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魔獣騒ぎの真相

 庭を囲う柵を突き破って飛び込んできた影が三つ、芝の上を滑る。


「スワージ、ポー、無事か!?」


 庭の芝を転がりながら素早く身を起こしたモーガンが叫ぶ。

 強烈な一撃を咄嗟に防ぎはしたが、モーガンの左腕はダメージを殺し切れず、痛みと痺れでだらんと垂れ下がっていた。


「リーダー! ポーが直撃を喰らった!」

「……っ!?」


 同じく叫び返すスワージにモーガンが胸中で舌打ちした。

 なんとか後退してポーを視界に入れたいが、脅威が去ったわけではない。

 モーガンは右手でロングソードを構え、自分達を吹き飛ばした相手に意識を集中した。

 モーガンの嫌な予感は見事に的中していたのである。


「モーガンさん、下がって!」

「アイカさん!」


 盾を構えたアイカがモーガンの前に出る。

 身を引いたモーガンが僅かな余裕を得て、即座に周囲の状況を確認した。

 長くパーティを率いて戦ってきたモーガンの状況判断は的確で早い。

 自分は屋敷側にいて前にはアイカ、後ろにはステラ。

 庭の植え込み側に飛ばされたスワージの前にはラッツとエジルが、モーガン達のちょうど間を一番奥まで飛ばされたポーの前にはミーシャとマイナとアイル、更にはセシリアがいる。

 その3つを基点の間を埋めるようにエリスとローザが長杖を構えてサポートに入っていた。


「来たれ樹の精霊。大樹の抱擁、

 汝の隣人を癒やせ生命の息吹」


 倒れたままのポーの状態を確認したセシリアが素早く治癒魔法を詠唱する。

 セシリアの表情から危機的な状態にはなさそうだが、ポーはしばらく戦闘には参加出来ないだろう。

 一度気を失うと怪我を治癒しても気絶したままだ。

 アイルがポーを引きずって後ろに下がらせる。


「ストームバッファロー三匹だ! 気をつけろ!」


 声を張り上げるモーガン。

 戦線に立った者達に緊張が走る。

 破壊された柵の周りから沸き立っていた土煙が収まり、目を血走らせた三匹のストームバッファローがのそりと姿を現した。

 鼻息荒く、こちらを捕捉した猛牛が凶悪な角を振り、前脚を掻く。


「くそっ……!」

「動かないで!」


 すぐ様、戦列に加わろうとするモーガンをステラが手で制する。


「来たれ光の精霊、陽向の抱擁。

 我が隣人を癒せ、光華の陽射し」


 光属性の治癒魔法が傷付いたモーガンの腕を包み込んで癒やしていく。


「すまない……」


 痛みと痺れの消えた左腕を軽く動かして確認したモーガンがステラに礼を述べてから戦列に復帰した。

 前方に居並ぶストームバッファローは今に走り出さんと身構えていた。


「突進が来る! 後ろに逸らすなよ!」


 ストームバッファローが突破すれば、そのまま非戦闘員の中に突っ込む。

 モーガンの声に気を引き締めた面々が武器を構え直した。



 ブモオオオオッ!



 雄叫びを上げたストームバッファローが次々とモーガン達を目掛けて突進する。

 突進に長けた魔獣との戦闘では、先ず魔獣の足を止める事がセオリーだ。

 そして動きを封じ込め、急所をつく。

 本来、ストームバッファローは十頭前後で群れを作っている気性の荒い魔獣だ。

 強靭な脚力と太く頑丈な角を用いた突進で敵をなぎ倒していく。

 草原に生息している事が多く、冒険者ギルドの討伐ランクでは5か6程度。

 大規模な群れになると上級依頼になる場合もあるが、この場にいるのは三頭。

 分散出来ればなんとかなる。


「「来たれ土の精霊! 大地の屹立、

 我らに迫る災禍を隔てよ土の城壁!」」


 モーガンとエジルが同時に土属性の防御壁を展開し、それぞれに襲い掛かったストームバッファローの突進を防ぐ。

 ストームバッファローは防御壁こそ粉砕したが、そのまま突進を続けられず、足を止めた。


「今だっ!」

「来たれ水の精霊! 水簾の鎖縛、

 我が敵を縛めよ流水の枷!」

「来たれ氷の精霊! 垂氷の鎖縛、

 我が敵を縛めよ氷輪の枷!」


 モーガンの声に間髪入れず、エリスとローザがストームバッファローの動きを封じ込める。

 更に連動して動いていたアイカとラッツがストームバッファローに飛び込んだ。


「せいっ!」

「はあ!」


 アイカは片手剣を、ラッツは鎌を気合と共に振り抜いて、それぞれがストームバッファローの急所である首を深く切り裂く。

 一撃で事切れたストームバッファロー二頭が相次いで崩れ落ちた。


「中央はっ!?」


 モーガンが唯一、魔法を発動させなかった真ん中の布陣を慌てて振り返った。


「シィッ!」


 地を這うような低さで疾走したマイナがすれ違いざまにストームバッファローの左前脚を斬りつける。



 ブモオオオオッ!?



 踏ん張れず、ストームバッファローが嘶きながら前のめりに崩れ落ちた。

 その顔面をミーシャの振り降ろした巨大なハンマーが容赦なく叩き潰す。

 ビクンと一度痙攣したストームバッファローはそのまま動かなくなった。

 ストームバッファローの角はいい値段で取引される為、熟練の冒険者なら頭ごと潰すという事はまずやらない。

 今は非常時だし、気にしている場合でもないのだが、やれと言われて頭ごと潰せる人間はそうそういない。


(そういや、あの娘は単独でゴーレムを破壊してたっけな……)


 それが例え、モーガンから見て未熟なゴーレムであったとしても、自分の身の丈を越すゴーレムを単独で破壊するには相当な実力がいる。

 それだけでミーシャの戦闘能力の高さが推し量れた。

 モーガンは頭の潰れたストームバッファローの死体を見て、一瞬顔を引きつらせたが、直ぐに魔獣の侵入を許した庭の柵の方へ視線を向けた。

 そこにモーガンが感じた嫌な予感の正体がいる。

 これからどんな事が起ころうと、戦力があるに越したことはない。


「これで終わりですか、モーガンさん? でしたら、防衛を固め直さないと……」

「まだだ……」


 アイカの問いに、モーガンが苦虫を噛み潰したような表情で答えて破壊された柵の方を睨む。


「いやー、見事見事……」


 気のない拍手をしながら厭らしい笑みを浮かべた男が破壊された柵を越えて庭へ入ってきた。

 脇を四名の騎士が固めている。

 見覚えのある顔だった。


「グラム……!」


 モーガンが吐き捨てるように呟く。

 貴族の登場に背後にいた避難民達がざわめき立った。

 先日、私兵を率いて学舎で騒動を起こしたグラムである。

 取り巻き達も同じだ。

 グラムは呼び捨てたモーガンを一瞥すると、鼻を鳴らして視線を正面のセシリアに向けた。


「今日のところは下民の非礼も許そう。なぁ、セシリアよ……」


 粘着くような視線と無礼な振る舞いにセシリアや使用人達が微かに眉を顰める。

 冒険者の妻になったとはいえ、本来貴族として上の地位に当たるセシリアに対して、無遠慮な視線に呼び捨てなどあってはならない事だ。

 それが、見るからに横柄な態度。

 救援に来たわけではない事は誰が見ても明らかだった。


「なにをしに、現れたのですか?」


 毅然とした態度で問いかけるセシリアに、グラムが目を細める。


「なーに、ちょっとご挨拶に、ね……」

「挨拶……? して頂く程のよしみもございませんが?」


 そもそも、グラムは先日の騒動の主犯として指名手配されている。

 混乱に乗じて逃亡を謀る事はあっても、身の危険を冒してまでトルキス邸に立ち寄る理由はない。

 あるとすれば、逆恨みからくる復讐しかないが、命の危険もある現状ではそれもどうかというものだ。


「そう言うな。次期王が、直々に出向いてきてやったのだ」

「次期王……?」


 セシリアが訝しむように聞き返す。

 避難してきた人々のざわめきも大きくなった。

 グラムの言葉はまるで現実味のない言葉だった。

 どう鉢が回ろうが、フィルファリア王国において、グラムに王位継承権が巡ってくることはない。

 全員がグラムの正気を疑った。

 追い詰められて気でも触れたのか、と。

 しかし、セシリアはその言葉の真意を直ぐに理解した。


「なるほど……この魔獣騒ぎはカルディ家の仕業なのですね」

「ご名答! 賢い女は実にいいなぁ!」


 セシリアの答えに気を良くしたグラムが大仰に喜んでみせる。


「どういう事ですか、セシリア様?」

「革命なのだよ! これはなぁ!」


 傍にいたローザの問いかけに答えたのはグラムであった。

 煩わしそうに睨みつけるローザの視線を無視してグラムが己に陶酔したように続ける。


「全ての王族を排除し、当家が新たな王国を築き上げる。これはその歴史的な第一歩なのだよ!」

「何を言って……!?」


 理解が追い付かず、食ってかかろうとするローザをセシリアが手で制した。


「セシリア様……?」

「この騒ぎはカルディ家とそれに属する者達の謀反なのでしょう……」

「そんな……」


 ローザが驚くのも無理はない。

 フィルファリア王国は現王政下、繁栄を続けている。

 全ての人が幸せではないにせよ、不満を持つ者は少ないだろう。

 そんな状況で謀反を起こしたところで付き従う者がいるとは思えない。

 努めて冷静にセシリアが問いかけた。


「どのような方法を使ったかは存じませんが、街に魔獣を放ち、これだけの被害を出しておいて他の貴族や民が付き従うとでも思っているのですか?」

「従わせるさ! 従わぬのなら殺してしまえばいい!」

「ふざけるなっ!」

「そうよ! お呼びじゃないのよ!」


 嘲るグラムに避難してきた住民から野次が飛ぶ。

 だが、その表情から厭らしい笑みが消えることはない。

 よほど、余裕があるのだろう。

 セシリアが呆れたようにため息を吐いた。


「愚かな事です。そのような考えで国を治められるわけがない」

「治められるのさ! 我々はあのお方に認められたのだからな!」

「あのお方……?」


 聞き捨てならない単語に反応したセシリアにグラムの笑みが濃くなる。


「おしゃべりが過ぎたようだ……そろそろ蹂躙させてもらうとしよう」

「お待ちなさい! グラム!」

「サヨナラだ、セシリア! あの薄汚い犬の悔しがる顔が目に浮かぶなぁ……」


 口が避けんばかりの濁った笑みでグラムが手にした金属製の筒のような物体を翳した。

 杖ではない。

 魔力が流し込まれ、怪しい光を放つ。


「アーティファクト!?」

「お下がりください、セシリア様!」


 エリスの声にセシリアは後衛に下がり、他の者が武器を構え直す。


「魔獣が出るぞ!」


 モーガンは先程のストームバッファローがあの魔道具から召喚されるのを見ていた。


「素晴らしい贈り物だろう? コイツは魔獣を捕らえて、好きな時に解き放てるのだ。我々にとって忌むべき存在を、いくらでも手駒に加える事が出来る――このようにな!」


 怪しい光が一際大きな光を放ち、筒から何かが飛び出してくる。

 それはセシリア達の前で形を成し、魔獣へと変貌した。

 四メートルは越そうかという巨大なクマの魔獣へと。



 グオオオオオ!



 大きな咆哮に避難してきた人々がすくみ上がった。


「マーダーグリズリー!?」

「好きに動かせるな! 足止めを!」


 森に生息し、好んで人を襲う大熊の魔獣にマイナが声を上げ、モーガンが指示を飛ばす。


「下がれ、マイナ! 俺がやる! 次撃に備えろ!」


 ラッツが叫んで前に出た。

 グラムの後方では同じように筒を構えたグラムの取り巻き達がいる。

 次々と魔獣を呼び出すつもりなのだ。


「ラッツ……! うぅ〜、もう、勝手なんだからっ!」


 何事か言わんとして、しかし非常時という事もあり、マイナは唸ってラッツと立ち位置を入れ替わった。

 マーダーグリズリーは大柄に似合わず敏捷で、大木をへし折るような強い膂力と両腕を巧みに使って獲物を捕獲するような器用さを併せ持っている。

 特筆すべきは頑強な毛皮で打撃も斬撃もダメージを通し難く、剥ぎとった毛皮は防具の素材として高値で取引される程だ。

 冒険者ギルドの討伐ランクは単体で6か7になる。


 マーダーグリズリーを足止めするにはそれ以上の機動力を持ってヘイトを稼ぎ、回避し続けなければならない。

 適任はラッツかマイナなのだが、マイナが危険なポジションに位置取るのをラッツが嫌ったのだ。


「連携を確認して! 次が来ますよ!」


 セシリアの声に全員が気を引き締める。

 必死に応戦の体勢を取るセシリア達。

 悲鳴を上げる人々。

 それを眺めるグラムの耳障りな嘲笑がトルキス邸に響き渡った。




 グラムの襲撃に避難所は騒然となった。

 次々と現れる魔獣とセシリア達が交戦状態に入る。

 このままでは、いつ魔獣が防衛網を突破して避難してきた人々に襲いかかっても不思議ではない。


「慌てるでないわっ!」


 パニックを起こしそうになった住民達をしわがれた声が一喝した。

 ウィルが最初に声をかけた老人である。


「セシリア様達が戦ってくださっておるのだ! 我らが狼狽えてどうする!」


 ピタリと動きを止めた住民達は顔を見合わせ、それから頷いた。


「よし、戦える者は戦えない者の前に出ろ!」

「やれるだけの事はやりましょう!」


 気を持ち直した住民達が、できる範囲で動き出す。


「やれやれ……」


 その様子をウィルや精霊達と並んで見ていたアーガスがため息まじりに呟く。


「あのじーさん、さっきまではしょぼくれていたってのに……」


 手に携帯用の杖を持ち、指示を出す老人の姿は力強さを取り戻していた。


「おじーさん、げんきになったー?」

「そうですね」


 見上げてくるウィルにアーガスが頷く。

 それから、集まる住民達の方を見やった。


「さて……」


 いつまでもここでこうしている訳にはいかない。

 救護所にはジェッタを寝かせたままだ。

 セシリア達が善戦しているとはいえ、何が起こるか分からない。

 動ける内に動いておいた方がいい。


「ウィルー!」


 折良く、セレナとニーナが風の幻獣を伴って、ウィルの下へ駆け寄ってきた。


「ささ、ウィル様。セレナ様やニーナ様と一緒に……メアリーちゃんも……」


 言いかけて、アーガスはぎょっとした。


「アイツのせいで……ジェッタは……ジェッタは!」


 メアリーが拳を握り締め、怒りを顕わに駆け出そうとする。

 アーガスは飛びつくように後ろからメアリーを抱き止めた。


「落ち着け、メアリーちゃん! 今行っても巻き込まれて死ぬだけだ!」

「は、放して! 放して下さい、アーガスさん! 私が、私がアイツを!」


 振りほどくようにメアリーが暴れる。

 本来ならメアリーの力でアーガスの腕を逃れるのは難しい。

 だが、今のアーガスには右腕しかない。

 いくら普段から鍛えているといっても、片腕の上、大量に血を失った後だ。

 暴れる大人を抑えるのは難しかった。


「メアリーちゃん!」

「放して!」


 メアリーが両腕でアーガスの拘束をから逃れようとして。


「だめー!」


 ウィルがメアリーの足にしがみついた。


「ウィル様……」


 力一杯しがみつくウィルの体が震えているのを感じて、メアリーは正気に戻った。

 じっ、とウィルを見下ろす。

 動かなくなったメアリーを抱き直して、アーガスは静かに呟いた。


「今、メアリーちゃんに何かあったら、残されたにーちゃんはどうすんだよ……」


 メアリーは、顔をくしゃくしゃにして、涙を零した。

 しっかり立っていようとアーガスの残された右腕にしがみつき、でも膝の力が抜けて、その場に崩れ落ちる。

 ウィルはしゃがみ込んだメアリーを横から抱き直した。

 泣きそうになりながら、それでも口を引き結び、泣くまいとするウィル。

 そんなウィルと視線を合わせたメアリーの目から止めどなく涙が溢れる。

 やがて彼女は耐え切れず、顔を伏せ、声を上げて泣き出した。


《ウィル……》


 心配した土の精霊がウィルに声をかける。

 ウィルは応えなかった。

 ポロポロと涙を零し、だが、声を挙げずにメアリーを見守った。


 その中で、ウィルはずっと考えていた。


(だれ……? おねーさんをこんなに、かなしませるのは……)


 視線を遠くで笑うグラムへ向ける。


(あいつらだ……! あいつらがきてから、みんなえがおじゃなくなった……)


 ウィルが零れた涙を袖で拭った。


(あいつらがまじゅーをだして、みんなをいじめよーとしてるんだ……)


 ウィルの表情が険しくなり、頬が膨らむ。


(ゆるせない! うぃる、せっかくみんなをえがおにしようとがんばったのに!)


 グラム達のせいで全てが台無しになった。


 だが、母は言った。

 だったら、どうするか、なのだと。

 姉達は言った。

 皆を守って欲しい、と。

 皆の笑顔が奪われた。

 だったら、どうする。


(わるいやつ! ぜんぶ、うぃるがやっつけてやる!)


 ウィルのフラストレーションは極限に達していた。

 レンが去り際に「お利口さんにしてて下さいね」と言っていた気がするが、もう我慢の限界だ。


「あいつら、いらない! うぃる、おこったんだから!」


 一人プンプンし始めたウィルを見て、精霊達が顔を見合わせ、姉達が顔を見合わせ、精霊達と姉達が顔を見合わせた。

 もうウィルを留めておく事は無理だろう。

 だが、いくらウィルの魔法が凄いとはいえ、危険と分かっている場所に幼い弟を向かわせるわけにはいかない。

 セレナは困り顔で精霊達を見た。

 変なスイッチが入ったウィルは父や母ですら手を焼くのだ。

 普段は大人しく、言う事をよく聞くウィルだが、一度こうなってしまっては手がつけられない。


「ウィル……危険なのよ?」


 ニーナがウィルを抱き締めるが、ウィルの視線はグラムから離れない。

 ターゲット、ロックオンだ。

 その様子に土の精霊が小さく溜め息を吐いた。

 意を決したように表情を引き締め、ウィルの顔を覗き込む。


《どうしても、行くのね……?》


 正面から精霊の少女の顔を見返して、ウィルは力強く頷いた。


「あいつらがみんなをいじめてるんだ! うぃる、ゆるせないよ!」

《そうね……私もだわ》


 土の精霊は頷き返した。

 そして、ウィルの頭を撫でる。


《だから、私もウィルと一緒に行くわ。あなた一人を危険な場所へ行かせられないから……》


 そう言うと、土の精霊はウィルの耳に口を寄せ、そっと耳打ちした。

 ウィルが驚いたように土の精霊に向き直り、土の精霊は一つ頷いた。

 それを見ていた風の精霊が目を見開いて、口をパクパクさせる。


《なっ、なっ……こ、こんぜん、こ……》

《仮、だけど……私はウィルを気に入ったもの……》


 耳まで赤くなった風の精霊に土の精霊が落ち着いた声を返す。

 土の精霊の頬も赤くなっている。

 だが、その瞳には強い意志があった。

 姉達やアーガス、風の幻獣達が不思議そうに見守る中、土の精霊は続けた。


《私はウィルについていく……あなたは?》


 土の精霊の言葉に風の精霊の目元が釣り上がる。

 緩みそうになる口元を引き結んで、うー、っと唸って。


《い、言っとくけど! 私が一番最初にウィルに目をつけたのよ!》


 風の精霊は対抗するようにそう言うと、ウィルの横に膝を付いた。


《ウィル! 私も一緒に行くからね! 悪い奴を懲らしめてやりましょう!》

「うん!」


 強く頷いて見返してくるウィルを前に、風の精霊も意を決して、ウィルにそっと耳打ちをした。


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