浅はかな者達part1
浅はかな者達の辿る末路
午後の3時を迎えた頃、気分転換に散歩でもしようと思い、
私は家を出た。
穏やかな外気に触れ、気分が和む。
とても気持ちの良い日だと思った。
久々の平日休みで、昼頃まで寝ていた。
今日はまだ食事もとっていない。
軽い食事でもしようと考え、人通りの多い道へ出ようとした。
いくつかの小道を抜け、あと少しで大通りへ出るところで、
思わぬ事態が起こった。
狭い路地で端の方に寄ればぶつかることはないのだが、
目の前から高校生の男5人が狭い路地いっぱいに広がりながら、
大声で喋りながら近づいてくる。
脇道もないので、私は精一杯端に身を寄せた。
しかし、高校生達は私が見えていないかのように、
変わらずに広がりながら歩いてくる。
私は立ち止まりながら、最後には彼らが避けてくれると思っていた。
だが、彼らは私に気付いているし、ニヤニヤしながら目一杯に広がり、
私にぶつかってきた。
私にぶつかった高校生が大きな声で「いってぇ!やられたわ!」と言う。
その瞬間、彼らが一斉に笑い始めた。
「はい!暴行罪!」「キッショ!」「おっさん、駄目だよ~!暴力は~!」
と、口々に私に向けて言葉を放つ。
とはいえ、私は何も悪いことはしていない。立ち止まっていただけである。
彼らが私を罵倒している間にすっと脇を抜けて行こうと思ったが、
「おい!待てよ!」と肩を掴まれた。
私はやめてくれと言うが、彼らは私を囲み始めた。
私は溜息を吐いた。
彼らは威圧感を出して、私に言う。
「おい、おっさん。慰謝料」「詫びは?」「キモイなこいつ」
「生きてる価値無いでしょ」「調子乗ってるとやっちゃうよ?」
と、散々な言いようだ。
私は呆れながら、彼らの制服を見て、高校名を思い出す。
彼らの高校はこの辺りでは有名で、制服の評判が良いので、
それ目当てに入学する人もいると聞く。
学力も悪くないので、一種のステータスと誇る者もいる。
私は下手に刺激しないよう、彼らに言う。
君達と関わりたくないので、もう行くと告げる。
高校生達は汚物でも見るような目で舌打ちをし、
興味が無くなったのか、囲むのをやめた。
去り際に「ボケが」「死ね」「ああいうのって生きてて意味あるのかな?」
と、最後まで侮蔑的な言葉を吐いていた。
私は大通りへ出たが、食事をしようという気持ちは無くなっていた。
時間にすれば5分~10分ほどの出来事だったが、私は非常に悔しかった。
苛立たしかったし、不思議でもあった。
何故、彼らは、見ず知らずの人間に、あんなことを言えるのだろうか?
何の意味があるのか?
彼らにとって私はどのように見えていたのか?
もし、仮に、私が強面だった場合、彼らは道をあけたのだろうか?
もし、仮に、彼らの人数が少なかったら?一人か二人だったなら?
もし、仮に、私が誰かと一緒だったら?
もし、仮に、私が彼らを圧倒できるほどの戦闘力を持っていたら?
いや、やめよう。こんなことを思考していても意味は無い。
私は家を出た時とは逆に、最悪な気分で帰宅した。
家に帰るが、気分が晴れるはずもなく、どんよりとした一日となった。
翌日から仕事に行った。
仕事中もあの時のことを考えてしまう。
どうするのが正解だったのか、ずっと脳内で考えている。
意味が無いのは分かっているが、それでも、
脳裏に焼き付いた彼らの顔が出てくる。
仕事から帰り、家に着いた時、私は声には出さず、叫んだ。
~数か月後~
私は自分の気持ちに正直になることにした。
どんなに自分に言い訳をしようと、気持ちが晴れることはない。
どんなに意味が無かろうと、私は、自分の気持ちに正直になることにした。
仕事は辞めた。
これから行うことを考えれば、会社に迷惑を掛けるからだ。
これから行うことは決して許されるべきものではない。
私は最悪の犯罪者となるだろう。
しかし、それでも、これを実行しなければ、私の尊厳は戻らない。
思考が自分以外のものに支配されている気すらする。
彼らの行動パターンを調べた。
放課後に寄る場所や、たむろする場所を把握していた。
彼らの家も、もちろん把握していた。
あの時の狭い路地はほとんど通ることがないレアケースのようだった。
最初のターゲットは決めていた。
私にぶつかった奴だ。
奴が仲間と別れ、一人になり、家路につく道、そこに私は車で張り込んでいた。
辺りは暗い。人通りも無い。実行することに決めた。
奴の姿を車内から確認し、私は車から出て、来るのを待った。
ながらスマホをしながら、周りのことなど気にもせず歩いて来る。
私の前を通り過ぎた瞬間、私はスタンガンを奴の首筋に浴びせた。
レンタルした大型コンテナの中に車を入れ、奴を車から降ろし、
椅子に縛り付ける。拘束が解けないようにしっかりと厳重に。
奴にペットボトルの水を掛ける。
ハッとしながら、奴の意識が目覚める。
きょとんしながら状況を把握しようとしている。
そして、拘束されていることに気付くと、恐怖が顔に現れた。
奴は私を見る。私も奴をしっかりと見据える。
奴は動揺しながら言った。
「誰ですか?」「ここはどこですか?」「助けて下さい」
「僕は悪いことはしてません」「お願いです。助けて下さい」
と、告げてくる。
私は奴が喋り終わるのを待ち、告げる。
私を憶えているか?と問う。
奴は私の顔を再度、まじまじと見つめる。
奴は静かにゆっくりと首を振る。
力の無い声で「分かりません」と言う。
私は、以前にお前と仲間達に狭い路地で囲まれ、
散々罵倒された者だと告げる。
奴はきょとんした顔から、一転して恐怖の表情を作った。
私は奴の本名を本人に告げる。奴は絶望した顔をする。
その後は、奴の一方的な謝罪叫びが始まる。
要約すれば、非常に反省しているし、二度とあんなことはしない。
と、言っているようだ。
あまりにも予想通りのリアクションに、私は逆に怒りを感じた。
奴の叫びを遮り、私はいくつかの質問をした。
何故、あの時、避けなかったのか?
何故、あの時、私にあんなことをしたのか?
もし、あの時、私の見た目が違っていたら?
もし、お前らが一人か二人だったら?
もし、あの時、私が誰かと一緒だったら?
もし、私が、強力な力を持っていたら?
もし、私が、裏社会の人間だったら?
そういったことを考えなかったのかと問うた。
奴の答えは、これまた想像通りだった。
これも要約すれば、何も考えておらず、調子に乗っていた。
許してほしい。とのこと。
私は酷く落胆した。
とんでもない虚無が私を襲った。
なんてつまらないリアクションだろう。
全てが予想していたリアクション。いや、それ以下だった。
なんて・・・
なんて浅はかな者達だ・・・
私も含めて・・・
今、拘束している奴の両隣には、まだ、空席の椅子がある。
空席の椅子は、あと4つ。
恐らく、この椅子全てが埋まることは無いだろう。
明日には、目の前のコイツがいなくなったことを怪しむだろうし、
警察が捜索を開始するかもしれない。
どのみち、私は自分の犯した罪から逃げるつもりもない。
ただ、できるだけ、この空席を埋め、人数が揃ってきたら、
再度、問うのだ。何故?と。
人数が増えれば、奴らは態度を変えるだろう。
団結力と意味の無い虚勢を張り、私をまた罵倒するだろう。
いや、そうでないと駄目なのだ。
奴らには、あの時のように、強さを見せてほしいのだ。
どんな状況でも、どんな相手でも、強さを見せられるのであれば・・・
私は満足して、彼らを無傷で解放しようと思っている。
私が欲しいのは謝罪ではなく、彼らの本当の強さを見たいのだ。
ただし、全員が全員、何も考えてなかったとか、調子に乗っていた、
こんな言葉しか言わないようなら・・・
事態は最悪の結末を迎えるだろう。
いや、どのみち・・・
もう、最悪か・・・
連載するつもりですが、胸糞系なので、ご注意ください。
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