ベルくん、魔法使いになる(種類編)
魔法について、ダラダラ説明しております。説明できているか、不安です。説明ってなんだっけ?
「ベルくん、まほうつかいになる〜、はじまりはじまり〜」
明くる日の朝、リビングに集まった子供達に向けて、ミーシャの紙芝居が始まった。
事件後、今日まで学舎が休みのセレナと興味を持った精霊達も一緒である。
子供達の膝の上にはそれぞれの幻獣達がいて、いつもより観客が増えていた。
「『今日は初級魔法について、お話しますね』
『はーい』
『初級魔法に属性はありません。難しい事はできませんが、属性魔法と比べると簡単です。自分の魔力で魔素に触れて形をイメージするだけです』
『僕にもできるかな?』」
「できるよー、できるできるー」
心配そうなベルくんに対してウィルが応援するような声を上げた。
初級魔法にも色んな型があり、その全てが更に上位の属性魔法の基礎になっている。
その基礎から外れると属性魔法でも上位の難易度になっていくのだ。
「『代表的な型がいくつかあります。まずはそれらを覚えましょう』」
そう説明したメイドがベルくんに初級魔法を紹介した。
シールド系……難易度、低。障壁や防御壁。基本中の基本。
アロー系……難易度、低。基本的な遠距離魔法。
エンチャント系……難易度、中。武器などの性能を向上させる。
バレット系……難易度、中。連射や散弾に向く遠距離魔法。
ホールド系……難易度、高。弱いと力任せでも引き千切られる。
ブースト系……難易度、高。身体強化魔法。維持が難しい。
「『初級魔法の威力は低いですが、出が早く、無詠唱も行い易いです。属性魔法を使う時の練習にもなりますし、強い人ほど初級魔法の扱いが上手です』」
戦闘においても常に高威力の魔法が使用されるわけではない。
発動までに時間がかかる上、魔力コストがかかり、連続での使用が難しいのだ。
その為、魔法使いであっても戦闘に用いるのは中級と呼ばれる属性魔法が多い。
それは初級魔法の延長線上にあるものが殆どだ。
「『ベルくんも初心を忘れず、いっぱい初級魔法を練習して下さい』
『はい!』」
やる気に満ちた目で応えたベルくんが杖を手に初級魔法を練習するところで紙芝居は終了した。
紙芝居が終わると、子供達から拍手がおきた。
「うぃるもまほーのれんしゅーしなくちゃ!」
「お待ち下さい、ウィル様」
早速、庭に駆け出そうとするウィルをレンが呼び止めた。
やる気に水を刺されたウィルが頬をぷぅ、と膨らませる。
「なんでー?」
「ウィル様〜、まだ終わっていませんよ〜」
答えたのはミーシャだ。
今まで読み聞かせていた紙芝居を置いて、次の紙芝居を膝の上に置いた。
「ベルくん、まほうつかいになる〜、はじまりはじまり〜」
驚きの二本立てだった。
目を見開いたウィルが慌てて元の席に戻った。
その様子に並んだ姉達や精霊達が笑みを浮かべる。
「おかえり、ウィル」
「ただいま、にーなねーさま!」
真面目くさった表情で返事するウィルにニーナの笑みが深まった。
ウィルが聞く体勢に入ったのを確認したミーシャが紙芝居を始める。
「『今度は魔法の属性についてお話しますね』」
ベルくんに説明を始めたメイドはさっきの紙芝居にも登場したメイドだ。
どことなくレンに似ている。
今回はその他にもメイドが多数並んでいた。
「『属性の基本は火・水・地・風……この四大属性になります。誰もがこの中の一つを加護として持っています』」
加護は成長の過程で変化する事はあれど例外はなく、全ての生物に当てはまる。
そして、加護は精神の成熟と共に安定していくと言われている。
「『それに加えてもう一つ、皆が持っている加護があります』
『もう一つ?』」
「うぃるもー?」
ベルくんのセリフに合わせて、すかさずウィルが質問した。
ミーシャがにっこり笑顔で頷いた。
というか、ウィルは全属性持ちである。
「『はい。それは光属性と闇属性です』」
光属性と闇属性は四大属性と比べて少々特殊な面がある。
紙芝居の中のメイドが簡単に説明してくれた。
「『光属性……単体ではアンデッド系の魔物に効果絶大で、回復魔法も使えます。他属性と合成すると魔力を拡げたり移したりする特徴を持ちます』
『闇属性……単体では全ての生物に影響を与え、状態異常系の魔法を多く使えます。他属性と合成すると魔力を集めたり留めたりする特徴を持ちます』」
この二つの属性は他の属性に影響を与えやすく、合成する事で従来の魔法を強化する事ができる。
「うぃる、おばけきらい!」
「はいはい」
光属性の説明を聞いて渋い顔をするウィルを隣に座ったセレナが撫でてあやした。
「『光属性と闇属性は、より強い方に加護がつきます』
『光属性と闇属性、両方の加護を持っている人もいるみたいだけど……?』
『光属性と闇属性が同じぐらい得意な人は両方の加護を持っています。逆に片方がとても強い人もいますよ』
『へー……』」
感心したようなベルくんにメイドさんが続ける。
「『先程の四大属性も隣り合う属性に影響を与え易いので、光属性や闇属性と一緒にくっつける事ができます。これが上位属性です。三つの加護を持っていると、訓練次第で上位属性も使いこなす事ができるようになります』」
ミーシャがページを捲ると、属性毎のカードを持ったメイド達が上位属性の組み合わせを説明する場面になった。
「『まずは光属性を使った上位属性です。
霧属性……火、水、光
樹属性……水、土、光
雷属性……土、風、光
熱属性……風、火、光
次に闇属性を使った上位属性です。
氷属性……火、水、闇
地属性……水、土、闇
空属性……土、風、闇
炎属性……風、火、闇』」
「いっぱいー」
はー、と息をついて関心を示すウィルの前で紙芝居のメイドが締め括った。
「『基本は初級魔法です。それから四大属性と相互属性です。初級魔法をいっぱい練習したら、色んな魔法を使えるようになりましょう。その上で、自分に合った魔法を探しましょうね』
『はい!』」
紙芝居はベルくんが元気よく返事をして、属性魔法を勉強する様子で終了した。
「ニーナ様〜、ウィル様〜、魔法の事が少し分かりましたか〜?」
ミーシャの質問に、二人は首を傾げた。
セレナは座学として学舎で学んでいるが、二人に学ばせるのはまだ早い知識であった。
少なくとも順を追って読み聞かせようとしていた紙芝居を立て続けに聞かせたのは、ウィルが属性魔法を習得してしまったからである。
なるべく順を追ってを知識を深めて欲しいと願ったシローとセシリアの為の強行策であった。
「「だいたいー?」」
揃って答えた二人も自信なさげだった。
ミーシャも子供達が一度で理解できるとは思っていない。
この辺は、また読み聞かせられるのが紙芝居の強みだ。
「簡単に言えば〜、初級魔法が上手にできれば属性魔法も格好良く使えるって事です〜」
伝え方はなんだっていい。
初級魔法の重要性がそこそこ伝わっていれば、細かな理解は後回しでもいいのだ。
今、分かって欲しい事は「初級魔法って大事だよ」って事である。
そこを疎かにして属性魔法を使えるようになっても魔法を力強く使いこなす事はできないのだ。
属性魔法を簡単に習得できるからといって、ウィルに基本を疎かにして欲しくないのは全員一致の意見だ。
「うぃるも、かっこよくまほーつかいたい!」
狙い通り、ミーシャの言葉に感化されたウィルが目を輝かせてセレナを見上げる。
セレナはそれに笑顔で答えた。
「じゃあ、練習あるのみね!」
「あい!」
元気よく返事したウィルは今度こそ庭へ飛び出していった。
「きたれ、せーれーさん! やをもちててきをうてー!」
「「「あっ……」」」
飛び出した勢いのまま、詠唱するウィル。
呆然と呟くレン達の目の前でウィルの杖から一条の光が撃ち出された。
庭の端まで飛んでいった光の矢がバキャッという音を立てて、植え込みを破壊した。
「おおー……」
ウィルが自分の魔法の成果に驚いて固まる。
「ウィル様……」
背後からかかるレンの声。
その温度にウィルがビクリと体を震わせた。
「きゃあー!」
ウィルは逃げ出した。
ウィルは捕まった。
お説教されたのも致し方ない事である。
ウィルはレンが大好きですが、怒ったレンは怖いのです。