七話 誓い
「お待たせしましたー。コーヒーとカフェオレになります」
「どうも」
俺はあの後、紫弦と一緒に近くの喫茶店に入っていた。
…………沈黙が続く。
「久し振り……だな……」
「えぇ」
それだけの返し。
謝りたいことはたくさんある。
俺が書くことに必死で紫弦を放置し続けてしまったこと、挙句には別れを告げてそのまま去ってしまったことなど。
色々……一から全てを謝りたいがどれから……たくさんありすぎて上手く言葉に出来ない。
そこで俺は考えるのをやめて、一言に全てを込めた。
「本当にすまなかったっ」
謝罪の言葉をたくさん重ねても言い訳がましくなってしまうだろう。俺は謝罪に合わせ頭を下げる。
「……生活が変わって落ち着いた?」
「冷静に考えられるようにはなったよ……。紫弦にどれだけ負担をかけていたのかも、後から気づいた」
「そう。まぁでも負担とかはどうでもよかったのよ、私が好きでやってたことだし」
紫弦は怒っていないのだろうか……? 妙に冷静だ。
「だけど、急に別れてくれって言って逃げ出したことだけは許せないわね。私の意見くらい聞きなさいよ、ってね」
「その通りだ。全部俺が悪い、俺が弱かったから……」
「そうじゃないわよ。彼女としてあなたを支えきれなかった私にも責任はあったし」
「いや、そんな紫弦はなにもっ――」
「そういうところよっ!」
ここで初めて紫弦が語気を強めた。
「もっと私に頼ってくれればよかった。悩みがあったなら愚痴ってくれたっていいし、私に不満があればそれを言ってもいい。――なんでも一人で解決しようとするのはやめてっ!」
「紫弦……」
そんなに俺のことを考え……想ってくれていたのか。
俺は隣にいた彼女のことすら何も見えていなかった。それではラノベも上手くいくはずがない……。
「零也の悪い癖よ。一生懸命だけど、周りが見えなくなることがある」
その通りだ。
「で、一番聞きたかったこと。私のこと好きじゃなくなった?」
そんなはずはない。
「――好きだよ。半年経っても寂しさはずっと残ってた。俺にとって紫弦はかけがえのない存在、心の支えだったって離れて改めて感じた」
「じゃあやり直さない?」
「……へ?」
思いもよらない言葉だった――。
俺は怒られていたのではなかったのか……?
「落ち着いたんでしょ? それで反省点も見えてまだ私のことが好き。なにも問題無さそうだけど」
「いやいやいや、紫弦はいいのかよっ!? こんな俺で」
「よくなきゃ途中で私から別れてって言って出て行ってたわよ。零也が頑張ってるなか苦しんでるだけだってのも分かってたし、気に入らなかったのはさっき言った一点だけよ」
本当に俺にはもったいない女性だ。
なんでこんなにも、と俺のほうが疑問を抱いてしまうほどの。
「……別れてからね、私も色々考えたのよ。他の男性と二人で話したりもしたわ、でもどうもしっくりこなくてね。どう?」
「そりゃあ俺に断る理由なんてない」
「そ、良かった」
「だけど――」
俺はまた甘えるだけでいいのだろうか? あの時は夢だったラノベ作家として曲がりなりにも頑張っていたつもりだ。
では現在は? 誇れるものは?
――なにもない。
「もう少し待ってほしい。これはわがままなのかもしれないけど、俺はもう一度ラノベ作家として挑戦したいと思ってるっ。っていうと見栄か……、紫弦とまたこうして会って話してるうちに熱を取り戻せた。今はまだクローライフの冒険の続きすら書けていないけど、それを完結させたら出版社に頭下げてもう一度やらせてもらえないかって頼んでみる」
ここで息継ぎ。
「それでラノベ作家に戻って新しく本を書けたその時、俺から紫弦に告白する。いまのまま付き合っても俺が俺を認められないんだっ――」
言い切り、俺は紫弦の表情を恐る恐る確認する。
「ふふっ」
紫弦は笑っていた。
「なんか昔に戻ったみたいね。ラノベ作家になるのを目指して頑張っていた時みたい」
そうだ、俺はあの時やる気に満ちていて、しかも書くのをただただ楽しんでいた。
「分かった、じゃあ待つことにする。――だけど、あまり長く待たせすぎないでね? 私これでも割とモテるから気が変わるかもしれないし」
「これでもって……モテるのなんて嫌ってほど知ってるよ。俺がどれだけ学生時代紫弦のことで苦労したと思って……」
男女両方からの嫉妬やなんでお前がという蔑みの目。早く別れろといった言葉や、脅しの手紙。
直接暴力などを受けたことはなかったが、ギリギリのラインで常に圧をかけられていた。
「まぁそれは置いといて……。任せてくれ、どれだけ長くても三年以内にはけりをつけるから」
「楽しみにしてるわ。それと、これからたまには連絡すること」
「あぁ……。本当にありがとう紫弦、愛してる」
「そういう言葉は後に取っておきなさい。それじゃあ今日はここまでね、話せてよかったわ」
二人で店を出ると、そこで紫弦とは別れた。
俺は走って駅へ向かい、急いで家に帰る。
「やってやるっ」
突然の紫弦との再会。
俺は一番燃えていたあの時並みにやる気に満ちていた。




