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騒動の結末とウィルのお出かけ

 フィルファリア城にある一室――円卓の間にシローはいた。

 元々重要な会議をする場所で、シローのような一騎士が来る所ではない。

 しかし、先の戦いで敵の黒幕と鉢合わせたシローは王命によりこの会議に参加するよう命じられた。

 今、隣にはシローの所属する第三騎士団団長ガイオスがおり、アルベルト国王やこの国の重臣がフェリックス宰相の読み上げる被害報告に耳を傾けている。

 外周区内の被害状況、人的損害、避難状況、物資の供給量、魔獣討伐の経過などなど。

 それによる今後の見通しもフェリックス宰相によって丁寧に語られていく。

 その説明の中で最後に語られたのが今回の事件を起こした者達の末路であった。


「今回の事件の首謀者と思われていたカルディ、その息子グラムと一味と思われるローブの集団。合わせて二十八名、全員の死亡を確認しました。特別な捜査隊を組んではいますが、騒動の全容を解明するのは難しいかもしれません。私からは以上です、陛下」


 フェリックス宰相が視線をアルベルト国王へ向けると、全員がそれに倣うように向き直った。

 アルベルト国王が小さくため息を吐く。


「見事に尻尾を切られたな……」


 その言葉に誰もが押し黙る。

 別に誰かに落ち度があったわけではない。

 実際、騎士達はローブの男達を生け捕りにし、尋問しようとしていたのだ。


 だが、できなかった。


 ローブの男達は全員見たこともない魔道具を背負っていた。

 中心に小さな瘤のある白く節くれだった蜘蛛の足のような魔道具。

 それが一斉に蠢き、ローブの男達を串刺して、その命を奪ったのだ。

 一縷の望みをかけてカルディ邸に部隊を送り込むも、成果を上げる事はできなかった。

 カルディ邸の地下にあった許可なく作られた通路。

 その奥にあった部屋からカルディとグラム、取り巻きの騎士達の死体が見つかった。

 ある者はナイフで、ある者は魔法で、その命を奪われていたという。


「カルディを背後から操っていた奴がいるという事か」

「どこの誰だというのだ? 我らを害して得する者などおるとは思えんが……」

「やはり隣国からの刺客なのでは?」

「シロー殿、顔を見てはおらぬのか?」


 思い思いに発言する重臣達の視線がシローに集まる。

 シローは相対したローブの男達の顔を一人一人思い浮かべ、最後に黒幕の男の顔を思い出した。


「フードを目深に被っていた為、はっきりと顔を見てはおりませんが……見覚えはありませんでした」

「シロー殿、何でも良い。気付いた事はないか?」


 アルベルトの気遣うような発言にシローが困ったような笑みを浮かべる。

 それから言葉を選んで思った事を口にした。


「おそらく、黒幕はフィルファリア国内の有力者ではないと思われます。同様に隣国からの刺客という線も薄いでしょう」

「なぜ、そう思う?」

「内情を知っている者にしては今回の襲撃はお粗末過ぎます。おそらく強行的な手段だったのでしょう」

「ふぅむ……」


 シローの言葉にアルベルトが唸る。

 シローはそのまま続けた。


「同様に隣国が今回のような魔道具を開発したという話は聞いていません。もし隣国がこのような魔道具を開発したのなら、こんな中途半端な襲撃で手の内を晒すというのは考えにくい」


 仮に陽動であったとしたら、同時にどこかが侵攻されている筈だがその報告もない。

 本気で侵略してこないのに手の内を晒すというのはあり得ないとシローは考えていた。


「ゆえに、今回の騒動は息子を犯罪者にしたくないカルディが協力者の力を借りて起こした謀反だったのでは、と。協力者が何者なのかは分かりませんが……」

「私も同意見です。陛下」


 シローの言葉にフェリックス宰相が同意する。


「危険が完全に去ったと断言するのは早うございますが、今はカルディの背後関係と賊の使った技術の解明を急いだ方が良いかと……なにせ、尻尾切りに関係者全員を殺してしまうような輩です。どれほどの規模の徒党であるかも予想できません」


 人員を確保するにも魔道具を支給するにもそれなりの活動資金が必要だ。

 首謀者はそれをあっさりと切り捨てた。

 正体を隠す事を優先したという事は小規模な組織の単発的な犯行ではなく、それなりの規模の組織の計画的な犯行である可能性が高い。


「各国に説明するにしても、今のままでは説明しようがございません」

「確かに今はそれしかないか……」


 王都には取引のある国の大使も在中している。

 今回の騒動の説明も必要になってくるが、それにはまだ謎が多過ぎた。

 公式に発表するにも時間が必要だ。


「フェリックス、各国の大使と面会する。手配を頼む。それから全容の解明に注力してくれ。魔道具の調査には腕の立つ職人や宮廷魔術師、精霊魔法研究所の所員を動員しても構わん。未知の技術だ。安全には十分配慮するように」

「はっ!」

「他の者は協力して外周区の復興に全力を注いでくれ。頼んだぞ」

「「「はっ!」」」


 アルベルトの下知に重臣達が揃って頭を下げ、その場は解散となった。



▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽



「おーでーかけ、おーでーかけ♪」


 治療院に赴く為、ウィルはセシリアと家を出た。

 お供はエリスとステラの二人。


「ウィル、お利口さんにしてね」

「かーさま、はーい」


 セシリアがお出かけにはしゃぐウィルに釘を差すが、ウィルは嬉しいのか元気いっぱいだ。

 その様子をエリスもステラも笑顔で見守りつつ、玄関を出た。


 目当ての治療院は市街区にある。

 普段なら馬車を用いて移動するが、今回は復旧の物資が行き交う事を考慮して徒歩での移動を選択した。


「おお……セシリア様!」


 玄関を出てすぐ出会ったのはラッツと会話をしていた職人風の男だった。

 部下を引き連れたその男は庭の外壁の修復の算段をラッツと話していたようだ。


「申し訳ありません、セシリア様。お庭の外壁の修復は少し時間が掛かりそうで……」


 開口一番、謝罪を口にする男にセシリアは笑顔で対応した。


「いえ、親方さん。どうぞ頭を上げてください。街の復旧が最優先ですから……」


 男は優秀な大工でトルキス家の修繕などにも関わっており、セシリアとも面識があった。

 そのセシリアは目の前の男ほど有能な職人であれば街の復旧作業に指名されると分かっているのだ。

 セシリアの笑顔に当てられ、照れ笑いを浮かべる親方をウィルが見上げた。

 それに気付いたセシリアと親方がウィルに視線を向ける。


「ほら、ウィル。この人がお庭の壁を直してくれるのよ」

「うぃるのおにわ、なおしてくれるのー?」

「ええ、必ず。坊ちゃん、待っててくださいね!」

「まってるー♪」


 力こぶを作って見せてくる親方にウィルも笑顔で答えた。


「さて、それでは中通りの修復に行かないと……」

「ホント、すごい被害ですよ……石畳を上から叩き潰したような」


 男の部下が合いの手を入れて親方も大きく頷く。


「西地区なんて特にひでぇ。石畳全部引っぺがすように砕けちまって……一体どんな魔獣が暴れたらあんな事になんのか、想像もつかねぇ……って、どうされました?」


 中通りの被害を語る親方達が笑顔で固まるセシリア達を見て、不思議そうに首を傾げた。

 ウィルだけが腕組みをして、うんうんと頷いた。


「わるいまじゅうがいるもんだね! こんどでたら、うぃるがやっつけてあげる!」

(気付いて、ウィル。石畳を壊したのは魔獣じゃなくてあなたよ)


 事情を知るトルキス家の者達が笑顔のまま大粒の汗を浮かべる。

 だが、その事を知らない親方はウィルのかわいい仕草にがっはっはっと笑い声を上げた。


「それはそれは頼もしいですな!」

「えへー♪」


 親方に笑いながら頭を撫でられ、ウィルがご満悦そうに笑顔を浮かべる。


「そ、それじゃあ参りましょうか、ウィル」

「はーい。おやかたさん、またねー」

「はっはっ! いってらっしゃいませ、ウィル様、セシリア様」


 セシリアに促されたウィルが親方達に手を振って、ウィル達は治療院に向けて出発した。


なんか中途半端な所で切れちゃいました(汗)

次回はウィルが治療院へ行きます。

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