続・初めての魔法
魔法を強くしようとするなら、反復練習するのが一番いい。
何度も繰り返し発動する事で、より効率的に魔力を行使できるようになり、同時に魔力の総量や回復量を向上させる事もできる。
まさに一石三鳥だ。
地味な上に根気のいる練習だが、ウィルが二種類の障壁を同時に習得した事でこの問題は解決した。
まずは使用人達が交代で背後に隠したボールと魔法の光のどちらかをウィルに見せる。
ウィルはどちらか判断がついたら物理障壁か魔法障壁でそれに応える。
旗揚げゲームに似た要領でウィルを楽しませた。
「正直、ここまでスムーズに事が運べるとは思いませんでした」
マイナと交代で戻ってきたレンが、少し遊び疲れて座り込むウィルに視線を向ける。
魔力切れ寸前まで遊ばせれば、今日の成果としては十分だ。
交代したマイナが「私でラストよ、ウィル様! ファイト!」と声をかけると、ウィルがゆっくりと立ち上がった。
「よく頑張りましたな、ウィル様……」
目頭を熱くしながら、トマソンが呟く。
物理に魔法にと障壁を展開するウィルの魔力量は子供にしてはやはり多い方だった。
が、その辺は子供の域を出なかった。
非凡な才能を見せつけられはしたが、同時に安心できる要素も見つけられた。
いくら次々に魔法を習得できたとしても、魔力量が足りなければ魔法は発動しない。
ウィルが魔法を上達させるには、他の子供達と同じように何度も魔法を使い、繰り返し練習しなければならなかった。
これならしっかりと教えていける。
レン達はそう確信していた。
「ウィル様、これで最後です……」
ウィルの疲れを見て取ったマイナが背後に両手を隠す。
これ以上は魔力切れを起こして倒れかねない。
ウィルは最後の障壁を展開する為、ワンドを構えた。
「これならどうですかー!」
悪ノリしたマイナが両手を高々と突き上げる。
右手にボール。
左手に魔法の光。
同時に出してしまったのだ。
「ふぇっ!?」
驚いたウィルが一瞬固まる。
見守っていた使用人達が深々と嘆息した。
「あの娘はぁ……」
アイカが呆れたように頭を抱える。
ウィルはまだ教わっていないが、障壁を同時に出す方法はある。
むしろ、それこそが障壁の真髄であった。
実力者になれば、この障壁を幾重にも重ねて展開する。
その防御能力は生半可な物理攻撃や魔法攻撃では傷一つ付ける事すらできない。
ただ、これは本来魔力量が十分になる学舎の初等部――八歳位から覚え始めることであった。
「ふっふっふ……いくらウィル様でも、どうする事もできまい……」
勝ち誇った様にマイナが笑みを零す。
ウィルはというと、同時に両方の障壁を出そうとして失敗している。
むう、と頬を膨らませ、ウィルが胸を張るマイナを見上げた。
「ウィル様、こうです。こう!」
マイナが手本に多重障壁を展開してみせる。
綺麗な光の障壁が幾重にも彼女を包み込んだ。
それを見たウィルが驚きに目を見開く。
「多重障壁の基本はこのように、横に並べるよりもまずは縦に並べるように意識するのが重要で……って」
説明していたマイナが途中で言葉を失う。
ウィルの目の前に物理と魔法の障壁が重なって展開されていた。
「これぇー?」
「「「いやいやいや……」」」
見守っていた使用人達が驚きを通り越して呆れた声を漏らす。
ただ一人、マイナだけはオーバーにガッツポーズをしてみせた。
「さっすが、ウィル様! 見ただけで多重障壁を習得されるなんて! もう天才っ!!」
ガバッと両腕を広げ、マイナがウィルに抱きつこうとして、
「あっ……」
「「「あっ……」」」
「がっ……!?」
張られたままの障壁に頭から突っ込んで、室内にガンッと硬質な音が鳴り響いた。
短く苦悶の声を漏らしたマイナが頭を抑えてうずくまる。
「あぐ……いたぁ……」
「まいな……だいじょうぶ……? いたいのいたいの、とんでけー」
心配そうに近寄ったウィルがマイナの頭を撫でながら、顔をのぞき込んだ。
マイナが親指を立てて、痛みに耐えながら無理やり笑みを浮かべる。
「ウィル様……その魔法強度、です……今の感覚を、わ、忘れず、に……」
「バカ……」
妙な寸劇で場を取り繕おうするマイナに、レンは額を抑えて思わず嘆息した。