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お目覚め

「ウィル様、おはようございます」


 コンコンと扉を叩く音が響いて、ベッドで寝ていたウィルが薄っすらと目を開ける。

 続けて扉が開く音が響き、レンが室内へ入ってきた。


「ん……」


 眠い目を擦り、ウィルが上半身を起こす。


「お加減は如何ですか? ウィル様?」

「んー?」


 傍まで歩み寄ったレンは手にした桶を床に置き、ウィルに様子を尋ねた。

 昨日、魔力切れで倒れてしまったウィルはそのまま一日を寝て過ごした。

 一般的な魔力切れであれば一日眠れば魔力が回復する。

 しかし、ウィルのような幼い子供の魔力切れは前例がない。

 一流の冒険者の経歴を持つレンでもウィルの体調が回復しているか分からなかった。


 起き抜けのウィルはまだボンヤリしていたが、おもむろに布団を持ち上げて中を確認した。

 それからレンの方を振り向く。


「おねしょはしてません」

「ウィル様……」


 苦笑いを浮かべるレン。ウィル様、それじゃない。


「痛かったり、苦しかったりしてませんか? ウィル様は昨日、魔法の使い過ぎで倒れてしまったのですよ?」

「んー……だいじょーぶ」


 レンの言葉にウィルが答えて、布団から這い出した。

 そのままベッドから降りる。

 その様子を見て、一先ず大丈夫そうだと判断したレンが安堵のため息を漏らす。


「そうですか、よかった……」

「ごめんなさい」


 心配をかけたと気づいたのか、ウィルが素直に謝ってくる。


「いいのです。ウィル様がご無事であれば……しかし、無理だけはなさらないでください」


 レンが優しくウィルの頭を撫でると、ウィルはコクンと頷いた。


「さあ、身支度を整えてしまいましょう。セレナ様やニーナ様はもう食堂に行かれましたよ。お客様もいらっしゃいますから、先ずはお顔とお体を拭いて……」


 レンがウィルのパジャマを手早く脱がせる。

 桶に張った水を火属性の魔法で温めて、布を濡らし、ウィルの体を背中から綺麗にしていく。


「支度が整いましたら食堂へ参りますよ。お行儀よくしてくださいね。それから魔法ですが、無闇に使わない事。昨日みたいに駄々をこねたりしてはいけませんよ?」


 段々小言のようになっていくレンの言葉にウィルの表情が曇っていく。

 それを感じ取ったレンはウィルを前向かせて続けた。


「お利口さんにしてたら、今日も魔法の練習をしましょうね」

「ほんとっ!?」


 ウィルが驚いた様に目を見開き、表情を輝かせた。

 どうも魔法を使ってはいけないと言われると思っていたらしい。

 話し合いの結果、無理に抑えつけるのではなく、目の届く所で使わせようという事になったのだ。

 強過ぎる魔力に関してはシローが既に手を打っているとのこと。


「魔法は使えば使うほど上達しますから……ですが」


 レンがウィルの頬を両手で挟み込んで、まっすぐ視線を合わせた。


「昨日のように、人に向けて撃つのは早うございます」

「ふぁい」

「ですからウィル様にはまず覚えた魔法の魔力の消費量を覚えて頂きます」

「ふぁんえー?」

「魔力切れを起こさないようにです」

「ちゅかれにゃいたうぇー?」

「そうです」


 戦闘で魔法を使う時は常に魔力の残量に気を使うものである。

 細かく説明してもウィルは理解できないだろうが。


「魔法を使い過ぎて、お家に帰れないようでは皆が心配致します」

「ごうぇんにゃしゃい」

「分かればよろしいのです」


 レンがウィルの頬から手を離し、体拭きを再開する。

 ウィルはレンに挟まれた頬の感触を戻すように両手で揉んだ。


「はい、ウィル様」


 体拭きを手早く済ませたレンがウィルに服を着せていく。


「出来ましたよ」

「ありがとー、れん」


 寝癖と服装をチェックし終えたレンにウィルがお礼を言った。


「それでは食堂に参りましょう。片付けますので少々お待ち下さい」

「あい!」


 元気よく返事をするウィル。レンが桶と布を片付けるのを待って、二人は食堂へ向かった。




 食堂にはシローとセシリア、姉のセレナとニーナに加え、昨日シローと共にいた冒険者のモーガンとその配下達がいた。

 給仕をしている使用人達以外は席についている。


「おはよーございます」


 ウィルがペコリとお辞儀をすると皆が笑顔で出迎えてくれた。


「体調はどうだ? ウィル」


 奥の席に腰掛けたシローの下まで行くと、シローが頭を優しく撫でながら尋ねてくる。


「だいじょーぶ」

「皆、心配してたんだぞ」

「しんぱいかけました」


 しゅん、となってしまうウィルにシローが笑った。


「ハハッ、分かればいいさ」


 そう言いながら、くしゃくしゃとウィルの頭を撫でる。


「さあ、ステラさんにごめんなさいして朝ご飯作ってもらってきな」

「あいっ!」


 ボサボサになった髪のまま、ウィルが手を上げて元気よく返事をした。

 先程、寝癖を綺麗に直したレンがシローをジト目で見ていたが、シローはスルーした。


 ウィルがキッチンに行くと少しクセのある髪をした若い女性がスープを温めている所だった。


「すてらさん、おはよーございます」

「おはようございます、ウィル様」


 ウィルに気づいたステラが笑みを浮かべて向き直る。

 ステラはウィルの家の食事を任されている料理人だ。

 元々住み込みのメイドだったのだが、結婚して一線からは引いている。

 なので、子供達の教育係からは身を引いているが家の者達にとっては美味しい料理を作ってくれるありがたい存在なのだ。

 しゃがみこんだステラがウィルの顔を覗き込む。


「元気になられましたか? ウィル様」

「ごめんなさい」


 またもしゅん、と項垂れるウィルにステラが手を伸ばし、髪を整えていく。


「いいのですよ、ウィル様。失敗は次に活かせばいいのです」

「あい」


 頷くウィルにステラも頷いて返す。


「先ずは腹拵えをしましょう。ステラの作った栄養たっぷりの野菜スープを飲んで、今日も一日頑張りましょう」

「あいっ! ……えっ?」


 元気よく返事したウィルがそのまま固まった。

 ステラが立ち上がって、スープの様子を見に戻る。


「あの〜、すてらさん……」

「なんですか? ウィル様」


 スープを小皿に取って味見しながらステラが聞き返した。


「ぴーまんさんは、なしで……」


 おずおずとお願いしてくるウィルにステラがクスリと笑う。


「入ってませんよ、ピーマンさん」

「よかった〜」


 胸を撫で下ろすウィル。

 ウィルの様子を笑顔で眺めていたステラがもう一つ付け加える。


「お客様もいらっしゃいますし、今日はクッキーもお作りしますよ」

「ほんとっ!?」


 ステラの言葉に表情を輝かせたウィルが「やったー!」と元気にキッチンを飛び出していった。


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[良い点] さいこー ウイルかわいいー さいこー
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