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閑話 リリィ様は見てた

 リリィ視点で書きましたが、なんか回想になりました。遅くなりましたし、難しいし、上手くない。ホントすんません。

 今日中にもう一話更新したいと思います。

―――リリィ視点―――


 事の発端は一昨日。

 シロー様が屋敷へ二回目にいらっしゃった時です。

 シロー様はその日起きた事件の報告をする為、再びお兄様に会いにいらっしゃったのです。

 報告を終えた後、その足で私にも会いに来てくださいました。


「……というわけでして」


 シロー様は掻い摘んで事件のあらましを教えてくださいました。

 カルディ伯爵の息子が冒険者に無心を働いていたので懲らしめたのだとか。


「それは大変でしたね」

「ありがとう御座います」


 私が労うと、シロー様は笑みを浮かべました。

 私はカルディ家は親も子も嫌いでした。

 伯爵は兄を目の敵にしているし、息子の方は私や他の娘達に無遠慮な視線を向けてきます。

 厭らしい視線で見られる、と女性達にはすこぶる評判が悪いのです。

 そのカルディ伯爵の息子を懲らしめたというのだから私を含め、女性達のシロー様に対する評価は絶賛上昇中でしょう。

 後々、その事について話していたメイド達が大層盛り上がっていたので詳しく聞いたのですが、100名にも上るカルディ伯爵の私兵相手にたった7名で大立ち回りをし、最終的に駆けつけたトルキス家の手勢数名でボコボコにしたらしいのです。

 シロー様も一太刀で相手のゴーレムを切り捨てたとか。

 ……シロー様、端折り過ぎです。

 もう少し、ご自身の武勇を誇るなり、してくれればいいのに。


 ともあれ。

 その時、私はシロー様にお誘い頂きました。


「二日後、小さな昼食会を開くのでいらっしゃいませんか?」


 急なお誘いです。

 普通は貴族をパーティなりに招待する時は招待状を用意するものなのですが。

 小さな、と言っているし、友人を招く感じの軽いノリなのでしょうか。

 不思議がっている私にシロー様は含みのある笑みを浮かべていらっしゃいました。


「その日、朝からガイオス騎士団長が家にいらっしゃる予定なんです」


 シロー様が何を言っているのか、一瞬分かりませんでした。

 ガイオス様が、来る?

 シロー様はおっしゃってました。

 ガイオス様と二人きりになれるように取り計らう、と。

 その日の昼に一度いらっしゃった時です。

 まさかこんなに早くとは。


「小さな親睦会なので大勢だと困りますが、お友達も是非お呼びください」


 つまり、シロー様は恥ずかしがりの私に友人を連れてきてもいいからガイオス様に会いに来なさい、と言ってくれているのです。

 すべて私の為に企画した訳ではないにしろ、お膳立てをしてくれたのです。

 自分でも嬉しさと興奮で顔がニヤけているのが分かりました。


「はい! 是非!」


 私は思わず大きな返事をしてしまい、恥ずかしくなって顔を隠しました。

 シロー様はそんな私を見て、嬉しそうに笑っていて。

 シロー様がお帰りになると、私は傍に控えていた世話係のメアリーと動き出しました。

 服を選び、友人を誘い、打ち合わせをして、あっという間に約束の日になって。

 待ち合わせた友人と馬車に乗り、シロー様のお屋敷へ向かいました。

 メアリーと執事のジェッタ、友人二人と私を合わせて五人。

 メアリーは御者台にいて、私は友人達に緊張をほぐされていましたが、何を話したのか覚えていません。

 だって、約束もせず、好きな殿方に会いに行くのです。

 迷惑と思われたらと不安も感じます。


 外周区の中程まで来たときでしょうか。

 急に周りが騒がしくなりました。

 街の喧騒ではなく、明らかに悲鳴で。

 続けて笛の音――


「敵襲!」


 ジェッタの声に思考が停止しました。


「えっ……?」


 友人達と顔を見合わせます。

 彼女達も呆気にとられた顔をしていました。


「お嬢様っ!」

「「「キャアアアッ!」」」


 私達の意識を引き戻したのはメアリーの声と馬車を襲った衝撃でした。

 メアリーは馬車の扉を開けて私達を降ろしました。


「早く、逃げてください!」


 訳が分からず馬車の先を見ると、馬車を引いていた馬が大きな塊に抑えつけられていました。

 それが大きな蟻の魔獣だと分かるまで間がありました。


「ひっ……!」


 引き攣った悲鳴を上げ、私達は来た道を戻ろうとしました。

 しかし、そちらには既に大きな蟷螂の魔獣が道行く人を切り刻んでいました。


「こちらへ!」


 メアリーに手を引かれて、私達は馬を喰い漁る蟻の魔獣を避けて走り抜けました。

 馬車が進む筈だった方向です。


「がぁっ!」


 最初に捕まったのは殿を務めていたジェッタでした。

 振り向くと、彼は大蜘蛛の糸に足を取られていました。


「立ち止まるなっ! メアリー! お嬢様達を逃がせえっ!」

「ジェッタ! ……くっ!」


 駆け寄りたかった筈です。

 メアリーがジェッタに対して好意以上の感情を持っている事を私は知っていました。

 でも、立ち止まっている場合じゃない事は皆分かっていました。

 私達は必死に走りました。

 どれくらい走ったでしょうか。しかし、その甲斐もなく、私達はジェッタと同じように蜘蛛の糸に捕らえられました。

 地面に貼り付けられ、身動きの取れない私達に蟻の魔獣が迫ってきました。


「ひっ……!」


 もう駄目だ、と。

 私は顔を背けました。

 ですが、私を救ったのは意外にも大蜘蛛の魔獣でした。

 大蜘蛛は蟻の魔獣と私達の間に立ちはだかりました。

 どうやら私達を餌と見て、取り合いをしているようです。

 私達は一匹の大蜘蛛が蟻の魔獣を抑えている間に他の大蜘蛛の手(脚?)によって、蜘蛛の巣の上の方へ吊るされました。

 番なのでしょうか。

 大蜘蛛に運ばれている時は生きた心地がしませんでした。

 大蜘蛛達は私達を確保すると何処かへ移動していきました。

 まだまだ捕まえる気のようです。

 戻ってきては蜘蛛の糸でぐるぐる巻きにした人を巣に吊るしていきます。

 時間が経つに連れ、私は少しずつ落ち着いていきました。

 代わりに今の絶望的な状態もだんだん理解できるようになりました。

 このままではいずれあの大蜘蛛に食い殺されてしまう。


「ガイオス様……」


 会いたかった。

 ですが、このままではもう会えない。

 私達の命は誰が見ても風前の灯でした。

 力無くぷらんと垂れ下がる自分の足を見て、私の視界は滲みました。


「助けて……」


 私の呟きは周りの悲鳴と泣き声でかき消されました。

 私は既に絶望していました。

 絶望でそれ以上考えられませんでした。


 五つ児と覚しき小さな男の子達が通りの先に現れるまでは。


 男の子は私達を見て驚いたようでした。

 それから不思議そうな顔をして、迷って。


「あのー……」


 事もあろうに近づいてきたのです。

 大蜘蛛に囚われた私達に。

 いけない。

 このままではこの子まで大蜘蛛の餌食となってしまう。

 私は込み上げてくる恐怖を無理やり噛み殺して、お腹に力を込めました。


「お逃げなさい!」


 この子だけでも逃さねば。

 必死だったと思います。

 この子だけでも逃げられれば、私達は子供を助けたと誇りを持って死ねる。

 無駄死にじゃないと納得できる。

 そんな小さな言い訳に、希望に縋ったのです。


 でも、現実は非情でした。

 大蜘蛛は子供達の前に降り立ち、五つ児の男の子の一人に頭から齧り付いたのです。

 助けられなかった。

 絶望が私の心を再び覆っていきました。

 しかし、その私に聞こえたのは絶望を振り払うような男の子の楽しげな笑い声でした。


「うぃるのくれーまんさん、たべられちゃった」


 よく見ると、私が男の子だと思っていた子供は土の人形のようでした。

 何かの魔法でしょうか。

 ゴーレム生成とは違う、何か。

 でも、その魔法は誰が使ったのでしょうか。

 まさか、目の前の男の子が?

 でも、こんな小さな男の子がこれ程精巧な生成魔法を駆使できるなんて聞いた事ありません。


 混乱する頭で、しかし何も解決していない事に私は気付きました。

 男の子はまだ危険な状態。

 私は咄嗟に大好きなあの方の顔を思い浮かべました。


(ガイオス様……)


 こんな時に想い人に気持ちを馳せてなんになるというのか。


(どうかこの男の子をお救い下さい……)


 正直、都合が良すぎるとは思います。

 普通は精霊様にお祈りするところです。

 ですが思い直す余裕なんてありません。

 私にも男の子にも。


 その時です。ガイオス様がいらっしゃたのは。


「うおっ!? なんじゃこりゃ!?」


 彼の姿を見た瞬間、私の胸が一際大きく鼓動しました。

 このタイミングで、本当に彼が姿を現すなんて。

 両手が塞がっていなければ、自分の頬をつねって夢かどうか確認したでしょう。

 でも、きっと、夢じゃない。


「ガイオス様!」


 色々と溢れ出そうな感情を押し殺して、私は叫びました。

 子供を見て驚いていたガイオス様は、私を見上げて更に驚いていました。


「リ、リリィ……なんでこんな所に……」

「どうか……そのお子様を連れてお逃げ下さい!」

「し、しかし……」


 私の言葉にガイオス様は首を縦に振りません。

 相変わらず、焦れったい人です。

 私の気持ちを知っていて距離を置いたり、かと思えば影から見守っていてくれたりするのです。

 ともかく、今はガイオス様に男の子を託す他ありません。


「私共を見捨て、早く!」

「そんな事、お前を見捨てる事などできる筈ないだろう!」


 急かす私に背を向けて、ガイオス様は剣を構えました。


「待ってろ、リリィ! 応援は必ず来る! それまでお前はこのガイオスが命を懸けて守ってみせる!」


 正直、涙が出そうでした。

 幾度そのような言葉を頂きたいと夢見たことか。


「……そのお言葉だけで……リリィは幸せでございます。ですから、どうか……」


 声が震えて言葉が続きません。

 最後にガイオス様に会えた。

 男の子も無事。

 想い人が命をかけて守ると言ってくれた。

 それだけで、もう十分。

 十分にしよう。

 これ以上、望んではいけない。

 でも、もし。

 もし、私が無事であれたなら、ガイオス様に想いの丈を全て伝えよう。

 そんな希望と諦念を混ぜ合わせたような心境で落ち着いた私の目に飛び込んできたもの。

 それは、年相応の可愛らしい仕草でガイオス様のズボンを引く男の子の姿でした。


「えーっと、うぃる、もういーから、くもさんやっつけてもいい?」


 なにを言っているのか理解出来ませんでした。

 男の子が気にした風もなく、辿々しい口調で魔法を詠唱すると、先程大蜘蛛にやられた土人形が男の子の姿に戻りました。

 理解が追いつきません。

 魔法に魔法を組み合わせるとか聞いた事もありません。


「いっくよー!」


 男の子の元気な掛け声。

 次の瞬間、先程まで土人形だった男の子がとんでもない速さで大蜘蛛に突っ込んでいきました。

 そのまま大蜘蛛を蹂躙する男の子。

 えっ?

 大蜘蛛が実は弱いとかそういう話ではない筈。

 だってあれ、魔獣ですし。

 呆気にとられる私の前で大蜘蛛がその背後に逃げても男の子は余裕でした。

 魔法を詠唱し、男の子の杖から風属性の魔法が空へと解き放たれ、続く轟音。


「うぃるのかちー♪」


 私は可愛く勝ち名乗りを上げる男の子の姿をただ呆然と眺めていました。


――――――――――

 感想とかダメ出しとか、何かあればお願いします。

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[一言] まさにピュアデビル(笑)
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