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やっぱり世界樹に行きたい。

 ウィルの言動に驚かされたカルツ達だったが、中でも一番驚く事になったのはトルキス邸に遊びにくる精霊達の存在だった。

 普通なら人から身を隠す存在である精霊達がさも当たり前のようにトルキス邸へ遊びに来るのだ。

 遊びに来る数はまちまちらしいが、そんな事問題ではない。

 王都のような人の多い街のど真ん中に精霊が遊びに来ている時点でおかしな話なのだ。

 今日も今日とてトルキス邸に遊びに来た精霊達を見てカルツ達はぽかんと口を開けた。


「いっしょにあそぼー!」


 うんしょうんしょとヤームの子供達の手を引くウィル。

 子供達は誘われるまま、精霊達の待つ庭へ駆け出した。

 一度は荒れてしまった庭だが庭師ラッツの奮闘もあり、今はすっかり元通りだ。

 ウィル達の身の内から発した幻獣のレヴィ達も転がるように庭を駆け回っている。


「俺、こんな大勢で人の家に上がり込む精霊達、初めて見るわ……」


 空属性の精霊であるスートでさえ唖然として呟いた。


「ウィル君の影響でしょうか……ウィル君はシローから難儀な一面を受け継いでいるようですね」

「人を引きつけまくるとこな……人じゃなくて精霊だけど」


 思い思いに呟くカルツとヤームの横でシローがポリポリと頭を掻いた。


「かるつさーん」


 そんなカルツの前に精霊の手を引いたウィルが戻ってきた。

 土の精霊シャークティと風の精霊カシルだ。

 その後を付き添う精霊達の姿も見られる。

 ウィルは二人の精霊をカルツの前に並ばせた。


「みんなでまほーつくったけどせつめーするならふたりでいーってー」

「ありがとうございます、ウィル君」


 カルツは笑顔でウィルの頭を撫でると精霊達に頭を下げた。


「お初にお目にかかります。私、シローの友人のカルツと申します。隣に浮かんでいるのが私と契約した空属性の精霊、スートです。以後、お見知りおきを……」

「よろしくな」


 丁寧なお辞儀をするカルツとは対象的にスートが気さくに手を上げる。

 カルツはもう一度ウィルに向き直った。


「ではウィル君。二人を少しお借りしますね」

「あとでかえしてねー?」

「ふふっ……ええ、必ずお返ししますよ」


 ウィルの様子に笑みを深めたカルツがまたウィルの頭を撫でる。

 その様子をウィルの後ろで見ていた風の精霊の少女アジャンタが二人の精霊に手を振った。


「行ってらっしゃい、二人とも。ごゆっくり……」


 ニヤニヤした笑いを浮かべるその表情からは良からぬ事を考えているのが明白だ。

 苦笑いを浮かべるカシルの横で少し目を細めたシャークティがスッと顔の横に手を上げてパンパンと叩き鳴らした。


『なーにー?』

『呼ばれて飛び出ましたー』

『ジャジャジャジャーン!』


 土の中から飛び出した土の精霊達がウィルの周りを囲む。

 いきなりの登場にウィルが目をぱちくりさせた。


「あなた達……ウィルのガード、お願いね……どこかの精霊さんがウィルを独り占めしないように……」

「ズルッ! 他の精霊に協力してもらうなんて……!」

『『『かしこまり〜』』』


 非難の声を上げるアジャンタの前で土から現れた三人の精霊が元気よく手を上げた。


「ちょっとー!? 久し振りにウィルと二人きりでゆっくりしようと思ったのに!」

「あはは……」

「早く行きましょう……」

「そ、そうですね。では、早速……」


 アジャンタを無視した精霊達に背を押されてカルツが室内へ戻る。

 その後ろ姿を見送ったウィルがスートを見上げた。


「すーとさんはこっち!」

「オッケー、ウィル坊。一緒に遊ぼうぜ」

「とーさまはー?」


 スートの手を取って向き直るウィルにシローが手を振る。


「ヤームと話してるから行っておいで」

「わかったー。あじゃんたー、て」


 返事したウィルがアジャンタの手も取って歩き出す。

 その周りを土の精霊達がまるで護衛のように付き従った。


「愛されてんなー、お前の息子」


 精霊に手を引かれて姉達の所まで戻っていくウィルの後ろ姿にヤームが目を細める。

 その顔を横目で見たシローが視線をウィルに戻した。


「例の物、持ってきてくれたか?」

「ああ、人数分な」


 ヤームが手にした袋から対になった子供用の腕輪を取り出してみせた。


「ターニャが手伝ってくれた。だが……セレナちゃんやニーナちゃんはまだしも、ウィル坊には少し早くないか?」


 確かな実力者であるシローの判断であれば間違いはないのだろうが、ヤームが今回依頼されて作った物は本来もっと成長してから使う物だ。

 ウィルの年齢では早過ぎる。


「ダメなら違う手を考えるさ」


 笑みを浮かべるシローを見てヤームは肩を竦めた。

 シローも早過ぎると分かっているのだ。

 分かっていて試さざるを得ない。

 そういう状況なのだ。


「分かった。後で合わせてみよう。カルツもいるし、なんとかなるだろう」

「頼む……」


 息を吐くように応えるシローをヤームは鼻で笑った。


「ハッ。俺なんかよりお前の方がよっぽど苦労してそうだな」


 そのままシローの肩に手を置く。

 その表情には損得で揺らぐことのない気持ちのいい笑みが浮かんでいた。


「いい酒、置いてんだろうな? 王都での騒ぎもお前の心配事も、全部今夜お前の口から聞かせてもらうからな?」

「……ああ」


 シローが静かに頷く。

 どれだけ強くなろうと一人でやれる事には限界がある。

 不安を抱えるシローをヤームは全力で支えようとしてくれているのだ。

 これほど有り難いことはない。


「全て話そう」


 ヤームの笑顔を見返して、シローははっきりと約束した。



▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽



「カルツとヤームが何をしようとしているかだって?」


 子供達の質問にスートが思考を巡らせて傍に付いていたレンに視線を向ける。

 黙って頷くレンを見て、スートは子供達を庭に座らせた。


「二人は新しい魔道具を作ろうとしているのさ」

「あたらしいまどーぐー?」


 首を傾げるウィルにスートが頷いてみせる。


「そうさ。魔道具を作るのに何が必要か分かるかな、セレナちゃん」

「えっと……」


 顎に指を当てたセレナが思いついたものをあげていく。


「精霊石と魔力を増幅する物と……あと……?」

「大体合ってる。発動する属性の精霊石、どういう効果を発動させるかを決める魔法文字、それを彫り込む装備品などのアイテム。人の手で作られる魔道具は大抵この三つで成り立っている」


 順番に指を立てながらスートが説明を続ける。


「うちのカルツは魔法文字に詳しい。魔法文字は発動したい魔法を文字に書き起こして誰にでも魔法を使えるようにする事ができるんだ。一方ヤームは腕のいい鍛冶師だ。カルツが書き起こした魔法文字を装備に彫り込んで魔道具を造る事もできる。二人揃えば新しい魔道具を造るなんて朝飯前だ」

「じゃあ二人は……」


 答えに辿り着いたセレナにスートは頷いてみせた。


「ウィル坊の新しい魔法を解析して仮の手を作ろうとしているのさ」

「はー……」


 分かったのか分からなかったのか、曖昧な息を吐くウィル。

 そんな弟をニーナが後ろから抱き締めて頬を擦り寄せた。


「よかったわね、ウィル! ウィルの魔法でたくさんの人が笑顔になるわよ!」

「うにゅぅ〜」


 ウィルがニーナの愛情表現にうめき声を上げる。

 その様子に子供達や精霊達から笑みが溢れた。


「でも、勿体無いなぁ」

「んー?」


 そう呟いたのはヤームの息子だ。

 名をバークと言うらしい。

 ウィルがバークを見て不思議そうに首を傾げた。


「だって、新しい魔法だよ? 魔法書にしたらいくらで売れるか……」

「それは……」


 セレナが言い返そうとして口を噤む。

 魔法の指南書というのは基本的に高額だ。

 それは希少な物ほど高くなる。

 ウィルの魔法はオリジナルだ。

 希少さは言うまでもない。

 だが、ウィルはそう言われてもよく分かってないようだ。


「あたらしいまほーはまたつくるからいーよー?」


 そんな風にニコニコ言い放った。

 それ自体がとんでもない事だとそろそろ教えておいた方がいいかもしれない。

 あっけらかんとしたウィルにスートも可笑しそうに笑う。


「まぁ、そんなに心配しなくてもいいさ。【土塊の副腕】は知ったところでホイホイ使えるようなシロモンじゃねーし」


 スートの言葉に子供達が首を傾げる。

 その様子を見て傍にいたレンが補足した。


「【土塊の副腕】は必要な魔力の素養が多いのでございます。土属性を基本に樹属性と空属性が必要です……樹属性は土に加えて水属性と光属性、空属性は土に加えて風属性と闇属性。合計五つの属性を同時に発動しなければ使えないのです」

「ええ〜……」

「ラティ……お前、こっそり教えて貰おうと思ってたろ?」

「だってぇ」


 バークが妹に視線を向けるとラティは肩を落としたまま答えた。


「手がいっぱいあればお片付け楽じゃん……」

「お前は散らかし過ぎなの!」


 二人の様子を見てセレナとニーナがクスクス笑う。

 笑われて恥ずかしかったのか、バークが頬を赤く染めて頭を掻いた。


「うーん……」


 姉達の様子を見ていたウィルがふと視線をレンに向けた。


「どうかなさいましたか、ウィル様?」

「れんはおつよいよね?」

「え? はぁ……まぁ……」


 ウィルの急な質問にレンが曖昧に返事をする。


「とーさまもつよかった。かるつさんもつよい。やーむさんもたぶんつよい……」

「おう、そこそこやるぜ?」


 シローを伴って現れたヤームがウィルを抱き上げた。

 ウィルはジーッとヤームの顔を見てコクンと首を傾げた。


「どーしてせかいじゅいけないのー?」

「ああ、それな……」


 ウィルの質問にヤームが苦笑いを浮かべる。

 義手を造れる目処は立ったが、ウィルはそこで満足はしていないらしい。

 世界樹に行きたいのである。

 ヤームはウィルを降ろして頭をポンポンと撫でた。


「単純に踏破できるだけの体力がウィル坊にないからだ」

「えー?」

「何日も強力な魔獣が徘徊するダンジョンの中を歩き続けないと世界樹にはたどり着けない。ウィル坊を庇いながら世界樹を目指すのは無理だ」

「むー!」


 唇を尖らせるウィルにシローが困ったような笑みを浮かべる。


「ウィル、無理を言って父さんの友達を困らせないでくれ。ウィルが大きくなってダンジョンに行けるくらい強くなれたらどうするか考えよう」

「ほんとー? やくそくだよー?」

「ああ、約束だ」

「わかったー」


 まだ心残りがありそうな表情だが、ウィルは渋々納得した。


(ホントに行くことになりそうで怖いんだよなぁ……ウィルの場合)


 本来なら、よく分かっていない子供とのなんでもないやり取りの筈なのだが。

 いつか訪れそうな最難関ダンジョン攻略を想像してシロー達は思わず苦笑いを浮かべていた。


トッド家、家族構成

父、ヤーム

母、ターニャ

兄、バーク

妹、ラティ

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