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十三話 弟子の洗礼③

「おかえりー、どうだった?」

「ただいまぁ……。ちょっと疲れたから後で話すね」


 私は帰宅してすぐに自室へ入り、ベッドに顔から飛び込み顔をうずめる。


「う~~……」


 あれが普通なのだろうか?

 ある程度の覚悟はしていた。自分はネットでたまたま人気が出ただけで、まだ素人の延長線上にいると。

 だけどこれからはプロとして……書籍化作家として誇れる自分になれるよう努力と経験を積んでいく、そのはずだった。

 それなのに――


「いらないことをしてくれたねぇ」


 変えなくていい、そう小判鮫さんに言われた時の光景が何度もフラッシュバックする。

 作家と編集、二人で最高の作品に仕上げていく。そう思っていたのは私だけだった。

 ネット出身のラノベ作家はみんな同じ道をたどるのでしょうか? そんなことを小判鮫さんに聞いても怒られるだけだろう……。

 私は所詮子ども。社会経験も無ければ伝手もない。


「伝手……」


 強いてあげれば零也師匠がいる。といっても零也師匠も元ライトノベル作家……今は邪魔したくないし、変に心配をかけたくない。頼るのは最終手段にしたかった。

 でも一人だと答えは出ない。

 とりあえずママに話してみよう……。


「とんだクズ野郎ね。私から編集部に文句言ってみようかしら」

「お、落ち着いてママっ」


 事情を話すとママは、そんなのが正しい在り方であるはずがない、と私の味方になって怒ってくれた。一切私の話を疑うことなく、小判鮫さんをクズ野郎とまで言って。

 私の認識が甘かったとかではない……それが分かっただけでも良かった。


「あっちは楽して売りたいんでしょうけど。編集ってみんなそうなのかしらねぇ……私心配になるわ。せっかく真由も頑張っていたのに」


 ママは私のこの一か月の努力と成果を見てくれていた。だからこそ最初は反対していたラノベ作家に対しても、今はこうやって私のために考えてくれている。


「――桐生先生にお聞きしてみるわ。これが編集側の普通なのかって」

「ま、待って!」

「なんで? とりあえず確認してみればいいじゃない。違うって聞けたら担当を変えてもらうように編集部に言えばいいんだし」


 いや、そう。それはそうなんだけど……迷惑が……。


「私から聞いてみるから!」

「あらそう? じゃあ任せるわ。桐生先生に確認する、約束よ?」

「うんっ、ありがとうママ」


 ママは私に念押ししてきた。昔から嘘などママにはすぐにバレてしまう……だから本当に聞いてみる。

 できるだけ、零也師匠に私が本気で困っていると悟られないように……。


「師匠っ。師匠は本を売ることと物語を面白くすること、ラノベ作家としてどちらが大事だと思いますか?」


 初めてのメール。

 こちらが本当に聞きたいことを気づかせないよう遠回しな言い方をしようとしたら、突然何を……といった内容になってしまった。

 これでは様子がおかしいのがバレてしまう……失敗した焦りと動揺から、息をのむように返信を待つ。


 姿勢を変えることなく置いたスマホを見続けること数分、ピコンっとスマホが音を鳴らした。


「なんだ急に。まだ本を出してすらいないのに、もうそんな境地に達したのか?」


 やはり突然すぎて変だと思われたようだ。

 どう返そう……そう困っていると、メールにはまだ続きがあった。


「ってのは冗談で、まぁなにか考えさせられることがあったんだろう。真面目に答えると正直どっちも大事だ、売れなきゃ話にならんし面白くないと続きなんて出せない。だけどまぁ……そんなの理想論だ。真由は初めてなんだし自分の正しいと思ったことをやればいい、それで失敗したらその時やり方を変えれば。成功か失敗か確かめないと納得なんてできない、人間そんなもんだ」


「師匠っ…………」


 私がおかしなことを言いだしたところから、全てをさらけ出したくないということも察したのだろう。ちょっと茶化した後、質問に真剣にこたえてくれた。

 今回は私が聞きにくいというより、零也師匠に心配をかけたくないと気遣っての遠回しな問いかけだったが、そんな言いたくないことは言わなくていいという零也師匠の優しさが伝わってきたことが嬉しかった。


「ありがとうございます、色々整理がつきました」


 感謝を伝え、スマホを閉じる。

 また改めて……私の本が出てからでも、零也師匠には今回のことを全部話して再度お礼を言おう。


 よし、決めた!

 私は話を面白くしたい。質を上げたい。

 今度の話し合いでは自信をもって、しっかりと小判鮫さんに私の考えを主張しよう、そう固まった。


 そうと決まれば行動あるのみ。

 私は今度は小判鮫さんにメールを送る。

「今日はすみませんでした。考えがまとまったので、また時間を取れる時に話を聞いていただきたいです」と



 しかし、この時の私の考えは甘かった。

 作家の真剣な思い、願いを伝えれば小判鮫さんもきっと分かってくれる。その願望込みの考えを信じこんでいたのだから――。




 

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