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ですよねー。
アイリーンは城の広間に1人で入場した。そして、その瞬間全ての視線を集める。
先に入場していたであろう、あの2人のお陰でアイリーンの本日の注目度は抜群だ。
……最悪だ。覚悟はしていたが、いざ目の当たりするといい気分がするものではない。
アイリーンは小さくため息を吐く。だが、ここで沈んだ表情を見せる訳にはいかない。アイリーンにだってプライドはある。哀れみや同情などされたくはない。
こういう時は平常心よ、アイリーン。いつも通り、堂々と振る舞えばいい。
アイリーンは、背筋を確りと正し、前を見据えて優雅にドレスの裾を翻し歩いていく。まあ、行く先は壁際なのだが。
壁際に避難していれば、暫く経てば皆の興味もなくなるだろう。それまでの辛抱だ。
そしてアイリーンの読み通り暫く経つと周囲からの視線は次第になくなり、安堵のため息を吐く。
それにしても、何故自分がこんな目に……。
「アイリーン様、御機嫌よう〜」
ようやく落ち着いたと思ったら、今回の要因の2人のお出ましだ。ご丁寧に腕まで組んでいる。
仲睦まじい事でなによりです……。
「これは、ユリウス様とレベッカ様。御機嫌よう……」
アイリーンは、顔が多少引き攣るがなんとか笑みを浮かべる。平常心、平常心よ、アイリーンと何度も心の中で呟く。
「君は1人なのか。エスコートする者がいないなど、あり得ないだろう」
貴方があり得ません。
ユリウスの発言に苛っとする。誰の所為で、1人なのか本気で分からないのだろうか。この人、本当は莫迦なの⁈と心の中で悪態を吐く。
「はい、まあ、そうですよね……」
「アイリーン様、かわいそう〜」
何なのだろうか、この2人は。何がしたいの?別にレベッカに嫉妬することはないが、頭にはくる。嫌がらせにしてもタチが悪い。
「……レベッカ様、シェルト様は如何なさったのですか」
ユリウスとアイリーンもそうだが、レベッカにも婚約者である第3王子のシェルトがいる。それにも関わらず、レベッカは堂々とユリウスと入場し、腕まで組む始末。相手は王子だというのに、随分と軽率な行動をするものだ。
「あー……シェルト様は、別に私興味ないし関係ないの」
いや、関係ありありですよ。紛れもなく、貴方の婚約者です。しかも王子殿下。興味の有無は関係ありません。
レベッカの発言に、アイリーンはかなり引いた。普段からの彼女の奔放振りは目に余る。だが、レベッカに誰も注意をしない。いや出来ない。その理由は彼女の母にある。
レベッカの母は何しろ、この国の元王女であり現陛下の実妹だ。しかも、陛下からは溺愛されており、誰も何も言えない。故に娘のレベッカも、それをいい事にわがまま放題だ。
それにしても、シェルト王子は、こんなレベッカの事をどう考えているのか……気になるところではある。
「レベッカ、ダンスの時間だ。行こうか」
演奏が始まると、皆一様に広間の中央でダンスを始める。
「は〜い。では、アイリーン様も、舞踏会お愉しみ下さいね〜」
嵐が去った……。それにしても、苛つく。何が「レベッカ、ダンスの時間だ」よ。莫迦じゃないの。
アイリーンの苛々は、本日最高潮を記録した。