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ウィルのクレイマン

しばらくウィルのお話の予定。予定です(汗)

どうにも上手く事が運ばない。

少し長くなりそうだったので分けました。

 ウィルは少し持て余していた。

 セレナとニーナは魔法の特訓をしている。

 邪魔をしてはいけない。

 なので、ウィルはレヴィとクレイマンを引き連れて庭を駆け回っていた。


「くれーまんさん、はやい……」


 いくら魔法を使えようと、ウィルの身体能力は三歳のそれ。それでもよく動く方だ。

 比べてクレイマンの方は大きさこそウィルと同じ位だが、その動きは機敏だ。大人顔負けである。


「これは……」

「おそらく、ウィル様のイメージでしょうね」


 レンとエリスがその様子を見守りながら分析する。

 体のできていないウィルはイメージ通り動けないが、イメージから作られたクレイマンならその通りの動きが可能という事なのだろう。

 しょうがないので、ウィルはセレナの特訓している砂場にお邪魔して、クレイマンをもう三体作ってきた。


「増殖しましたね」

「あはは……」


 ウィルに付き従う小さなクレイマンにレンは呆れ顔で、エリスは苦笑いを浮かべた。


「もう作らないのですか?」


 レンが尋ねるとウィルはコクコク頷いた。


「いっぱいだとうごかないのー」


 どうやらこれ以上作ると魔力の操作が鈍るらしい。

 それでも覚えたての魔法でこれだけ同時に操作ができる事は驚嘆に値する。


「魔力は減りましたか?」

「へったー」

「どれくらいですか?」

「うーんと……」


 レンの質問にウィルが考え込む。

 そして嬉々として答えた。


「すこし!」

「もう少し具体的に」

「むう……」


 レンから色良い返事が貰えなかったウィルがチラリとエリスに視線を向ける。

 唇を尖らせたその表情にエリスがクスリと笑った。


「ゴーレムと比べてどうですか?」


 エリスが助け舟を出すと、ウィルはクレイマンをじーっと見つめた。


「まだ、ごーれむさんよりすくない」


 クレイマン四体分の魔力コストはゴーレムより少ないらしい。

 ウィルもこれ以上増やさないようなので、下位互換としては丁度いいかもしれない。


「うーん……」


 並べたクレイマンを見ていたウィルが首を捻る。

 その様子を不思議に思ったレンが尋ねた。


「どうかされましたか?」

「なんかちがう……」

「…………?」


 ウィルの呟きにレンがクレイマンを見る。

 どれも同じに見えた。

 土の体で構成された人型のゴーレムである。

 目の部分がゴーレムと同じで赤く光っている。

 何事か迷ってウンウン唸るウィルにレンとエリスが顔を見合わせた。


《ウィールー!》


 突如、上空から声がかかって全員が空を見上げた。

 ふわりと風に乗って少女が舞い降りる。


「あ、せーれーさーん!」


 立ち上がったウィルが笑顔で少女に抱きついた。

 昨日、ウィルの下へ舞い降りた風の精霊の少女である。

 少女も目一杯ウィルを抱き返す。


《早速、遊びに来たわ!》

「せーれーさん、みてー」


 ウィルがレヴィを抱えて少女に見せた。


《風の幻獣ね。じゃあ上手く行ったんだ♪》


 精霊の少女が離れた所でニーナを教えている風の一片へ視線を向ける。

 その視線に気付いた風の一片が頷いて返した。


「れびーっていうのー」

「レヴィ、です」

《レヴィ、ね。よろしくね》


 すかさず言い添えるレンに精霊の少女が納得してレヴィの頭を撫でる。

 レヴィは鼻先で精霊の少女の匂いを嗅いで応えていた。

 そこでウィルがひらめく。


「そーだ、かぜをくっつけてみよっと」

《んー?》


 ウィルがクレイマンに向き直る。

 精霊の少女はレヴィを草の上に戻すと、不思議そうに首を傾げた。


《ああ、昨日のあれ? 接続ね。コネクトって言えば魔素が相互干渉しやすくなるって言ってたわ》


 どうやら風の上位精霊から聞いたらしい。


「こねくとー?」


 ウィルは意味が分かってないようだったが。

 ウィルの場合、精霊が手助けしたのを直に見ているので真似て接続できなくはないようだ。


「こねくとー、きたれかぜのせーれーさん! はるかぜのぐそく、はやきかぜをわがともにあたえよおいかぜのこうしん!」


 ウィルが言われたまま、クレイマンに移動速度上昇の魔法を与える。


「おおー、かんたーん♪」

「簡単、って……」


 詠唱の補助で接続がスムーズだったのか、感動の声を上げるウィルにエリスが冷汗をかく。

 そもそも魔法の接続自体が今までなかったのである。

 難易度を測ることすらできない。


 速さの増したクレイマンが庭を駆け出した。

 土の質量を感じさせない動きで駆け、跳ね、静止する。

 戻ってきて整列するクレイマンを前に、ウィルは顎に手を当ててまた唸った。

 その様子はどこかの司令官のようだ。


「なんか、ちがうー」


 ダメ出しされた。


「「…………?」」


 レンとエリス、精霊の少女も一緒になって顔を見合わせた。

 今のクレイマンの動きは相当レベルの高いものだった筈だ。

 レンから見ても荒削りだが十分合格点をあげられるレベルである。

 ましてや、ウィルはまだ三歳なのである。

 何が違うのか、さっぱり分からなかった。


「何が違うんですか? ウィル様」


 エリスが聞いてみるが、ウィル自身もよく分からないらしい。ウンウン唸っている。

 あっちへウロウロ、こっちへウロウロ。

 その後ろをレヴィが付いて歩く。

 立ち止まったウィルの足元でクンクン匂いを嗅いで、ウィルの顔を見上げてくる。

 それを見たウィルがレヴィを抱き上げた。


「れびー」


 ウィルがレヴィをクレイマンに近付ける。


「くんくんして」


 ウィルが催促するが、レヴィは嫌なのか顔を背けた。

 逆にウィルの腕の中に収まりたがる。


「うぃるのくれーまんさんなのに……」


 もう一度匂いを嗅がそうとするが、レヴィはやはり嫌なようで、ウィルに縋りついた。

 幻獣と不仲になっては困る、とレンが止めに入る。


「ウィル様、レヴィは嫌がってますよ?」

「どしてー?」

「どうして、って……」


 レンがクレイマンを一瞥する。


「レヴィだってウィル様の匂いの方がいいに決まってます」

「…………?」


 レンの言葉にウィルが眉をひそめる。

 これは分かってない顔だ。

 精霊の少女がウィルの手からレヴィを抱き預かりながら、レンに同意する。


《私だって、土人形よりウィルの方がいいわ》

「ウィル様、レヴィはウィル様の事が大好きなのです」


 エリスがウィルの視線の高さまで屈んで、顔を覗き込んだ。


「ウィル様はレンの事が大好きですよね?」

「ちょっ……! エリスさんっ!?」


 引合いに出されて慌てるレン。


(自分の名前を出して、クレイマンがいいとかどっちでもいい、なんて言われたらショックで立ち直れませんし……)

(ズルいです、エリスさん!)


 二人は心の中でそんなやり取りをしていたのだが、ウィルは気付いた様子もなく頷いた。


「だいすきー」

「じゃあ、ウィル様はレンとクレイマン、どっちに抱っこされたいですか?」

「れんー」

「それと同じです。クレイマンはウィル様の魔法ですが、見たまんま土人形です。レヴィがどっちを選びたくなるか、もう分かりますよね?」

「うぃるのまほーだけど……うぃるじゃないから……?」


 ウィルの呟きにエリスが頷く。

 もう大丈夫だろう、と一歩下がろうとしたエリスのスカートをウィルの小さな手が掴んだ。


「ウィル様?」

「えへへ……」


 何かを思いついたのか、ウィルが笑顔でエリスの顔を見上げた。


ウィルは何かを思いついたようです。

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