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第13話:招かれざる闖入者

 翌朝、洞窟の外は、昨夜の嵐が嘘のような静けさに包まれていた。凛の告白によって少しだけ変化した二人の間の空気は、しかし、新たな脅威の出現によって、再び鋭い緊張感に張り替えられていた。

『スカルバイパーズ』

 その不吉な名は、二人の心に重くのしかかっていた。


「関わるだけ時間の無駄よ。私たちの目的は、あくまでグリズリー。連中のことは無視して進むわ」


 凛はそう言って、先を急いだ。だが、彼らの存在を無視することは、不可能だった。

 スカルバイパーズが通り過ぎた後には、まるでイナゴの群れが襲ったかのような、無残な光景が広がっていた。モンスターは必要以上に痛めつけられて殺され、価値のある素材だけが、それもひどく雑な手つきで剥ぎ取られている。まだ使えるはずの肉や皮は、無造作に打ち捨てられていた。


「……ひどい」


 冬真の口から、静かな怒りを帯びた声が漏れた。彼にとって、それは食料を無駄にする、最も許しがたい冒涜行為だった。この森の恵みに対する、敬意のかけらも感じられない。


 やがて、開けた岩場で、二人はついに、その元凶と鉢合わせした。

 粗野な大男をリーダーに、痩せた斥候風の男、そして気だるげな魔術師の三人組。彼らの装備は、実用性よりも威圧感を重視した、悪趣味な装飾が施されている。


「ようよう、見かけねえ顔だな。こんなとこでデートか?」


 リーダー格の大男――その名をゴードンという――が、巨大な戦斧を肩に担ぎ、下卑た笑みを浮かべて言った。


「B級の嬢ちゃんと、見るからに雑魚のC級か? ピクニックにはちと早いんじゃねえか」


 凛は、その挑発に顔色一つ変えずに応じた。


「誰が何を狩ろうと、ギルドの規約上は自由なはず。私たちに干渉する権利は、あなたたちにはないわ」

「へっ、ご立派なこって。だがな、嬢ちゃん。この山のグリズリーは、俺たち『スカルバイパーズ』がいただくことになってんだ。悪いが、お前らはとっとと街に帰って、おままごとでもしてな」


 一触即発の空気が流れる。ゴードンの目が、品定めするように冬真を見た。


「なんだ、そいつのポーチは。キノコだの草だの、ガキのお遣いみてえだな。そんなもんで小銭稼いで、楽しいかよ?」


 冬真は何も答えなかった。ただ、彼らの装備や言動から、この男たちが本質的に、自分たちとは相容れない存在であることを静かに理解していた。

 ゴードンは、ふん、と鼻を鳴らすと、「まあいい。せいぜいグリズリーに食われねぇようにな」と嘲笑を残して去っていった。しかし、その目には、獲物を横取りされることを許さない、明確な悪意が宿っていた。


 彼らが去った後、二人は探索を再開したが、その道程は、あからさまな妨害に満ちていた。

 本来なら安全なはずの道に、モンスターを興奮させる『誘引香』が焚かれ、冬真のスキルが「不自然な魔力反応」を検知して、すんでのところで回避する。

 清水が湧き出る沢には、麻痺毒が流され、『味の探求者』が「汚染。飲用不可」という警告を発した。


「……探索者の風上にも置けない連中ね」


 凛は、吐き捨てるように言った。彼女の白い頬が、怒りでわずかに紅潮している。

 卑劣な妨害をいくつも乗り越え、二人はついに、グリズリーの洞窟へと続く、一本道しかない峡谷に差し掛かった。両側を高い崖に囲まれた、天然の要害。ここを抜ければ、目的地は目前のはずだった。

 冬真は、いつも以上に慎重に、スキルで周囲を鑑定する。


「……罠の反応はありません。連中も、ここまでは手を回せなかったみたいだ。急いで抜けましょう」


 凛も頷き、二人は警戒しながらも、峡谷の中へと足を踏み入れた。

 岩と枯れ木しかない、殺風景な道が続く。

 峡谷の中ほどまで来た時、冬真がふと、地面の違和感に気づいた。落ち葉の積もり方が、一箇所だけ、ほんのわずかに不自然に新しい。まるで、何かを隠したかのように。


「待って! 氷室さん、罠だ!」


 冬真が叫んだ、まさにその瞬間だった。

 二人の足元で、地面に巧妙に隠されていた魔法陣が、禍々しい紫色の光を放って起動した。

 それは、直接的なダメージを与える罠ではなかった。周囲一帯のモンスターを、強制的にこの場所へ呼び寄せる、大規模な『召集の魔法陣』。魔法陣そのものが周囲の気配を遮断する、極めて悪質な古代呪式エンシェント・ルーンだった。だから、冬真のスキルでも事前には検知できなかったのだ。


 しまった、と思った時には、もう遅い。

 峡谷の前方と後方から、唸り声が響き渡る。

 見れば、おびただしい数のウルフやオークが、血走った目でこちらへ向かってきている。その赤い瞳が、暗い峡谷の中で、ギラリと無数に光った。

 退路は、完全に断たれた。


 そして。

 頭上の崖の上から、あの下品な笑い声が降ってきた。


「ハハハハ! かかったな、マヌケども!」


 ゴードンが、崖っぷちから二人を見下ろしている。


「ご親切に、モンスターを一同に集めてやったぜ! おめえらがそいつらと存分に遊んでる間に、グリズリーは俺たちが、ありがたくいただくからなあ!」


 絶体絶命。

 紫色の魔法陣の光が、二人の顔に、濃い絶望の影を落としていた。


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― 新着の感想 ―
日本人名ばっかだったのに唐突なゴードンで笑ってしまった。まだ途中ですが楽しく読まさせていただいてます。
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