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マホウヲハコブモノ  作者: まきなる
第二章
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第三話 箱庭は誰のもの 後編

 海斗は魔法界に来てすぐに魔術を使えるようになった。習得をした後、彼は雨木の体に魔力の痕跡がないことに気がついた。彼の魔力の性質は探知に長けていた。野生じみた彼の嗅覚は魔術によって研ぎ澄まされ、雨木の体の真相に個人的にたどり着くことに役立つ。だが、琴吹郵便局には自身の力では向かうことができないことも事実として彼に突き刺さった。


 魔力の無い存在について調べている最中、雨木の体と空の魔女との関連性に彼は気がついた。そして彼は調べていくうちに彼方の書庫の奥、エリムの部屋に迷い込んでしまった。書店の店員は彼の存在を誰も知らなかった。海斗はエリムに雨木が何者なのか問うた。エリムは海斗の予想通りであると答えを出し、一冊の本を彼に手渡した。同一面の破壊はそのたった一冊の文献に載っていた空の魔女の危険性だ。


 凪が自分にとってどのような存在かもすでに彼は思い出していた。同一面の破壊という事象に関連する可能性がある雨木が彼女のそばにいれば、危険に晒す。彼はエリムに協力を申し出た。それは自分の力では行くことが叶わない琴吹郵便局に一つの手紙を送るということ。雨木の部屋に置いたのは、もし雨木が先に見つけた場合、自ら黙って郵便局を離れる可能性があったからだ。


 自己犠牲の性質があった雨木の性格を利用するということはエリムの提案だった。手紙は海斗自身が書いた。帰ってこないと言うことは、居場所を見つけられたかもしれない。やっと彼が見つけた居場所を奪う可能性がある。賭けであり、海斗なりのせめてもの贖罪だった。彼は潰れた紙を拾い上げると宙に投げる。紙は近くにあった屑カゴに入った。


「同一面の破壊が何を示すのかは調査中というか解読中。だがわかっていることとして、それの周期は近づきつつあると言うことだ。ま、近づいていると言っても俺らが死んだずっと後の事だろうがな!」


 事実を海斗は茶化して話す。雨木は何となく怒らないだろうと思っていたが、凪がかなり殺気立っていたので流石に怖かった。それに椅子も何度か下げようとしていたが、やっぱりなぜか下がらないのも不気味だった。


「雨木透、こちらも終わった」


 突如どこからか声が聞こえたと思えば、海斗の後ろからリックが姿を現した。すると途端に硬く動かなくなっていた椅子も軽くなった。リックを見た海斗はフードを外した彼女の顔を見て硬直し、両手を上げて降伏の印を示す。


「すぅー美人だね〜これはどういうことかな?俺は話をしたけど……っつ」


「少し痛いだろうが我慢してくれ。きっと私の記憶が流れ込んできているはずだ」


 頭を痛がる海斗をよそに、リックは報告を始めた。彼女は以前、雨木に使った記憶を見る魔術を海斗に使っていた。姿をくらますことも得意分野であるため、雨木が話を聞いている間に魔術をかけていた。リックの報告は海斗の話と合致した。彼は嘘をついていない。黙っていること、本人が気がついてしない深層心理も彼の中には無かった。相手の記憶を読み取るためには、自身の記憶とリンクさせる必要がある。かつてリックが雨木の記憶も見た時も同様だった。知られたくない相手に使うにはリスクが伴うが、今の状況では逆に都合がいい。


「中々面白い事やってんね。雨木?」


 頭を押さえながら、海斗が記憶の旅から戻ってくる。顔を上げた彼が最初に見たのは、悲しげな表情を浮かべる雨木の姿だ。


「ごめん海斗、こんなやり方で。だけど、僕たちは何としても空の魔女の情報を知らなきゃいけなかった。君を信じれなかったんだ」


 海斗は腹を抱えて笑い出した。


「そりゃそうよ!俺のことは信じられないだろうね!だがこれからは協力を惜しまない。まどろっこしい役割をする必要も無くなったからな。あー肩の荷が降りたら、大学の課題が終わってない事思い出しちまったよ。で、どうする?」


「それはエリムの事?空の魔女の事?」


「両方さ、この箱庭はエリムのもの。全て彼の思うがまま。笑顔の裏に何があるのかは、俺も全くわからない。だがー」


「僕は何度でも扉を開けるよ」


「そう言うと思った。早速行くか?」


「待って」


 凪が行こうとした雨木の腕を掴む。少し手が震えていた。雨木が首を傾げると、凪は海斗を見つめた。


「大曲海斗、あんたが触った詩篇はどれか教えて。あの魔術を覆すことができるものが、この世に存在するとは思えない。私は知らなきゃならないんだ」


「もちろん、エリムのところに向かう間に案内しよう。他ならなぬ凪さんの頼みだ。そんなに切羽詰まった感じ出さなくても大丈夫さ。で、相変わらず、俺の後ろにいるレディはどうしたい?」


「レディと呼ぶな。私にはリックって名前がある。私は雨木透と同じ、空の魔女の手がかりだけでいい」


「りょーかい。ねぇねぇ、海斗くんって呼んでよ。俺はリックちゃんて呼ぶからさ」


 リックは咄嗟に身構えた。困惑した表情をしたまま、海斗を睨みつけて答える。


「好きにしろ」


「海斗、君はそういうところじゃないかな」


「俺は自分のスタンスを変えるつもりは無いぜぇ」


 すぐに一行は再び書庫に足を踏み入れた。相変わらずこの空間は不思議な場所だ。だが雨木と凪は前回よりも動くことに慣れていた。リックに関しては、目を見張るものがあった。書庫に入るないなや、空間を泳ぐように自由に飛び回って本を探していた。


「こんなに飛び回ることができるなんて凄いな〜そうそう、触る時はこの手袋つけてくれよ」


「ん」


 海斗が触った詩篇も書庫のかなり高い位置にあったため、リックにとってもらった。例の詩篇に触れた凪は頭を抱える。何も無かったのだ。今は何も魔術も魔力もこもっていない本当に紙切れ一枚だった。これでは、何が起こっているのか全くわからない。海斗と凪は相談の結果、一度郵便局に詩篇を持ち帰ることにした。


「そうだ、渡した本については後で返してくれよ。解読がまだ終わって無いんだ」


「海斗くん。その本だけど、私なら君より早く解読できる。ここの書庫の文献を使えば効率的だ。こんな場所があるなんて……もっと昔に知っていれば」


「じゃあ、今はもう見つかったわけだし、さっさと解読しなきゃな!返してもらおうと思ってたけど、それならリックちゃんが持っておいてくれ(うぉ、海斗くんって呼んでくれてる……)」


 海斗はリックに本を投げる。本を受け取ると彼女は少し笑顔を見せた。少し気恥ずかしかったのか、海斗は何かゴニョゴニョ言いながらエリムの元へと向かい始める。彼の歩くスピードは少しだけ速かった気がした。


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