プロローグ1
「俺が全部悪いのは分かっているし、自分勝手ですまない……。別れてくれ」
「ちょっと待ってよ零也っ! 気持ちは分かるけど、また頑張ればいいじゃないっ。私も支えるから!」
理不尽な発言にも幻滅することなく、まだそう声をかけてくれる……本当に自分にはもったいない彼女だ。
俺は今日、憧れだったライトノベル作家を辞め彼女とも別れた。
どっちも大切で、できれば離したくはなかった。それでも……心の弱い俺は逃げてしまった――。
☆
俺……桐生零也がライトノベル作家として活動したのはたったの二年。お遊びにも思われるような短い期間だが、間違いなく本気で……全力で取り組んだ二年間だった。
俺は大学四年の時に新人賞金賞を獲得し、そのまま専業作家に。
内定していた会社にも辞退を申し出たことからも、俺がラノベ作家にかけていた想いは分かってもらえるだろう。
新人賞を受賞した作品は、魂を注ぎ込んで作り上げた力作だ。
それまでネットの無料投稿サイトで小説を書いていたりはしたが、文章が拙いどころか小説としての体をなしていないものから始まり、散々叩かれた。
それでも書くということが好きで続けていると段々と成長していき、社会人になる前のラストチャンスだと一年間空いた時間で執筆を行い、ある文庫の新人賞へと応募するにまで至った。
結果は金賞受賞。
正直、信じられなかった――。
もちろん個人的にも最高の作品に仕上がったと感じいたし、他の書籍化しているラノベと比較しても自分の作品が一番面白いと思っていた。
しかし初めて新人賞に応募した、素人と言ってもいい独学だけでやってきたアマチュア作家である自分が金賞を取ったという実感が湧かなかったのだ。
「零也凄いよ! やったね」
それを彼女に伝えると、自分のように放心状態になることはなくすぐに喜んでくれた。
元々ラノベ好きから繋がった俺たち二人だ。ラノベをオタク趣味だと笑うような相手ではないし、隠すような関係でもない。素直に凄いと褒めてくれた。
そこでやっと嬉しさがこみ上げてくる。信じられないような出来事だが確かに自分が努力し手に入れた結果だと。その日の夕食はいつも以上に美味しく感じ、多幸感でいっぱいだった。
だが、無邪気に喜んでいられたのはそのデビュー作が世に出る前までだった――。
「完璧ですっ! 正直、担当編集ながら涙が止まりませんでした……」
俺の担当編集者を務めてくれたのは永瀬さん。
担当した作品は全てが大ヒット。この人が担当すればその作家の成功は間違いなしとまでいわれている、凄腕編集者である。
永瀬さんは自分の気に入った作品、気に入った作家しか担当しない。
面白い! この人となら一緒に頑張れる! どちらかが欠けてしまえば他の編集者へ……そんなわがままが通ってしまうほどの成績と信頼があり、俺としても真剣に自分の書いた作品をより良くしてくれようとしているのが伝わってきて、この人が担当で良かったと心の底から思った。
そんな永瀬さんからの完璧発言。本は売れるだろうし、純粋にたくさんの人に作品の主人公の冒険を読んでほしいという願いが叶うことを確信するには十分だった。
しかし、実際の売り上げは微妙に終わってしまう――。
同じ新人賞の銀賞受賞作品のほうが売り上げは上、金賞受賞作品としては過去最低の売り上げを記録という、不名誉な記録だけが残ったのだ。
まだデビュー作として一冊目を刊行したばかり――それなのにもうこの時から歯車は狂い始めていた。




