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マホウヲハコブモノ  作者: まきなる
第一章
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幕間1 ソフィアの好きなこと

 雨木は凪の部屋の前にお盆を持って立っていた。昨日、助けてくれたお礼もそうだが彼女のことが心配でもあった。お盆を持っているのは、凪の部屋がわからなかったためピクシー達に聞きに行った時、ついでに夕食を持って行って欲しいと頼まれたのだ。目の前に並んだ料理は仕事終わりに空腹な雨木にとって毒でしかない。一つ味見をと脳裏によぎるが、首を振って邪念を消す。


「雨木だけど。凪、大丈夫?」


 返事は無い。寝ているのか。さてどうするか。床に置く?もう一度料理を見ると非常に美味しそうであり、なんとなく置きたく無い気持ちがあった。仕方ないし、ピクシー達の元へ持って行くべきだろうと引き返そうとした。すると、部屋の扉の中から人の顔が生えてきた。


「なんじゃい。アメキか。凪は寝ておるぞ」


「体調は大丈夫そうですか?」


「ワシか? ワシは元気じゃぞ」


「凪です」


 ソフィアは眉間に皺を寄せる。容姿よりも子供っぽい。


「わかっておるわい。一時的に魔力の枯渇と疲労で眠っておるだけじゃ。問題ない」


「それなら良かったです。料理を置いておきたいんですけど、中に入ってもいいですか?」


「お主はうら若き乙女の部屋に無許可で入るってのかい。すけべじゃのう」


 雨木は目線を逸らしてしまった。


「大人びていてもアメキも年相応なところがあるのう。それに意外と攻められると弱いんじゃな。前は自分から振っておったのに。老婆は悲しいよ」


「……ほっといてください」


「変化はいいことじゃよ。青年。ほら、中に入って凪の食事を置いていきな」


 ドアノブに手をかけたが、ノブは回らない。鍵がかかっているようだ。何度かガチャガチャやっていると中から声が聞こえてくる。


「どいて、私が開ける」


「うわぁぁ!!」


 勢いよくドアが開いた。雨木はとっさにお盆を避け、ソフィアは吹っ飛ばされて壁の中に消えてしまった。彼女を押し退けて出てきた凪の顔を見ると、疲れが若干残っている顔つきだ。彼女は眠気眼を擦りながら食事を受け取ろうとするが、ふらついている様子だった。


「どこかテーブルまで運ぶよ」


「そう……ありがとう」


 流石に体の疲れがひどいのだろうか。元々ダウナーな雰囲気を携えている彼女でも、普段よりも弱々しく感じる。雨木に頼んだ後、そのままベッドに飛び込んでしまった。部屋の中に入ると左側にテーブルがあった。何も置かれていない。あまり部屋の中をジロジロ見るのも申し訳ない。お盆を置いて立ち去ろうとすると、雨木の服が引っ張られる。か細い力だ。


 雨木は振り返る。彼女は何も言わない。彼が近くにあった椅子に座ると口元を指差す。


「食べさせて。それくらいやって」


 しばしの間、思考を巡らすが出た結論は滞在だった。


「わかったよ」


 凪の口に少しずつ料理を運ぶ。熱そうなものは少し冷まして、大きい具材は少し小さくして、時間をかけて彼女に食べさせた。


「慣れてるね」


「そうかな」


 凪は黙々と食べ続けた。ピクシーが作った料理は見た目からして栄養満点だった。体が弱っている人用に作っているのだろうが、色合い鮮やかで見るだけでも元気が出そうな料理。食事の時間が少し長くなったせいか、すでに月が輝く時間となってしまっていた。


 こんな風に少し甘えてくるのが意外だった。雨木は魔力の枯渇は風邪の症状に近いのだろうかと考える。それなら悪いことをしたと反省する。このまま今日は体を休めてもらわなければ。視線を下げると、雨木の部屋にいたブラキオサウルスが凪の部屋に来ていた。凪がおいでというと布団に潜り込む。ブラキオサウルスは凪に抱かれるとたちまち寝てしまう。ぬいぐるみのようにしか見えなかった。


「何も聞かないんだね」


 そろそろお暇しようかと考えていた矢先に、凪から発せられた。雨木は数ミリ浮き上がった腰を気が付かれないように降ろす。


「いや、凪のおかげで助かった。ありがとう、本当に。助けに来てくれなかったら今頃どうなっていたか。だから今は体を休めてよ。聞きたいことがあったら元気になってから聞くよ」


「判断力が鈍っている今なら聞けるかもしれないこともあるのに?普段と様子も違うと思うし、もったいないよ」


 雨木は口元を抑えて笑う。凪には羽山が笑っているようにも見えた。


「その言葉だけで嬉しいよ。馬鹿なこと言ってないでさっさと寝なよ。じゃあおやすみ」


 雨木は布団をかけ直し、部屋を後にする。部屋は暗いままだ。凪の隣で寝ている精霊達は温度をあまり感じない。ぬいぐるみのように抱きしめると、少し可愛い鳴き声がした。



 そんな二人のことをソフィアは壁を通して見ていた。幽霊の特権だ。今で言う推し活をソフィアはずっと前からしていた。今の推しは凪であり、彼女の顔の変化を常日頃から楽しみに現世に留まっている。雨木が一緒に住むことになってから、凪の表情の色の種類は増えた。今までニ原色しかなかった心の色が、今は三原色となって多くの表情を出している。


「良いのぉ〜」


 彼女は下手に干渉しない。できる限り邪魔をしない。今日もソフィアの推し活は絶好調だった。




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