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教えて、モーガン先生

 シローは改めてウィルの能力をモーガン達に説明した。


 魔力の流れを見れる事。

 それをそのまま真似して再現できる事。


 どの位の規模でそれが可能かは正直いって未知数。

 魔法も周りの危険を考慮して、なるべく攻撃性のないものを選んで教えていたが(それでもマイナが怪我をしたが)昨日の一件でウィルは攻撃魔法を多数覚えてしまった。

 モーガン達は黙って聞いていたが、彼らは昨日ウィルの全色発光を目の当たりにしている。シローの話を信じて真面目に聞いていた。

 そして、シローは言った。


「私達にゴーレム生成の魔法を詳しく教えて欲しい」


 人は本来、自分の得意としている魔法を気軽に教える事はしない。

 魔法とは強みだ。他人にできない事ができるというだけでその人物の評価は上がる。

 同時に弱みでもある。襲撃された際、対策を練られると実力差があっても勝敗をひっくり返される事もあるからだ。

 もちろん、シローがモーガンを襲う事はないだろう。

 だが、ゴーレム生成は珍しい魔法だ。使用方法が周りに知れ渡れば、それだけモーガンの商売敵が増える事になる。

 冒険者として、それは美味しくない。


「周りに広めるつもりはない……でも、ね」


 そうは言っても漏れないという保証はどこにもない。

 それはシローもモーガンも分かっている。

 教える相手はセレナとウィルなのである。

 セレナはまだしも、魔法を見るだけで習得してしまうウィルに魔法を秘密にする大切さを教えたところで理解できるか疑問である。年齢的な意味でも。


 モーガンが腕組みしたまま、唸る。

 シローの申し出も分かる。

 だが、これはモーガン個人の問題に収まらない。彼は【大地の巨人】のリーダーで、彼の部下の生活もかかっているのだ。

 悩むモーガンに部下の一人が笑いかけた。


「もう腹は決まってるんでしょ?」

「はっ?」


 驚くモーガンに他の部下も笑みを浮かべる。


「リーダーだけなら迷わず教えてた筈ですよ?」

「そっすよ。それに昨日の夜、言ってたじゃないっすか!」


 不思議そうに顔を見合わせるシロー達。

 慌てたようにモーガンが手を振る。


「いや、でもお前ら、それはだな……」

「なんにしても、俺らの気持ちも変わりませんよ」


 部下達の良い笑顔にモーガンが諦めたようにため息をついた。

 何より、自分が言い出した事だ。

 ウィルがどのように成長していくのか見守ってみたい、と。


「ったく、テメーらの事だってのに」


 思わず笑みを浮かべてモーガンがシローへ向き直った。


「了解したぜ、シローさん。俺のできる範囲でゴーレム生成の魔法について説明させてもらうよ」


 モーガンの言葉にシローの表情が晴れる。

 立ち上がってシローがモーガンと握手を交わした。


「ありがとう! 助かるよ、お礼は弾むからな!」


 良い返事が聞けた事に安堵するシロー。

 教えるのは昼食後という事になり、モーガンは臨時で人生初の講師をする事になった。



▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽



「宜しくお願いします、モーガン先生」

「よろしくおねがいします、もーがんせんせー」


 昼食後、並んだセレナとウィルがペコリとお辞儀して、モーガンが微妙な顔をした。


「いや、その先生っていうの、どーにかなんないかな?」

「「…………?」」


 不思議そうに首を傾げるウィルとセレナ。

 モーガンが諦めたように嘆息する。


「ま、いいや。それじゃあ始めよう」


 そう言ってモーガンは周りを見回した。

 砂場にはウィル達の他にシローやセシリア、他の使用人達がついている。

 ニーナは土属性の素質が今のところないため、今回は不参加という事になった。

 ゲイボルグと遊んでいる彼女にはアイカとマイナとジョン、それに風の一片がついている。


「あの子だけ何も教えないのは不公平だろう?」


 とは風の一片の弁。

 危険な魔法は教えないようにとシローが釘を刺したのだが、心配なので三人を付けたのだ。



「えー、ゴホン」


 慣れない事に緊張するモーガンに『大地の巨人』の仲間達から失笑が漏れる。


「聞いてるだろうケド、お……私からは魔法を二つ、学んでもらう……います」

「ふたつ〜?」

「そう、二つ。一つ目はウィルベル様も昨日習得したゴーレム生成……」

「うぃるってよんで〜?」


 思いっきり話の腰を折られた。

 モーガンが苦笑を浮かべてから言い直す。


「一つ目はウィル様も昨日習得したゴーレム生成。二つ目はこれからお見せします」


 モーガンが剣に手を添え、意識を砂場に集中した。


「来たれ土の精霊! 土塊の使者、

 我が命令に従え土の戦士!」


 砂に魔力が広がり、そこから地面が盛り上がる。

 その塊が見る間に人を模した形へと変わっていった。


「ふわぁ……」

「すごい……」


 目をキラキラと輝かせるウィルと驚愕するセレナ。

 モーガンが視線を完成した土人形からウィル達へと向けた。


「これが二つ目の魔法、クレイマン生成です。ゴーレム生成よりも少ない魔力で発動できます。その上、魔力配分もゴーレムと似ているのでゴーレム生成の練習にもなります」


 クレイマン生成はゴーレム生成の下位互換に当たる。

 但し、造形が人寄りである為、ゴーレムよりも細かい作業に向くのだとモーガンは説明した。


「クレイマンを生成しながら魔力を鍛え、楽に生成出来るようになったらゴーレム生成を修得するっていうのが本来の正しい手順だったんですが……」


 モーガンが一足飛びでゴーレムを生成してしまったウィルをチラリと見る。

 ウィルは目の前のクレイマンに夢中だ。目を輝かせ、ふわふわ言いながらクレイマンを触ったり弄ったりしている。

 その様子にモーガンは笑みを浮かべて続けた。


「馴れればこういう事もできます」


 クレイマンの横に再び魔力が満ち、もう一体クレイマンが出来上がる。

 モーガンが念じると片方はウィルを抱き上げ、もう片方は真っ直ぐ歩いてセレナの前で騎士が貴族の女性に振る舞うように膝をついた。

 セレナの表情も思わず綻ぶ。


「たーかーいー♪」


 抱え上げられたウィルが両腕を広げ、屈託なく笑う。

 モーガンはまた念じてクレイマン達を元の位置に並ばせた。


「セレナ様には、まずクレイマン生成を覚えて頂きます。ウィル様は……もう使えますよね?」

「おぼえましたー」


 元気よく手を上げるウィル。

 モーガンはそれがウィルの当たり前だと分かっていても苦笑してしまう。


「セレナ様に魔法を詠唱してもらう前に……ウィル様」

「なーにー?」


 首を傾げるウィルにモーガンが質問する。


「ウィル様はゴーレムを生成した時、いくつ属性を一緒に使ったか覚えてますか?」

「ふぇっ!?」


 驚いたように声を上げたウィルが一生懸命考える。それから指折り数えて確認した。


「いーち、にーい、さーん……さんこ!」


 ウィルの答えにモーガンは満足そうに頷いた。


「そうですね。土、闇、それから樹……この三つの合成魔法です」

「難しそう……」


 合成魔法はただでさえ難しいのに、樹属性は属性の中でも上位の複合属性だ。


「ええ。ゴーレム生成がわりと知られているのに使い手が少ない理由の一つです」

「なんでー? ごーれむさん、かっこいいよー?」


 ウィルが心外とばかりに不満そうな声を上げた。


「使い手が少ない理由ですか? 合成魔法で修得難易度が高い。下位互換のクレイマンの魔法が一般的に知られていない。使用する魔力の量が多いので魔力コストに見合った能力が発揮できない。あと、これが一番肝心なのですが……」


 そう言って、モーガンは苦笑してから続けた。


「実入りのいいダンジョン攻略で使えない」


 ダンジョンとは魔素の濃い場所に自然に発生する生き物のような存在と捉えられている。その肚の中では土を素にしたクレイマンやゴーレムは生成できない。


「自分もゴーレムやクレイマンは魔獣討伐の依頼でしか使わないです」

「へぇー」


 分かっているのか怪しい様子でウィルが頷いた。


「ですが、何かあった時には非常に優秀な魔法である事は保証しますよ」

「頑張ります」


 モーガンの言葉にセレナが意気込む。

 その表情にモーガンが笑みを浮かべた。


「それじゃあ、やってみましょうか」


 モーガンに促されて、子供達の特訓が始まった。


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