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マホウヲハコブモノ  作者: まきなる
終章
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第四話 対は青 後編

 アニマは彼方の書庫の本を片っ端から取り込んでいた。あらゆる事象、魔術、呪いが記載されたそれは、取り込めば取り込むほど力を増すことができるのだ。彼方の書庫の在り方は単純、全ての世界を跨いで繋がる場所だ。その性質を利用してアニマは世界に干渉した。最後まで甘美な力を利用しない手はない。


 空間に無数のヒビが生まれ、現世とも魔法界とも違う世界と接続される。アニマはいまだ椅子から立たない。立つ必要がない。頭で描いている全てが思い通りに動いているのだ。空間を割いて、異物を呼び込むことなど造作もなかった。


 幾千の世界は、彼方の書庫の蔵書から生まれた産物。化け物どもが生まれ落ちて、リックとヴィドの前に立ち塞がった。その一体一体は各国が総力を上げて討伐するほどの相手だ。だがリックの目は熱を失わない。


『 陰影 呼吸を食べ 口減し忘れ 我は夢幻に邂逅した 影の中とこしえに 』


 リックが言葉を唱える。何かに追われ続けた少女、誰よりも涙した彼女が目指したのは”模倣”だった。


 彼女の影から、見覚えのある姿が這い出でる。雨木を襲った悪食と呼んだ精霊をはじめ、彼女がこれまで出会ってきた魔獣達が生み出される。そして、三骸体のアドニスおよびドゥーハの模倣体も生み出されていた。生から死へと道が一方通行なら、生の情報を持った何かを作りだせば良いのだ。


 彼らはオリジナルと何ら遜色ない。それどころか、リックから対高次元の防御魔術を施されているため、オリジナルよりも強力である。


「私が道を作る。ヴィドさん、あいつはどう?」


「今まで出会ってきた存在の中でも一番強い。リック、魔術はどれくらい持つ」


「2分は頑張る」


「時間が来たら離脱する。いいな」


「うん」


 リックが瞬きした瞬間、両陣営の異形達が衝突した。リックの足元からは絶えず異形達が生まれる。アニマも無尽蔵に出し続け、両者の力は拮抗しているように見えた。しかし、リックの魔力には底がある。アニマの方が俄然優勢であった。


 ヴィドは目を見開き、言葉を使った。


『 心帰せり 陽を鳴らせ 』


 エドワードに放った魔術だ。とても室内で放つものではないが、彼方の書庫は幸にも外界よりも広い。それでもなお響く、魔力が軋む音。しかし、まだヴィドはアニマに向けて撃たない。


『 禍の歌 火毒を結べば 標は燃え 』


 言葉が続く。魔法では無いはずだ。アニマに届くはずがない。だが彼は本能的に危機を察知し、妨害を試みると同時に儀式を急いだ。不完全な状態になったとしても、もう一度存在を消されるよりはよほど良い。


 妨害が上手くいかない。フリーとなっているリックは歯軋りで出血しながらも、アニマからヴィドを守る。刃がヴィドに向かって飛ぶが、彼の力はリックによって叩き落とされる。


「 ⬜︎ ⬜︎ ⬜︎ ⬜︎ ⬜︎ ⬜︎ ⬜︎ ⬜︎ 」


 彼の口が動くと共にアニマ周辺の空間が歪む。仕掛けを起動すれば世界の理が膝をつき、彼周辺にエネルギーが集まるのだ。そしてアニマは呟く。


「全てを奪いたかったが仕方ない」


 ヴィドは放つ相手を見据える。言葉の最後は空間に散った。


『 茨の道は己と連れ立つ 』


 低い音と共に、アニマが呼び出していた魔物達が掻き消える。衝撃波すら置き去りにするその力が解放された刹那、アニマが行っていた儀式が完了し始める。本来であれば、このヴィドの力を受け止め切ることはたやすい。


「させない!!!」


 リックは残る力を振り絞って生み出していた化け物たちをアニマへと向かわせる。許容外の力を振るい、彼女は鼻血を垂れ流して膝をつく。


 彼女の負担は大きい。薄っぺらい平面である二次元が、三次元の力に耐えるにはただひたすらに硬度を上げる必要がある。アニマの高次元に対抗するには、気が遠くなるほどの硬度を持たせる必要があった。加えて、彼女は自身とヴィド、魔獣達に同時に魔術をかけている。計り知れないほどの負荷が彼女を襲っていた。


 だが儀式が完了していたアニマがフッと息を吐くと、リックの召喚していた化け物達も瞬く間に消え去た。アニマの方がさらに魔獣達を呼び出せることができるため、有利差はさらに広がる。


 ただヴィドの魔術は放たれていた。この大きすぎる力。数コンマも無い時の狭間、ヴィドの魔術は流石に回避しようとアニマは考える。しかし、彼の体は微動だにしなかった。何かが彼を縛っていた。


 振り向く。思わずアニマは笑みを浮かべ、思考する。


『せっかくだし、ボクは君とも話したかったんだけどな』


 綻びは無知から生まれる。彼は知らない。彼女達がどんな思いでここにいるのか。興味本位で呼ばれ、感情を弄ばれた彼女はそうだ。誓っていた。アニマ自身の呪いによって汚れ切った魂を拾い上げた時に気がつくべきだった。


 書庫の奥、アニマが閉めたはずの扉が開いていた。そして老人に支えられ、体が崩壊しかけている女性が一人立っていた。本来開くはずのないドアを無理やり開けたのだ。代償は大きい。だが彼女は叫ぶ。響くはずのない空間に声が突き刺さる。


「たとえ輪廻に帰れなくなったとしても、私はーー」


 一人の少女。彼女は何の変哲もない両親の下に生まれ、後悔を残したままエリムの素体とされた。だが、形を変えても妹を最期まで守り抜く。


 他を悉くかなぐり捨てて理論の構築をひたすら行い、彼女は到達した。彼方の書庫でエリムとして培った全ては、期せずして妹と同様の次元に干渉する極地に辿り着いていた。たった一瞬だけ。それだけでもいい。動きを止めさえすればいい。彼女はヴィドを信じていた。だからこそ、力を振り絞ることができる。


「全てを終わらせるんだ!!!!」


 彼女の一瞬の妨害によって、アニマの体は動かない。致命的だ。彼はヴィドの魔術を受け止めてしまった。侵食される。忌避すべき事が彼の身に降り注いでいた。純粋な威力としても世界最高。加えて道の魔術の応用で、空間ごと消しとばす力を得た魔術は絶技に等しい。この魔術が、アニマにとって最も受け止めたくない現実だ。


 アニマが、彼女達の故郷に行ったことと同じ事だ。同一面を破壊する力、原理的には違わない。やがて彼の姿が無くなる。しかし、リック達は安堵ができない。


 空間が無くなった余波によって発生した吸引力は、彼方の書庫を内側からの崩壊を促すことになる。そして踏ん張っていたリックの視線にそれは映る。黒い粒子が、吸引される向きと逆に進んでいた。



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