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【完結】シンデレラ・パーティ~溺愛王太子が開く壮大な王太子妃選抜パーティ(出来レース)ヒロインの都合は無視  作者: buchi


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第9話 閉店後、痩せ騎士、拾われる

私は親切な隣の商店主にだけ、店をもう閉めることを伝えた。


だって、十分なだけのお金が手に入ったんですもの。これだけあれば、食べ物を節約すれば、冬を越せるだろう。粗食には慣れているし。


表向きの閉店理由は、材料のベリーがもうないから、だった。


至極まっとうな理由だと思う。

まっとうだから、順番の列を仕切りたがる黄色いシャツの男も、名前のない、日に日にやせ細っていく貧乏騎士様も押し切れると思う。


商店主の奥さんは、子どもが四人もいたので店に出ることはあまりなかったが、たまに会うとうわさ話をあれこれ教えてくれた。なんでも五人姉妹がいていろいろ情報が伝わって来るそうだ。噂話も聞くだけなら楽しい。


庶民の間でも、王子王女の結婚は興味のある話らしく、いろんな話が話題になっていた。

最新のニュースとしては、なんでも、どこかの国で、勢力拡大を狙う貴族たちが、王太子殿下の婚約を無理矢理破棄させて、代わりにその勢力の家の令嬢と婚約させようと画策しているそうだ。


「へええ……」


そんなこともあるのね。


「かわいそうに」


商店主の妻は、婚約破棄された令嬢にすっかり感情移入して同情的になっていた。


「愛し合っている二人の間を割くだなんて。婚約破棄された令嬢はすっかり悲観して修道院に入ってしまったそうなの。その後、自殺したそうよ」


「それはまた悲惨な……」


自殺するくらいなら、一緒にジュース売りをやりませんか?


それに、婚約者と言っても、本当に愛し合っていたのかどうか。王族の婚約者なんか形だけですよ。私なんか、肖像画しか見たことありませんし。


でも、そんな内部情報を商店主の妻に話す必要はないので、黙っておいた。


「ジュース売り、やめるんだったら、しばらくお別れなのかね?」


商店主の妻は残念そうだった。


「買い物には来ますから、よろしくお願いします」


「リナってば、しゃべり方、スッゴク堅苦しいのね。いつでも来てよ。歓迎するわ」



念のため、『ベリー品切れのため、ジュース屋は終了しました。長らくのご愛顧、ありがとうございました』と看板を掛けておいた。


ふう。これで事情は、みんなにわかってもらえるだろう。



その日の夕方、私はドアを叩く音に、片付けを中断させられた。


「開けて! 開けて!」


えええ?

男の声だ。ひいいいい。絶対に開けてはダメだ。

なんなの? 何があったの? 火事? 暴動?


あれ? でも誰だろう? 聞いたことのある声だ。


「ジュースが欲しい。お願いだ、ジュースだけが命の綱なんだ。ここ数週間……。ほんとに死んでしまう」


この声はイアン。貧乏痩せ騎士様の方だ。


「誓って言う。ジュースにしか関心はない。あなたに興味はない。もう、店を閉めるって聞いた。頼む、ジュースを分けて欲しい」


むうッ? なんだとう? ジュースにしか関心がないだと?


「嘘は言わない。ジュースだけが欲しい」


私はバンとドアを開けた。失礼ね! ドアを開けた拍子に、もつれたような足取りで騎士が中に入ってきた……と思ったが、足元に黒っぽいものが転がっていた。


「ジュースの作り主さま……」


床に転がった痩せ騎士が哀れっぽく言った。



なんだか無性に腹が立った。


私には、ジュース作り以外、値打ちはないのか!


……ないだろうなあ。


気がつくと、痩せ騎士様は、安心したのか気を失っていた。


瘦せ騎士を見て思い出したのが、セットで来ていた黄色のシャツだ。


ジュース以外に関心がない痩せ騎士はとにかく、肉付きが良く丸々と肥え、毎日、ウチの客を仕切っていた黄色のシャツの方は意味が分からない。

あれは何かのファンなのか、ただの仕切りたがりなのか。


ヤツは毎日やってくる。私が何時に店を開けようと、必ずいた。

ずーッと見張っているのかしら。なんだか怖い。

そして、この貧乏痩せ騎士とは、永遠の敵対関係にある。


痩せ騎士の方はとにかく、黄色のシャツの方は、触らぬ神に祟りなしの匂いがプンプンする。万一、そいつに見つかると、とても面倒な気がする。自分も家に入れろとか言わないかしら? それでなくても誰かに見られたら、何かの誤解を受けそうな気がする。ナニとは言わないけれど。


そこで、私は気絶しているのを幸い、騎士様を手荒に部屋の中にけり込んで、厳重にドアを閉めた。


だんだん立ち居振る舞いが、公爵令嬢から遠ざかっていく。いいのかしら?


だが、痩せ騎士が転がった後の床には、奇妙な液体が付いていた。


「血?」


違った。奇妙な、嗅ぎたくない匂い。


「これは……呪いだわ……」


腹のあたりが黒ずんでいる。何かが染み出ている。


あれは…… なにかとてもまずいもの。放っておけないもの。


失礼だと思ったけれど、そして淑女としてはあってはならない行為だが、私は騎士様の服を脱がせた。チャッチャと素早く。


思った通り、腹に大きな傷があった。


「よくこれで何週間も生きながらえて来たわね」


古い傷だ。それなのに、ちっとも治っていない。


「このまま暮らしていただなんて……」


よく生きていたわ……




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