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浅はかな者達part3

浅はかな者達が辿る末路

俺は常に苛ついていた。


目に付くもの全てに苛ついていると言っても過言ではない。


俺以外の存在は常に邪魔で、俺よりも優秀な人間は死ねば良いと思っていた。


人間は多すぎる。もっと少なくて良い。


この前、どっかのアホなテロリストが自爆して大量に死んだ。


そのニュースを見た時、得も言われぬ快感を感じた。


害しか無い存在が勝手に死んだ。これこそがあるべき姿だ。


頼むから、俺以外の害しかない存在は自ら勝手にいなくなってくれ。


そうなればもっと世界は平和になる。


そんな思いを抱きながら、俺は今日も満員電車に乗って仕事に向かう。


朝からブチ切れそうだ。なんでこんなに朝早くから、満員なんだよ。


邪魔くせえ。こいつらが世の中の何の役に立つってんだ?


満員なのにスマホでゲームしてる馬鹿。幅を取りすぎなデブ。


もっと奥に詰めろボケ。リュックは前に背負え。でけえ声で話すな。


どいつもこいつも、害にしかならねえじゃねえか。


満員電車なんてもんを生み出している世の中も糞だ。


なんでこんな朝早くから働くのか分からねえ。


いや、そもそも、こんな大変な思いをして、


全然金を稼げやしねえ。金は出ていくばっかりだ。


こんな社会構造が許されてるのが間違いだ。


政府も政治家も腐りきってる。マジで詰んでる。


この世は掃き溜めになっちまった。


良いニュースなんて最後に見たのはいつ以来だ?


いや、そもそも、良いニュースなんて見たことあったか?


どっかの知らねえ奴らが結婚したとか、


何が上手いだとか、何が可愛いとか、


糞どうでも良いニュースばっかりだ。


給料が一気に上がるとか、休みが増えるとか、


人間様が喜ぶような出来事は何一つねえ。


どいつもこいつもゾンビみてえな顔して気色悪い。


必要な人間だけが生きてれば良いんだ。


不必要な人間は死ね。


そんなことを考えてたら会社に着いちまった。


見慣れたゴミ共の面を拝むだけで嫌になる。


出社したら、あとは昼飯の時だけが癒しだ。


人間のクズの代表である上司から中身の無い話を聞かされる。


自分の人生をドブに捨てているだけの時間。それが労働だ。


何もしなくても金を配れよ。生きてるだけで充分だろが。


自分の意識を殺して仕事をする。


昼休憩のアラームが鳴る。まさに天使のラッパだ。


今日は何を食うかな。


どこもかしこも行列。人で溢れてやがる。


何でこんなに人間ているんだろうな。


何かの役に立っているのか?こいつらは?


とりあえず、俺の前に並んでいる連中は全員死ね。


早く食って昼寝でもしてえのに、こいつらのせいでパーだ。


ここら辺の飯屋はどこも高い。俺を待たせやがったんだから安くしろ。


タダでも良いぐらいだ。


はあ。結局、昼休憩の時間が終わるギリギリだ。クソが。


昼休憩した後に昼寝の時間を設けろよ。


仕事の効率が上がるだろ。そんなことも考えないんだろうなゴミ共め。


午後からの仕事ほどの地獄は無い。


眠いし、やる気なんか出るわけがない。


どうせたかが知れている給料の為に誰が頑張るってんだ。


残業なんてのも論外だ。会社の奴隷じゃねえんだ。


ようやく終わった。


今日も自分の人生をしっかりとドブに捨てたぜ。


帰りの駅に向かう途中ですら苛つく。


何だよこの人の数は。


駅に吸い込まれるように群れをなすゾンビ。


行きも帰りも満員電車。


これで気が狂わない人間の方が狂ってる。


こんな毎日を繰り返して何の意味があるのか神様に聞いてみたいぜ。


いや?こんな世界を野放しにしている神なんざ、邪神の類か。


あーあ、この世界が一瞬で変わらねえかなー。


俺以外のゴミがいない世界。そんな世界が来たら最高だぜ。


地獄の日々の繰り返しの中で、ひとつの変化があった。


新入社員が入って来たのだ。


男が一人、女が二人。


俺の後輩か。ようやく下っ端を卒業できるな。


俺の手駒としてボロ雑巾にしてやるか。


そんな風に思っていた時、空気が変わった。


新人達の自己紹介が始まり、女二人は普通だったが、


男の自己紹介の時に、みなが異変を感じた。


明らかに変だ。何だこいつはという風にみなが新人の男を見る。


なんというか、気持ち悪い。


得体のしれない暗さや、人を人として見る目をしていない。


こいつは完全に異物だというのが分かった。


そもそも、良くは聞き取れなかったが、


こんな会社に入ってしまったという言葉が聞こえた気がする。


ヤバイ。こいつはヤバイ。


俺でもこいつは勘弁してほしいと思った。


そんな思いとは裏腹にこいつの教育係は俺になった。


知らねえぞ。どうなっても。


糞上司から、くれぐれも問題を起こさせるなという、


糞みてえな指示を受ける。


だったら、てめえが、あのモンスターの息の根でも止めろよ。


一応、仕事を教えることになり、最低限のことを教えるが、


返事はしない。指示を無視。何故か同期の新人女二人をじっと見ている。


もう、死んでくれ。こんな奴と一緒に仕事なんかできるか。


最もいなくなるべき存在の筆頭だ。


地獄は更に加速する。


昼休憩は新人達を連れての会食となった。


いや、馬鹿だろ。察しろよ。こんな会食中止にしろよ。


つか、女の方を見すぎだろ。こえーよ。


こいつは絶対に何かをやらかす。


しかも、近いうちに。


会食前に糞上司に奴の生態を報告する。


使い物にならないゴミだと伝える。


危険性すらも感じると。


これをあらかじめ言っておけば、


あとのリスク管理はこの糞上司の仕事だ。


糞上司は様子を見ろとだけ言った。


新人三人は席に座り、料理を待っているが、


やはり奴の様子はおかしい。


見過ぎなんだよ。てめえは。気持ち悪いんだよ。


女二人も怯えた表情をしている。


はあ。俺は溜息を吐いて、奴に声を掛けた。


どうかしたのか?とはっきりと聞こえるように言う。


奴は無反応だ。


この野郎・・・


肩を軽く掴んで、再度言う。どうかしたのか?


奴は振り向きざまに、小声で、触るな。パワハラだ。と言った。


俺は奴の目をしっかり正面で捉えて言った。


どうかしたのか?お前?席を変えるぞ。俺の隣に来い。と言って、


糞上司を奴のいた席に座らせ、奴を俺の隣に座らせた。


奴は魂を抜かれたように下を見ている。


俺は何かを察した。


奴は顔を上げると、奇声を発し、箸を手に持って俺に刺そうとしてきた。


うおっ!?という糞上司の声と、キャー!!という女の声が聞こえた。


俺は奴の手をしっかりと手で掴み、握りつぶすように力を込めた。


ググッ。グギッ。という変な声を出しながら、箸を手から落とし、


奴を羽交い締めにする。


呆けた糞上司に向かって、警察呼べや!と俺は叫ぶ。


奴は警察が来るまで、ずっとブツブツ言っていた。


もちろんのことだが、奴は会社をクビ。


新人女の一人もショックで辞めた。


あんなのを見たらそりゃそうだ。


結局、新人は女一人だけとなり、女には女の教育係がついた。


俺の世界に変化があった。


しばらくして、俺は新人から告白をされた。


助けてくれた姿が忘れられないそうだ。


俺は、考えた末に、OKという返事をした。


付き合い始めてから、俺の見る世界は変わった。


常に苛ついていたのが嘘かのように、


気持ち悪く言うなら、世界がバラ色になったという感じだ。


我ながら、しょうもないと思う。


だが、不平不満だらけの世界よりは、間違いなく素晴らしいだろう。


少し、気になることはあるが・・・


今年一番の寒気と言われ、


不要不急の外出は控えるようにニュースでも呼びかけていた日。


夕方の早い時間から雪が降るという予報の日。


この日は彼女の誕生日だった。


雪も降ってきて、とんでもなく寒い。こんな日でも俺は仕事だった。


彼女の誕生日プレゼントを持って、家へ帰る途中、


薄暗い公園にわざと寄った。


足を止めて、暗闇に向かって俺は言う。


おい。出て来いよ。もういいだろ。


暗闇から人影が幽霊みたいに出て来る。


影の正体は奴だ。


俺は薄々感じていた。こういう奴は、諦めることはないのだと。


異常な執着心。イカれた思考回路。


どちらかがぶっ壊れるまで続くチキンレースになると、あの時に思った。


奴の手には包丁が握られている。


俺は周囲を確認する。人通りも無く、人家からも見えていない位置にいる。


そもそも、雪がしっかりと降っている。


良し。じゃあ、やるか。心の中で覚悟を決めた。


彼女の家に着いたのは少し遅くなってからだった。


俺は怒る彼女に平謝りし、プレゼントを渡した。


彼女は怒る素振りを見せながらも、プレゼントの中身を見て、


泣いた。


プレゼントしたのは結婚指輪だ。つまり、俺は彼女に、


プロポーズをしたのだ。


彼女は泣きながらも笑った。可愛いと思った。


俺は彼女に感謝していた。俺のことを変えてくれた彼女に。


俺は・・・


世界一の幸せ者だ・・・


そして、世界一・・・


浅はかな野郎だ・・・


翌日、奴の死体が近くの公園の多目的トイレで発見されたニュースが流れた。


妻は少し動揺していた。俺はもう大丈夫だと落ち着かせた。


奴を殺すのは少し苦労した。


なるべく痕跡を残さないよう、奴の持っていた包丁は処分した。


争った形跡も消した。まあ、雪が積もってくれるから、大丈夫だろう。


それに、死因は窒息死だが、凍死として扱われるのを期待しよう。


多目的トイレで寝落ちして、あまりの寒さで死んだ。


これが俺の筋書きだ。随分と酷い筋書きだが。


あの公園に監視カメラは無いし、道中もカメラを極力避けた。


まあ、昔の経緯から俺と妻に辿り着かれたとしても、


証拠は何も無い。


俺はビビりながら生きていくつもりは無い。


妻との幸せな時間を生きる。たとえ一瞬だとしても。


俺は奴の最期を思い出す。


そして、心の中で・・・


俺も・・・

お前も・・・

浅はかな野郎だ・・・と呟く。

連載するつもりですが、胸糞系なので、ご注意ください。

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