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今更好きだと言えない  作者: 秘翠 ミツキ


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「アイリーン‼︎その愚兄の口車に乗ってはダメだよ」


「シェルト様⁈何故、こちらに。本日はお仕事だったのでは……」



今日は1日仕事だとシェルトから聞いていた為、突如現れたシェルトにアイリーンは驚愕しながらも、かなり嬉しそうな様子だ。


「いや、それは……」


シェルトは瞬間黙り込んだ。実はアイリーンには、密かに護衛を付けている。逐一アイリーンに付いて報告をさせており、今日は実家に帰るとの報告を受けていた。


本当は、仕事が溜まりに溜まっていたのだが、幾ら兄とはいえど、クラウスと2人きりにさせるのは気持ち的に赦せなかった。我ながら子供染みてはいると思うが、クラウスは世間一般でいう兄という存在とは違う。超の付く程のシスコンだ。もしかすると、もしかするかも知れない。


危機感を抱き、心配になったシェルトはアイリーンの後をつけてきた。そしてアイリーンが書斎に入った辺りからずっと窓の外から聞き耳を立てていたのだ。


「きゅ、急に、仕事が延期になったんだ」


「そうだったんですね、驚きました」


延期になるような仕事ではないだろう!とクラウスは思ったが流石に言えない。シェルトの仕事は、今現在はリオネルの補佐だ。リオネルは確か今は書類の山に埋まって、部屋に所謂軟禁状態だったはず。その補佐の仕事が、どうやって延期になるのだろうか。言い訳が苦し過ぎるが、アイリーンは信じて疑わない様子だった。



それにしても、アイリーンもそこそこの天然だと我が妹ながらに思う。この書斎は屋敷の奥の2階に位置している。窓から入って来ているシェルトに対して、アイリーンはごく普通に接しているが、何か違和感など感じないのだろうか。ある意味で、細かい事を気にしない精神が素晴らしいとも言える。



シェルトは、窓から降りるとアイリーンを抱き締めた。


「アイリーン、逢いたかった」


「シェルト様……私もお逢いしたかったです」


急に始まった、2人の愛情劇にクラウスはげんなりするやら、シェルトへの怒りがフツフツと湧いてくる。



「そんなに、久しぶりなんですか」


クラウスは冷めた声でシェルトに問いかけた。そして、シェルトの返答にクラウスは舌打ちをしそうになった。



「昨夜振だよ」


まさか、一緒のベッドで寝ているんじゃ⁈いや、まだ婚姻前だ、そんな事赦せる訳がない!


しかも、自分はアイリーンから、ひと月ぶりでも軽くあしらわれていると言うのに、1日も経ってないにも関わらず「逢いたかった」⁈とは随分とふざけている。アイリーンはアイリーンで、嬉々とした様子で抱き締め返している……。


「シェルト様、お越し頂くのは構いませんが、窓からとは些か行儀が悪いのでは」


クラウスは、嫌味っぽく釘を刺す。


「あ、あぁ。すまなかった。次からは気をつけるよ」



次など必要ない!義弟にはなる予定ではあるが、予定は未定だ!それに万が一そうなっても余り来て貰いたくない。アイリーン1人なら、それはもう大歓迎だが。寧ろこのまま、兄妹水入らずで2人で暮らしたいくらいだ。


「お兄様‼︎」


「アイリーン?ど、どうしたんだ」



何故か、このタイミングで怒っているアイリーンにクラウスはたじろぐ。何か、怒らせる要素などあっただろうか……。



「シェルト様が、わざわざ来て下さったのにその様な言い方、失礼です‼︎シェルト様の、つ、妻として(予定)見過ごすわけにはいきません!」



妻の台詞の辺りで、恥ずかしそうにする姿は実に愛らしくあるが、クラウスは内心複雑だ。


「あ、私、また……」


無意識だったであろうアイリーンだが、直ぐに失言に気が付き落ち込む。


「やはり、これではシェルト様の妻には相応しくないですっ」



アイリーンは、手で顔を覆い俯いてしまった。


「あ、アイリーン……大丈」


「アイリーン、そんな事ある訳がないよ。寧ろ君以外に僕の妃に相応しい女性(ひと)など、この世の何処にもいないよ」



クラウスの「大丈夫か」の言葉を遮り、シェルトはそう述べた。



「ですが、私っ」


「話は聞いていたよ。ユリウス達と君が同じ?あり得ないよ。例えばそうだとしても、僕が君を赦す」


その発想は、所謂職権濫用と同じなのでは……とクラウスは思った。自身の愛する人なら何をしても赦すと言っているも同義だ。ある意味で、恐ろしい事を言っている。


その辺りの民草が言うならば、ただの愛の語らいに過ぎない。だが、シェルトは一国の王子であり、人を従わせる力を持っている。そんな人物が、この様な発言をするのは問題しかない。



あり得ない、絶対にあり得ないが……もしも、アイリーンが、他者を虐げ死に追いやる様な事を起こした場合でも、それを肯定するという事だ。


愛する女性(ひと)の為ならば、罪を罪と問わない。危険な思想だ。シェルトが、王太子ではなく第3王子で良かったと安堵せざるを得ない。


「シェルト様……では、私はシェルト様の妻になっても、いいのでしょうか」


「愚問だよ、アイリーン」



相変わらず、見ているだけでお腹いっぱいになる程イチャつく2人を横目に、クラウスはため息を吐いた。



この2人の待ち受ける未来が、幸せなものであるように、今は諦めて祈るしかない。だが、その幸せな2人の周りが幸せだとは限らない……。



現にアイリーンは知らないが、シェルトは間接的に、ユリウスやレベッカに重い処罰を下した。


ユリウスの父の公爵やその妻には、地位を剥奪し郊外に枯れた土地と小屋を与え、住まわせている。ユリウス本人は公爵の座についたものの、様々な誓約をさせられ、シェルトにとって都合良く動く傀儡となっていた。


レベッカの母は、国王からも見放され夫からも三行半を突きつけられ、身一つで外に放りだされたそうだ。その後の行方は分からない。まだ年若いレベッカ本人は、修道院に放り込まれた。

レベッカの入った修道院は監獄とも呼ばれ、問題のある女性達を収容する為に作られたとの噂がある。2度と外には出られないだろう。



まあ、かく言う自分も人の事を言えたものではないが。父と母には、これまで揃えた不正行為を書面に認め渡した。初めは認めなかったが、次から次に出てくる証拠を前に観念をした。


その後、父である公爵に頭を幾度も下げられたが、クラウスは2人を郊外に追いやった。そして、父の後を継ぎ公爵におさまった。


昔から、父や母、その幼馴染夫婦達は賄賂らや、国の金にまで手を付けていたのは知っていた。そして、父達が公にならないように考えたのが、アイリーンとユリウスの結婚だったのだろう。2人が結婚すれば、これまで通り不正もし放題で、バレることもない。こちらの、公爵家も息子が継ぐので問題ないとでも思ったらしい。色々と莫迦過ぎて笑える。



でもまあ、予定より早くはなったが、クラウスの目論見通りになった。昔から両親が嫌いだった。可愛い妹を蔑ろにする両親が……。不正など関係なく何いずれにしろ結末は変わらなかっただろう。






「お兄様?」


ずっと黙り込む、クラウスを見てアイリーンは首を傾げた。


「いや、大丈夫だよ。それより、シェルト様。妹からもう少し離れて頂けませんか?幾ら何でも、近過ぎませんか」



「構わないだろう。僕は、アイリーンの夫なんだ」



「まだ予定、ですよね」


そんな攻防戦を繰り広げる2人を尻目に、シェルトに抱き締められているアイリーンは、幸せそうに笑った。



私は、シェルト様の妻として、生きていきます。










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