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夫婦の時間

しばらく大人回です。


 シローが全ての業務を終え、自宅に戻って来れたのはとっぷり日が暮れてからであった。

 今回の事件で捕縛した者達は百名近くに上り、取り調べを行うだけでも相当時間がかかる。

 フェリックス宰相に報告すると、彼は「さすがシロー殿。仕事が早い」と大層喜んでいた。

 別にやる気を出したわけではないのだが。

 ともあれ、後は宰相に任せておけば上手くやってくれるだろう。

 第三騎士団もしばらくは宰相の手伝いに回るかもしれない。


「ただいまぁ」


 玄関を潜ったシローが小さく声をかける。

 夜も遅かった為、誰かを呼んだわけではないのだが、控えていたのかレンが姿を現した。


「お帰りなさいませ、シロー様」

「レン、ウィルの具合はどうだ?」


 任せっ放しになってしまった我が子を案じるシローに、レンが視線を子供達の部屋のある階上へと向けた。


「今はエリスさんが付き添ってくれています。単なる魔力切れのようでしたので、明日には元気になられると思います」


 レンの報告にシローが一先ず安堵する。

 一般的な魔力切れであれば、大抵一日もあれば回復する。

 ただ、その限度を超えて酷使すればその限りではない。

 下手をすれば命に関わる事もある。

 特にウィルはまだ年端もいかない子供だ。


「モーガンさん達は客室にお泊り頂いてます。聞きたい事もありましたので」


 レンは視線をシローへ戻した。


「ウィル様の為、なんとしてもゴーレム生成についてお伺いしなくては……」


 思い詰めたように呟くレンにシローが苦笑する。

 身内や使用人の中にゴーレム生成の魔法を習得している者はいない。

 ウィルに指導してやる為に情報が欲しいところだが。


「レン、あまり考え過ぎるなよ」


 シローとて、その重要性が分からない訳がない。

 しかし、思い詰めたレンを見ていると心配になってくる。

 どうも彼女は子供達の事が絡むと融通が効かなくなる節がある。

 それだけ子供達に愛情を注いでくれているという事なのだろうが。


「調書もあるし、明日、俺からも聞いてみるよ。教えてもらえなくても、そん時はそん時だ」


 レア度の高い魔法は使い手が秘匿にしてる事が多い。

 ゴーレム生成の魔法も知られてはいるが使い手が少ない魔法だ。


「畏まりました……」


 レンは頭を下げると「子供達の様子を見てまいります」と言い残して踵を返した。

 レンの後ろ姿を見送って、シローがため息をつく。

 やがてレンの姿が見えなくなると、シローの腰にある風の一片の幻獣石が輝きを増し、風狼が姿を現した。

 今は力をセーブしているのか、成犬ほどの大きさだ。


「あの小娘が、人の為にあれ程心悩ませるとはな……」

「子供達のお陰かな……」


 風の一片の率直な感想に、シローが笑みを浮かべる。

 レンの昔を知る一人と一匹には感慨深いものがあった。

 レンもそれだけ成長しているという事なのだろう。


「シロー……積もる話もあるが、後日にしよう。儂も思うところがあるのでな。席を外させてもらうぞ」

「いいケド……屋敷から出んなよ?」

「たわけ……魔刀が屋敷にあるのに離れられるものか」


 軽口を叩くシローに風の一片は鼻を鳴らすと、自身の体を風に変じて何処かへ飛び去って行った。


「やれやれ……」


 また一人になってしまったシローは頭を掻くと、疲れた体を癒やす為、リビングの方へ歩き始めた。





「シロー様……」


 リビングに入るとソファーに腰掛けたセシリアが立ち上がった。

 脇に控えているトマソンが腰を折ってシローを出迎える。


「お帰りなさいませ、シロー様」

「ただいま、セシリアさん、トマソンさん」

「お帰りなさいませ」


 傍に寄り添うセシリアの頭をシローが優しく撫でた。


「子供達はもう寝たかな?」

「はい……セレナもニーナもウィルを心配して寄り添っていましたが、避難で緊張した疲れもあったのでしょう」

「そっか……」


 表情を曇らせるセシリアにシローは笑顔で頷いた。

 それが自分を安心させる為だと気づいてセシリアも笑みを浮かべる。


「トマソンも今日はもう休んで下さい」


 振り向くセシリアにトマソンが笑みを浮かべ、再び腰を折った。


「畏まりました。では下がらせて頂きます。おやすみなさいませ、シロー様、セシリア様」


 そう言うと、トマソンはリビングを後にした。

 リビングにはシローとセシリアだけが残る。


「エリスさんとレンは子供達についててくれているみたいだけど……」

「そうですね。他の子達は下がらせました」


 二人は並んでソファーに腰を下ろした。

 セシリアがシローの肩に頭をもたれさせる。


「ほんと、ウィルには驚かされてばかり……」


 ぼんやりとした口調でセシリアが呟いた。

 セシリアも気を張って少し疲れているのだろう。

 彼女を支えながら、シローは顔をセシリアに向けた。


「ウィルの事が心配かい?」


 シローが尋ねると彼女はクスリと笑みを溢した。


「心配ですね……でも」


 前置きして、セシリアがシローの顔を笑顔で見上げる。

 自然と二人の距離が近くなる。


「シロー様と一緒に、子供達の事を考えたり悩んだりできる事が幸せです」

「そうだね……俺もだよ」


 見つめ合うセシリアの瞳が微かに潤んでいて。

 どちらからともなく、顔を近付ける。


「セシリアさん……」

「シロー様……」


 セシリアが目を閉じ、シローが唇を寄せた。

 二人のシルエットが重なろうとした、その時。


「シロー様、セシリア様……子供達もぐっすりお休みになられていますので――」


 リビングにレンとエリスが入ってきた。入ってきちゃった。


 唇を寄せ合う姿勢で固まったシローとセシリア。

 二人を見て、驚き立ち尽くすレンとエリス。


 リビングに変な沈黙が舞い降りる。

 ややあって、ゆっくりとした動きでセシリアが立ち上がった。


「そ、そういえば、シロー様。お夕飯、まだですよね? し、仕度してきましゅ……」


 頑張って自然な笑みを作って噛んだセシリアが、顔を真っ赤にしてリビングを出ていく。


「シロー、様。二人きりだったとはいえ、リビングでそういう事されると……」


 視線を彷徨わせながら苦言を呈するレン。

 その横でエリスも顔を真っ赤にして俯いていた。


「……他に言う事は?」

「「……ごめんなさい」」


 おあずけを喰らって涙目の旦那様にレンとエリスは素直に謝った。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 面白いです。頑張って下さい。
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