六話 再会
「ふぅ……」
あれから少しずつクローライフの冒険を読み進めていたが、やっと一巻を読み終えた。
最近は真由に小説の書き方を教えているため、なかなか読む時間を取れないのだ。
今日は日曜日。キリも良くなったところで俺は外出することにした。
電車に揺られ、二つ隣の駅へ――。
電車から降り少し歩くと、神社が見えてきた。
降りた場所は静かで人通りも比較的少ない場所である、それなのになぜここにきたのかというと……。
「悔いの残らない、最高の続きを書けますように」
そう、神社に祈りにきたのだ。
基本的に俺は占いや神頼みなど、根拠のないものは全く信じない。しかし、実績を残したここだけは少しの信頼と感謝があった。
ライトノベル作家になれる大学生のラストチャンス、新人賞へ応募してからここに連れてこられた俺の願いを叶えてくれたのだから。
「そう言わないの、頼れるものには何でもいいから頼ればいいのよ。本気なんでしょ?」
彼女――否、元カノの言だ。
ここは思い出の地でもあるということ。
俺が過去を思い出し悲しむのはお門違いだが、果たしてあいつは今幸せにくらしているのだろうか……。
神社を出た俺は、もう目的を全て達成してしまっていた。
静かな場所を好むインドアな俺の趣味はどうしてもオタク気質なものしかない。基本的に普段外に出る時は、仕事か食事か書店に行くかの択くらいでやることもない。
だがここまで来て流石にこのまま帰るのも寂しいか……そう思った俺はもう少しその辺を歩いてみることにした。
「あーマジで腹立つ、釘ゴミすぎ」
「時間と金の無駄だったわ」
歩いていると、向かいから二人の男の話し声が耳に入ってくる。
声になんとなく聞き覚えがあった俺は、思わず顔を確認してしまう。
「あ? 桐生じゃね?」
「ほんとだ、イキリュウじゃん」
なぜこんな場所で――。
目が合った二人組は、俺の高校の同級生だった。
加藤と村田。当時なにかと絡んできた面倒な存在であり、再会を望まぬ相手であった。
「なんで桐生なんかが竜胆と付き合えたんだよ、弱みでも握ったのか?」
俺の元カノ――竜胆紫弦は校内でも有名だった。
美人で頭脳明晰。高嶺の花のような存在で親しい異性などいない、そのはずだった。が、俺はあるきっかけから接点をもつと、そのまま付き合うにまで至った。
それからちょっかいをかけてきたのが加藤と村田だ。どちらも告白して振られたという噂があったが、本当だったのだろう――。
「加藤、村田……」
「やっぱりイキリュウかよ! 竜胆はどうしたんだよ、もう捨てられたか?」
さっきまでなにかイライラとしていた様子だった二人だが、今はそのはけ口としていい相手を見つけたと嬉しそうにしている。
それとイキリュウというあだ名はこいつらしか使っていない。そう呼ぶ自分たちが恥ずかしいということを自覚していないのだろう。
「…………」
俺は言い返さない。
真実をそのまま話すのも癪だし、かといって嘘をつくのも紫弦に対して失礼だと思ったから。
「おいおい、その反応図星かよっ!」
「竜胆もやっと正気に戻ったか。それとも弄んでいただけか? あれだけ高スペックな女がお前みたいなオタクを本気で相手にするはず無いもんなぁっ?! いい夢見たじゃん」
まぁ聞き流せばいいだろう。別にこいつらに何を言わたところで、どうとも思わない。
外になんて出るんじゃなかったな……ただただ無駄に時間を奪われている現状にそう後悔し、早く立ち去らないかなと待っていると、俺の後ろから別の人の声が急に割って入ってきた――。
「お待たせ零也、今日も暑いわね」
この声はっ……だがなぜっ!?
衝動的に後ろを振り向くと、そこにはここにいるはずがない、俺が理不尽で一方的に振ってしまったその相手――半年前まで付き合っていた竜胆紫弦が立っていた。
「紫弦……なんで……」
「なんでって待ち合わせしてたでしょ? ほら、行きましょ」
もちろん待ち合わせなどしていない。
本当になぜ……頭がついていかない。
そんな動揺しまくりの俺の腕を引いて、紫弦はここを立ち去ろうとする。
が、それをただでは許さないのが二人いる。
「おいおいおいおい、竜胆!? まだ付き合ってたってのかよ?!」
「なんか更に美人になってねぇか?」
加藤と村田の視界にはもう俺なんて一切入っていない。紫弦に釘付けだ。
「誰? 申し訳ないけど知らない人に知った風な口をきかれるの不愉快なの。やめてもらえるかしら?」
『は?』
二人は一刀両断。
まさかの顔さえ覚えられていないという事態に、口を開けたままきょとんとしてしまう。
紫弦は興味のないものに対しては常にこんな感じだ。クールビューティー、その言葉がこれほど似合う女性はなかなかいないだろう。
「いや俺だよ俺、加藤。それとこっちは村田。同じ高校だったろ?」
「オレオレ詐欺って本当にあるのね、しかも対面で。それにもし本当に同じ高校だとしてもごめんなさい、知らないものは知らないわ。話はこれで終わり、行くわよ零也」
「あ、あぁ」
俺はなされるがままだ。
「おい、待てって! ってかちょっと流石にお高く止まりすぎじゃねぇか? こっちが優しく話しかけてやってんのによぉ」
「その態度はねぇよなぁ~。そこまで煽られると俺たちも手が出るぜ?」
二度も知らないと言われ、二人は態度を一変させた。
危ない雰囲気を纏っていて、本当に手を出そうと近づいてくる。
「おらっ、大人しく俺の言うこと聞けよっ!」
加藤は拳を握り、腕を振り上げた。
本気で当てるつもりなのか脅しなのかは定かではないが、明らかにやりすぎだ。
バシッ。
俺はその腕が振り下ろされる前に、拳を掴んで止める。
「なに格好つけてんだよっ、って動かねぇっ!?」
俺は昔、空手を習っていた。その時の要領でなんとか暴力を止めると、二人を睨みつけ圧をかける。
「お、おいやりすぎだ」
「あ、あぁそうだな……帰るぞっ」
後ろの村田がそう言いだしたことで、二人は逃げ出すように走り去っていった。
普段怒らないやつが怒ると怖い。それが俺のようなオタクと馬鹿にするような相手であれば、なお不気味に思えただろう。
本気で喧嘩のような事態になれば俺はとても敵わなかった、脅しってのはここぞって時にとっておいてこそである。
「ありがとう零也、かっこよかったわよ」
「紫弦こそ……あの二人にダル絡みされてるのを助けに入ってくれたんだろう?」
お互いが感謝を伝える。
二人で会話を交わすのはあの時――俺が挫折し一方的に別れだけ告げて逃げてしまったあの日以来。
俺は一体、なにから謝罪すればいいのだろうか――




