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この状況は良くない。公爵令嬢のアイリーンは密かにため息をつく。今目の前にはある少女が座っている。
彼女は侯爵令嬢のレベッカだ。アイリーンの婚約者の幼馴染。アイリーンとレベッカは友人関係でもなければ他に接点がある訳ではない。唯一あるのは婚約者であるユリウスを介しての関わりだろう。それもユリウスから紹介を受けた訳ではなく、ある日突然アイリーンの屋敷に押しかけてきた。
「ユリウスの幼馴染として、是非アイリーン様にご挨拶をしたく思いまして」
婚約者の幼馴染であり侯爵令嬢であるレベッカを無下には出来ない故に屋敷に通したが。後から後悔する事になるとは…。
見た目小柄で大きな瞳とふわふわな金髪で、天使の様なレベッカ。アイリーンはその姿に始めは騙された。
初対面だった日、アイリーンとレベッカはお茶をした。兎に角凄かった、嫌味が。
「あら、このお茶美味しくないわ。よくこんな不味いお茶アイリーン様はお飲みになれますね。あ、まさかと思いますけどこんな不味いお茶、ユリウスに出したりなさっていないですよね?」
普段レベッカがどれ程のお茶を飲んでいるかなどアイリーンには分からないが、公爵家のユリウスの屋敷で出されたお茶は普通のものだった筈。うちのお茶と大差ない。故に問題はない筈だが…。
「アイリーン様って可愛くないですよね」
幾ら何でも失礼すぎる。もし言うにしてももう少しオブラートに包んで欲しい。仮にも侯爵令嬢なのに礼儀がなってない。それともアイリーン相手に礼儀など必要ないという事か。その後もレベッカの口の悪さは止まらない。
「庭のお花、雑草ですか?」
「この屋敷センスなさすぎません?」
「アイリーン様のお召し物、侍女服なんですか」
「こんな婚約者じゃ、ユリウスが可哀想だわ」
どうやったら早く帰って貰えるかしら。何時迄も居座るレベッカにうんざりしていた時、侍女から「ユリウス様がお見えです」と声を掛けられた。
ユリウスが部屋の中に入ってくる直前だった。レベッカは徐に立ち上がるとアイリーンのカップを掴み自分自身に掛けた。
「⁈」
アイリーンは余りの事に驚き声も出ない。
「きゃっ‼︎熱い~!」
レベッカは肌に触れない場所を計算してドレスの裾に掛けていた為熱いわけはない。
「アイリーン、すまない。レベッカと言う女性が来て…レベッカ⁈」
ユリウスが部屋に入った瞬間、レベッカがお茶を被るのが目に飛び込んで来た。直ぐ様声を上げ駆け寄った。
「どうしたんだ⁈大丈夫か、レベッカ」
「ユリウス…アイリーン様が…」
レベッカは床にしゃがみ込みワザとらしく涙目でユリウスを見ていた。ユリウスは近くに落ちていたカップとテーブルのカップを見た。レベッカのカップは置いてあり明らかにアイリーンのカップだ。
「アイリーン様が、私の事お気に召さないと仰って…お茶をかけたの…」