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土の魔法書

今回はサービスシーンがあります。

なんと入浴です。お風呂です。

誰のかって?

ウィルのですよ。

 ウィルのしょやしょやは落ち着いた。

 大人達が別に内容まで教える必要がないと気づいたからだ。

 結婚した男女が過ごす初めてで特別な夜で、ウィルにはまだ無理とか。

 ウィルは渋々、納得してくれた。

 まだ精霊の名前を聞きたそうだったが。


「がまん、するもん……」


 チラチラ精霊達の方を見るウィルの仕草が可愛い。

 精霊達もそんなウィルの頭を撫でた。



▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽



「はい、ウィル様。きれいきれいしましょーねー?」

「あい」


 夜も更け、夕食を終えたウィルをアイカが浴場に連れてきた。

 ウィルの服を脱がせ、先に浴場へ入れる。

 服の端を絞って、アイカが後に続いた。

 トルキス家の浴場はなかなかの広さだ。

 大人が何人で入っても十分なスペースがある。

 ウィルはいつも通り、洗い場の椅子に腰掛けてアイカを待っていた。


「熱くないですか、ウィル様?」

「だいじょーぶー」


 アイカが丁寧にウィルの体を濡らしていく。

 それから石鹸で泡立てた布でウィルの体を洗い始めた。


「あはは、くすぐったい♪」

「あん、ウィル様。ジッとしてて下さいまし」


 ウィルが身悶えするが、アイカは手を止めない。

 しばらくウィルの「あー、うー」という我慢する声が浴場に響いた。

 くまなく洗い終えて、泡を湯で流していく。


「はい、次は頭ですよ」

「うー……」


 アイカが頭に湯をかけようとすると、ウィルは体を丸めて逃げた。


「ウィル様……?」

「うー……」


 ウィルは頭を洗われるのが苦手らしい。

 いつもこのようにガード体勢に入る。

 今までは機嫌の悪いときはなかなかにメイド達の手を焼かせていたのだが――


「あら、恥ずかしい。そんな事では精霊様に認めて貰えませんよー?」

「うぅ……」

「精霊様だって、きれいにしたウィル様の方が好きだと思いますよー?」


 アイカがそんなふうに言っていると、ウィルがひょこっと顔を上げた。


「ほんとー?」

「もちろん。アイカは嘘は言いません」


 ウィルはしばらく悩んでいたが、観念して目を閉じた。


「くっ……ころせ……」

「殺しませんー」


 そう言いながら、アイカがウィルの頭に湯をかけていく。

 まったく、どこでそんな言葉を覚えてきたのやら。

 髪をたっぷり湯で濡らし、髪用の石鹸で髪を泡立てていく。


「痒いところはないですか?」

「ないー、ないのでー」


 早く終わって欲しいらしい。

 アイカはしっかり洗ってからウィルの髪をすすいでやった。


「はい、湯船に浸かって下さい」

「はーい」


 素直に従ってウィルが湯船に突入する。


「肩まで浸かって10まで数えて下さいね」

「せーの」

「「いーち、にーい、さーん……」」


 アイカとウィルが唱和する声が浴場に響いた。




 寝間着に着替えたウィルがリビングに戻ると、そこにはシローとレンとエリス、精霊達とモーガンがテーブルを囲んでいた。


「お、ウィル。お風呂上がったか」

「あがりましたー」


 シローに応えてウィルが集まりに加わる。

 ちゃっかり精霊達の間に腰掛けた。


「なにしてるのー?」

「見てもらいたい物がありまして……」


 そう言ったモーガンは袋の中から一冊の本を取り出した。

 羊皮紙を束ねた年代を感じる書物だが、保存状態はいい。ウィルがその表紙を覗き込んだ。


「…………?」


 表紙には題名が書かれているのだが、読めない。

 そもそも、ウィルはまだ字が読めないのだが、これはそういった類のものではない。


「見たことのない字だな……」


 一流の冒険者だったシローでさえ、見たこともない文字が使われていた。

 レンもエリスも分からないらしい。

 精霊達ですら首を傾げた。

 少数民族の間でのみ使用される文字だろうか?


《でも……》


 本をパラパラと捲りながら、土の精霊がポツリと呟いた。


《何が書かれているかは大体予想がつく……》


 本には図解のような物もあり、そこから判断したのだろう。


「あ、くれーまんさんだー」


 ウィルも図解で理解した。


「では、これは……魔法書?」

「ええ。土の生成魔法の魔法書です」


 レンの質問にモーガンが頷いて答えた。

 モーガンがまだ駆け出しの冒険者であった頃、偶然ダンジョンで手に入れた魔法書なのだという。


「駆け出しの頃に世話になったパーティのリーダーが気前のいい人でね」


 そのダンジョンは街から離れていて殆ど手付かずだったらしい。

 若いダンジョンで、交通の不便さを除けば駆け出しには丁度いい難易度だった。

 当時、ソロ活動をしていたモーガンはその穴場のようなダンジョンの浅い場所で修行を積み、その最中、攻略に乗り出したベテランパーティと出会ったそうだ。

 そのパーティのリーダーに気に入られたモーガンは一緒にダンジョン攻略に参加させて貰ったらしい。

 ダンジョンは難易度に不釣り合いな程の大当たりで、踏破した頃には大変な儲けが出たそうだ。


「分け前として頂いたのが、この魔法書ってわけで……」


 魔法書も売ればかなりの金額になるのだが、読めない字で書かれている上、内容はダンジョンでは使えない土属性の生成系魔法。

 魔法書の中では安く買い叩かれる部類だ。

 他にも金目の物はあったそうで、パーティのリーダーからは「遠慮するな」と逆に心配されたそうだ。

 だが、モーガンはこの魔法書こそ、自分に必要な物だと直感した。


「土属性しか取り柄のない冒険者ってのは大抵、ダンジョンを飯の種にしている奴らからはハブられるからな。俺もそうだったし」


 モーガンは苦笑してから精霊がいた事を思い出して慌てた。


「あ、土属性が悪いってわけじゃないですよ。相性の問題です」


 土の精霊もその辺は理解しているのか、頷くだけだった。


「なんで、この魔法書をマスターして護衛依頼や討伐依頼をメインにしようとね」


 生成魔法はクレイマンやゴーレムを作るだけではない。

 土さえあれば様々な物が作れる。

 これは旅路の大きな助けになる。


「でも、まだ殆ど解読できてなくて……」

《それでも、自力であのレベルのゴーレムを使いこなせるのは凄い事……》


 土の精霊に褒められ、モーガンも満更ではなさそうだ。


《魔法で生成されたゴーレムはいくつか特殊な能力を使う事ができるの……》


 自然発生するゴーレムは魔物として討伐対象になる。

 主に荒れ地や鉱山などに住み着き、取り込んだ土や鉱石によって強さが変わる。

 一方、魔法で生成するゴーレムは土の含む魔素と術者の熟練度によって強さが変わるが、鉱石を取り込んだりはできない。

 例えば魔物のゴーレムが鉄を多く含むとアイアンゴーレムとして誕生するが、土属性の魔法で鉄は作れない。

 その代わり、魔力の操作でいくつか効果的な能力を発揮させる事ができる。


《あれくらいの魔力強度だと、拳岩化と咆哮くらいは使えそうだけど……》


 土の精霊が図解を指差す。

 拳岩化はゴーレムの拳に魔力を集めて岩にする能力。

 ゴーレムの咆哮は周囲の敵を威嚇し、敵を集めるヘイト効果があるらしい。


「拳岩化はクレイマンでも使えたから知ってはいたが……咆哮は知らなかったな。いいな、これなら魔物の討伐もグッと楽になる」


 モーガンが感心したように頷いた。


「うぃるにもつかえるー?」


 見上げてくるウィルに土の精霊は微笑んだ。


《ええ、使えるわ。明日、教えてあげる……》

「やったー♪」


 上機嫌のウィルにシローも目を細めた。


「それじゃあ、精霊様達にもお泊り頂けるよう準備しなければなりませんね」


 そう言って、エリスとレンが席を立った。

 二人を見送ってから、シローが精霊達に向き直る。


「精霊様、魔素の具合は大丈夫ですか?」


 風の一片がいるので風の魔素は問題ないだろうが、土の魔素もそうとは限らない。

 魔素が足りなければ、精霊はその場に存在できないのだ。

 だが、土の精霊は首を振った。


《これだけ魔素が濃ければ、属性はあまり関係な……ありません……》


 土の精霊の言葉にシローとモーガンが「んっ?」と首を傾げる。

 なんか今、言い直したような。

 視線を彷徨わせる土の精霊の頬が、ちょっと赤い。

 その横顔を見る風の精霊はジト目である。

 間に収まっているウィルは気付いた様子もなく、上機嫌で魔法書を捲っていた。

 精霊達の態度がよく分からず、シローとモーガンは顔を見合わせた。


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くっころ系幼児…新ジャンルだΣ( ˙꒳˙ )
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