十一話 弟子の洗礼①
◇花野真由
私は零也師匠の一か月間の指導を終えて、親にもラノベ作家になることを認められた――。
毎日楽しく自分が好きな話を書く……小説はただそうやって続けてきた趣味だったけど、思いもよらず人気が出て仕事にまでなる所まできてしまった。
親が心配し否定してきた気持ちも分かる。私は所詮、たまたま人気が出ただけの運が良いただの素人だ。
この一か月はそれを本当に痛感した……。
零也師匠から教えられる小説の基本、それすら何も知らないまま過ごしてきていたのだと分かったから。
私の投稿していたネット小説も読まれているとはいえ、実はダメなところを指摘されるレビューも多くあって、私はそれから目を逸らしてきた。
楽しい趣味を嫌いになりたくなかったから……。
ただそれだけの思いだったけど、私はプロのラノベ作家になりたかった……それであれば目を逸らすのではなく受け入れ、物語をよりよくするよう努めることも必要だったのだ。
それに気づいてからは生活を変えた。
いったん小説投稿を休止し、その時間を一から見直す時間にあてる。続きを待ってくれている人もいるだろうけど、よりよい物語を届けられるように立ち止まって過去を振り返ることに。
でも慣れない作業により時間はかかり、深夜まで見直す日も増えてしまった。ママにはそれがバレていたみたい……。それでも怒られることは無かったから、応援してくれていたんだと思う。本当にありがとう。
難しいのが日々知識が増えていくこと。
昨日学んで得たものにプラスして、また新しい技術や表現を教えられる。
昨日のベストが今日のベストではなくなる。これによって見直しの見直しなんてことが起こってしまい、全然前に進まなかった。
でもそれはいいことだと思い、私はまた一から文を修正し作品の向上を目指した。
そんななかで私は一か月の間に一つの目標を立てた。
それは、書籍化の打診がきている作品の一章にあたる部分を完璧にすること。
恐らく私の担当編集になる人は、誤字や多少の表現などの小さな部分の指摘しかしてこないはず。既に公開され人気があるものを一から作り替えようなんて、作者の私はもちろん編集者にとっても大変で、売り上げという面では効率が悪く成果に乏しいことは誰が考えてもすぐに分かる。
そこをあえて私がプロラノベ作家になる前に仕上げて、話を受け入れた時編集側に見せる。
これにより私の熱も向上心も伝わるはず。本気で作品を良くしていく気持ちがある……と。
私には伸びしろがある。これは零也師匠が直接言ってくれたことだし、私もそれを実感している。
ラノベ作家になったのであれば、最後までそうでありたい――。
現状に満足して嫌なことから目を背けるのは、もうお終いだっ。
「ありがとうございましたっ」
「あぁ、頑張れよ。俺もすぐに追いつくから」
零也師匠との最後の指導日にかわした言葉。
弟子の私が情けないところを見せるわけにはいかない。零也師匠の凄さを他の作家・編集者などの業界人に再度知らしめ、零也師匠が戻ってきやすくするための土壌を整えるのも、私が出来る最大限の恩返しであるはずだ――。
「保留いただいていた件ですが、お受けしたいと思います。よろしくお願いいたします」
最終日を終え親にも認められた日の夜、早速私はメールを送った。
これで私はこれから、本物のライトノベル作家だ。
――翌朝、早速返信が来た。
「こちらこそよろしくお願いします。それでなんですが、早速一回打ち合わせをしたいと思うのですが――」
待たせすぎてもう結構です。なんて言われることもなく無事ラノベ作家として本を出していけるようでホッとした。
あれだけ言って実は断られましたなんて、誰にも顔を合わせられない。
私も帰ってきたメールにすぐ返信をし、了承の旨を伝えた。
「すっご…………」
そしてやってきた打ち合わせ当日、私は指定された出版社のビル前に来てそう言葉を漏らした。
立派すぎる建物。本当に私が入っていいのだろうかと委縮してしまう。
「すうー……はぁー……」
深呼吸し気持ちを落ち着かせる。
今から緊張してどうする、まだ始まってすらいない。なんとかそう気持ちを奮い立たせ、手に持った自分の小説一章修正済みのコピーを手に持ち、中に入った。
「すみません、13時から編集部の小判鮫さんと約束している花野なんですけど」
「花野さんですね。……はい、確認が取れました。では小判鮫を呼びますので少々お待ちください」
私の担当編集は男性だと伝えられている。
(優しい人だといいな……)
作家は編集との相性も大事だとネットの記事で読んだ。
ドキドキとワクワク半々で、担当編集が姿を現すまでソワソワしていた。
「えーと、あなたが花野さん?」
「はい、花野です。ではあなたが……」
「あー……うん、小判鮫です。じゃあ部屋移動するよ、ついてきて」
どこか軽薄な口調。
私はなんだか嫌な予感がした。
この人とは合わない……そんな予感が。




