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壁の花で結構です。アイリーンは、ダンスが、始まってからも壁際を死守していた。本当は踊るべきかもしれないが、これ以上悪目立ちしたくはないし、そもそも踊る相手もいない。
婚約者がいる以上、1番初めに婚約者と踊るのは常識だ。その後は、自由に誰とでも踊る事が出来る。しかし、アイリーンはユリウスとは踊れない。故にずっと、このまま過ごす他ない。
昔は、これでも少しはモテたのに……。
別に自慢したい訳ではないが、これでも、ユリウスと婚約する前は引く手数多だった……。ダンスの時間になれば、沢山の男性に囲まれダンスをせがまれたものだ。あの頃が懐かしい……。まあ、何年も経ってはいないが。
アイリーンは、何度目か分からないため息を吐く。早く、舞踏会終わらないかな……気分は最悪だし、帰りたい。そして、ユリウスともレベッカとも関わりたくない。
どうにかして、ユリウスと婚約破棄出来ないかなぁ。
最近はそんな事ばかり考えている。それとなく、ユリウスに婚約破棄について仄めかした事もあったが、取り合って貰えない。
両親に相談しようかと思ったが、何を言われるか分かったものではない。何しろ、アイリーンの両親とユリウスの両親は昔から仲が良い。そして、極め付けは両親達皆が、幼馴染。幼馴染は特別な存在であり大切にするもの、仲が良すぎるくらいが丁度いいと考えている人達だ。
もし、ユリウスとレベッカの話をすれば、逆にアイリーンが反感を買うかも知れない。
「……本当、あり得ない」
思わず声に本音が出てしまった。まあ、側には誰もいない故、問題はないだろう。
「何が、あり得ないの?」
瞬間、アイリーンの心臓が跳ねた。声の方を振り返ると……。
「シェルト、様……」
アイリーンが驚き固まっていると、シェルトはスタスタと歩いて来てアイリーンの横に並んだ。
「隣、いいかな」
「は、はい、どうぞ」
聞く前に、既に隣に収まっておりますよ、殿下。とは口が裂けても不敬罪になるので言えない。
「……」
「……」
き、気不味い。暫くアイリーンとシェルトは無言で立ち尽くしていた。
何、この時間は。アイリーンは息苦しさを覚える。何か話さなければ、とは思うが話題が見つからない。
まさか、貴方の婚約者と私の婚約者が浮気よろしく、仲睦まじくしていますが、どう考えてますか?なんて聞けない。
そもそも、シェルトとはこれまで余り接点がない故、何故アイリーンの元に来たのか謎すぎる。
いや、接点があった。婚約者に浮気擬きをされているという、悲しく情けない接点が……。
「あ、あの、シェルト様……」
「ん?どうしたの、アイリーン嬢」
遂に沈黙に耐えられなくなり、アイリーンは口を開いてしまった。だが、何も考えていない……。
「あー……その、れ、レベッカ様とは仲はよろしいんですか」
私の莫迦!莫迦!何故、口を突いて出たのがよりにもよってレベッカの事なの!
アイリーンは、全身嫌な汗が伝う。
「レベッカ?あぁ、まあ、悪くはないかな?一応、彼女とは婚約しているしね」
「そ、そうですよね……」
良かった、特に気にしている様子はない。
「逆に君は、ユリウスとはどうなの?」
アイリーンは、瞬間固まった。ですよね。普通、聞かれたら聞き返しますよね。常識ですよね。
ユリウスとは、頗る仲は悪いです!なんて、流石に言えない。