1話 オフィスは暗く
何をおもっていたのか、僕は会社の屋上で夜空を眺めていた。残業は終わっておらず、自分のデスクに放置されている。
何時間も机の上にいたが、いよいよ辛抱が足りなくなり、資料をデスク上に整理しておき、椅子を立った。周りには誰もいない、オフィスはすでに消灯しているが、自分のデスクだけを固定ライトが照らしていた。
つけっぱなしにしてオフィスを出て、何の気なしに暗い廊下と階段を経て、僕は屋上に出た。ただ無心で星を眺めていた。小さく動く星がある。それは星ではなく飛行機のようだ。流れ星よりもゆっくりとしたスピードで直進方向に進むそれは、時の流れを時間軸上を流れる直線グラフのように描写している。
ぼくは何か飲もうと思い、屋上の一つ下の階の自販機に行くことにした。11月の肌寒い季節には、温かい飲み物が欲しくなる。だれもいないだろうと思い、ネクタイを緩めて一番上のボタンを2つほどあけたTシャツが、秋風を体に取り込んだと思ったら、体がぬくもりを求めだしたのだ。
僕は屋上を後にして、自販機に向かう中で、暗闇の内で現状の自分を考えた。彼女に振られ、仕事の要領が悪く、上司から叱られ、同僚からは下に見られ、後輩からは同情を買う。重大なミスは起きていないが、それは自分が重大な仕事をそもそもまかされられなくなってきているからだ。日ごろからミスは多く、スーツもしわだらけで、ネクタイもきたない。机の上はすぐ汚くなるし、電話対応など天敵である。とにかく自分は、思い描いていた理想の社会人とは程遠い、ダメ社会人である。そんなことを思っていたら、自販機についた。そこで僕は気づいた。
「しまった。そもそも自販機の販売時間を過ぎているじゃないか」
あまりのおっちょこちょいがおかしく、僕は独り言を言った。そうして階段をまた降りて、おもむろにコンビニに向かうのであった。