込んだ瞬間、その影が全貌を現した。

ぬらりと光る、濡れた岩肌のような鱗。天を衝く八つの長大な首。そして、爛々と輝く十六の紅蓮の眼光。

「……嘘だろ……神話の…ヤマタノオロチだと…!?」副官が絶句する。

「問答無用!全車、目標を捕捉次第、撃ち方始めッ!!」

神谷の怒号が号令となった。戦車砲が火を吹き、重低音が空気を震わせ、徹甲弾が森ごと焼き払う勢いでオロチに着弾する。しかし、もうもうと立ち上る黒煙の中から現れた巨体は、傷一つ負っていない。八つの首が、まるで人を嘲笑うかのように不気味にうねり、その内の一本が戦車の砲塔をこともなげに薙ぎ払った。

「くそっ!通常兵器は通用しないのか!」

神谷が歯噛みしたその時、指揮車両の通信機に、凛とした女性の声が割り込んだ。

「こちら“アマテラス”。作戦司令部より直通です。神谷隊長、聞こえますか」

「アマテラス…? 加賀美博士か!」

「伝承解析チームからの緊急報告です。オロチを無力化できる唯一の手段、コードネーム『Totsuka』の座標を特定。オロチの進行予測ルート上、最悪の場合、6時間後には大阪都市圏に到達します」

神谷は目を見開き、唇を噛んだ。「…本当に存在するのか、その剣が」

「存在します。淡路島、伊弉諾神宮の地下祭殿に。間に合わなければ、日本は終わる。確保を最優先してください!」

神谷は、天を仰ぎ咆哮する化け物を見据えた。

「…命令か、加賀美博士。いや…これは、俺の役目らしい」

彼は部下たちに向き直り、決然と言い放った。

「全隊、現着にて防衛線を構築!何としてもオロチの足を止めろ!俺は淡路に向かう!」

夜の山を背に、神谷隼人は新たな神話の戦場へと身を投じた。

第二章:封印の間、覚醒の剣

淡路島・伊弉諾神宮。神代の空気が、現代のコンクリートと鋼鉄の介入を拒むかのように張り詰めている。境内は仮設照明に照らされ、神職たちは恐怖に顔をこわばらせながら、遠巻きに見守っていた。

神谷隼人と彼の率いる数名の精鋭隊員が、本殿の奥、古文書に記された床板を慎重に剥がしていく。

「ここです…間違いありません」

タブレット端末と古い巻物を交互に見比べながら、合流した**加賀美遥かがみ はるか**博士が呟いた。彼女こそ、政府の極秘機関「古代遺物科学解析室」、通称“アマテラス”の室長である。

「本当に…こんな場所に?」副官が信じられないといった様子で尋ねる。

「ええ。素戔嗚尊がオロチを討った剣…古文書の『天の火を宿す』という記述。我々はその正体を、我々の理解を超えたオーバーテクノロジー…おそらくは異星からもたらされた『エネルギーブレード』だと仮説を立てていました。これが、その答え合わせです」

やがて床板の下から現れたのは、巨大な一枚岩をくり抜いた祭壇。その中央に、不思議な質感を持つ黒金の柄が、まるで時が止まったかのように鎮座していた。

「これが…十拳剣か?柄だけ、だと…?」

神谷が眉をひそめ、柄に手を伸ばそうとした瞬間、加賀美が鋭く制止した。

「待って!それは単なる柄ではありません。内部に異星製の動力炉コアが眠っています。適合者以外が触れれば、対象を脅威とみなし、防衛機能が起動するはずです」

柄に手を伸ばした神谷の脳裏に、稲妻のような幻視が走った。荒れ狂う嵐、巨大な蛇、そして、天から降り注ぐ光の剣――。

彼はしばし黙し、目を細めて柄を見つめた。

「…隊長、危険です!何の保証も…!」

「いいんだ。俺の中の何かが…いや、俺の血が、これを握れと叫んでいる」

神谷は覚悟を決め、ゆっくりと黒金の柄を掴んだ。

ヴゥン……。

低い振動と共に、柄に刻まれた古代文字のような文様が青白く発光を始める。静かな、しかし力強い機械音が響いた。

《生体ID…遺伝子情報…記憶野パターン…照合……一致》

《適合者を承認。スサノオ・プロトコル、リブート》

凛とした合成音声と共に、柄の先端から一条の光がほとばしり、空間そのものを歪ませながら、静かに、しかし絶対的な存在感を放つ青白い光の刃を形成した。

刃は夜の闇を切り裂き、周囲の空気を焼いて陽炎が立ち上る。

「これが…十拳剣…」

神谷が剣を構えた瞬間、その驚くべき軽さに息を呑んだ。

「軽い…。なのに、腕に伝わるこの圧力は…まるで生きているようだ」

加賀美は安堵と興奮の入り混じった微笑みを浮かべ、静かに告げた。

「その刃は高密度プラズマと粒子振動刃の複合構造。刃長は思考制御によって自在に調整可能です。伝承にある十拳とつかとは、一説に人の身の丈ほど。古代の人々がこのテクノロジーをそう表現したのでしょう」

副官が、半ば呆然と口を開いた。「隊長…あなたは、まさか素戔嗚尊の…」

「俺が誰の子孫だろうと関係ない」神谷は、光の刃を収めて柄だけになった剣を肩に担ぐ。「今、この国を脅かす化け物がいる。そして、それを斬れる剣がここにある。理由はそれだけで十分だ」

彼は夜の境内を振り返り、部下たちに告げた。

「行くぞ。オロチをぶった斬りに」

第三章:決戦・八首の死闘

大阪市・湾岸部。深夜零時。

静まり返った街に、突如として地響きが鳴り渡った。ドォン…ドォン…!超高層ビルの窓ガラスが震え、信号機が明滅を繰り返す。遠く闇の中、うねるような巨大な影が、まるで玩具のビル群をなぎ倒すかのように市街地へと迫っていた。

「目標ヤマタノオロチ、大阪市街地に侵入!進行速度、時速20キロ!」

防衛隊の無線が絶叫する。避難誘導のサイレンと、逃げ遅れた人々の悲鳴が不協和音を奏でていた。

「ママ、こっちだよ!早く!」

小さな男の子が泣き叫び、母親の手を必死に引いている。

その親子をあざ笑うかのように、闇の中から八つの首が姿を現した。オフィスビルの屋上をなぎ払い、口からは腐食性の高い青白いブレスが吹き荒れる。アスファルトが一瞬で溶け、車両が鉄の塊へと変わった。

「…化け物め…!」

神谷隼人は装甲車のハッチを開け、十拳剣の柄を強く握りしめた。

「隊長、無謀です!せめて援護射撃との連携を!」

副官の叫びを背に、神谷は静かに言った。

「邪魔になる。こいつは俺が斬る」

頭上を輸送ヘリが通過し、神谷はハッチから身を乗り出す。その手の中で、十拳剣が再び光を放った。

「Totsuka Blade――最大展開」

ヴォオオオオンッ!

プラズマの刃は瞬時に10メートルまで伸長し、空気を焼き切るような高周波を響かせた。神谷はそのまま装甲車から飛び降りる。

「行くぞ、化け物ッ!!」

着地の衝撃を吸収し、大地を蹴る。同時に、オロチの巨大な尾が津波のように迫っていた。

神谷は十拳剣を一閃。

ズシャアアアッ!!

光の刃は分厚い鱗をバターのように切り裂き、尾は真っ二つになって緑色の体液を噴き上げた。オロチが天を揺るがす苦悶の咆哮を上げる。

「来いよ!まとめてかかってこいッ!!」

神谷は刃長を即座に3メートルに縮め、取り回しを良くする。最も近くにいた首の付け根を狙い、ビルの壁を蹴って跳躍した。

「オオオオオォォッ!!」

渾身の一撃が硬い鱗を断ち割り、一つの首がもんどりうって地面に叩きつけられる。

ズゴォォォォオオン!!

残る七つの首が怒り狂い、神谷を包囲するように襲いかかった。

「くそっ、多勢に無勢だ!隊長、援護を――!」副官が叫ぶが、加賀美の声が無線に割り込む。

「ダメ!通常兵器の榴弾は、オロチの体液を広範囲に飛散させるだけ!神谷隊長に任せるしかありません!」

神谷は歯を食いしばり、思考と一体化した剣を振るう。迫る首を短い刃で刈り取り、返す刃で刃長を伸ばして遠くの首を薙ぎ払う。人知を超えた剣戟が、夜の大阪に光の軌跡を描いた。二首を同時に断ち、回転斬りでさらに二首を切り払う。

ブシャアアアアッ!血の雨が降り注ぎ、神谷の戦闘服を濡らす。

「あと三つ……まだだ…まだ行けるッ!!」

だが、オロチも黙ってはいない。残った首がビルを根こそぎ倒し、鉄骨とコンクリートの嵐が神谷を襲った。

「神谷ァァァ!!」

副官と隊員たちの絶叫が響く。瓦礫の山が神谷を飲み込み、十拳剣の光が掻き消えた。

誰もが絶望に息を呑んだ、その瞬間。

瓦礫の山が内側から爆ぜた。粉塵の中心で、青白い光を放つ剣を天に掲げた神谷が、鬼神の如く立っていた。

「…こんなもんで、終われるかよ…ッ!」

最後の三つの首が、神谷を十字に挟み込むように同時に襲いかかる。絶体絶命。

だが、神谷は笑っていた。

「――遅い」

呟きと同時に、神谷は剣を垂直に天へと掲げる。

「まとめて…貫けェェェエエエッ!!」

刃長、最大展開。天を衝く光の柱が、三つの首を同時に下から貫いた。

断末魔の咆哮が、もはや音にもならずに空へと消えていく。やがて、巨体は全ての動きを止め、ビルにもたれかかるようにして崩れ落ちた。

一瞬の静寂。そして、巨大な死骸の中心部から、まるで心臓のように明滅する、黒い水晶のような多面体が静かに浮かび上がった。

エピローグ:新たな予兆

オロチが沈黙した大阪の夜明け前。神谷は荒い息を繰り返しながら、瓦礫の山の上で膝をついていた。彼の目の前には、不気味な光を放つ異星製の端末が浮遊している。

「…これが、奴の力の源か」

駆けつけた加賀美博士が、特殊な計測器をかざしながら息を呑んだ。

「オロチを制御していたコアユニット…ですが、それだけではないようです。これは…他の個体への、あるいは“故郷”への、休眠状態の通信端末でもあるかもしれない…」

神谷は立ち上がり、端末を睨みつけた。「つまり、終わりじゃないと?」

「ええ。今回の復活は、何らかの外的要因による覚醒だった可能性があります。もしこの端末が信号を発信すれば、第二、第三の“神話”が目を覚ますかもしれない。あるいは、空から」

加賀美の言葉に、神谷は静かに頷いた。

「…そうか。じゃあ、俺たちがコイツの“次”を待たせてやるわけにはいかねえな」

神谷は十拳剣の光を収めた。ただの黒金の柄に戻ったそれを、彼は強く握りしめる。その手には、確かに神代の英雄と同じ重みが、そして未来へと続く戦いの覚悟が宿っていた。

夜明け前の大阪の空に、復旧作業を知らせるサイレンの音が、静かに響き渡っていた。

彼らの戦いは、まだ始まったばかりである。


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