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魔力の綺麗汚いと教育的指導?

「獣人……?」


 遠目に見ていたセレナが呟く。

 獣人は南方に多く暮らしている種族である。

 フィルファリア王国では冒険者や行商に訪れる者は見かけるが、基本的には珍しい。

 ピクピクと動く耳を珍しそうに見ていたウィルが視線を目の前の人物に戻した。


「おにーさんはおねーさんですか?」


 率直な質問に面食らったフードの人物は目を瞬かせていたが、ふと笑みを浮かべた。


「そうね。お姉さんよ」


 どこか諦めたような表情を浮かべる獣人の女性にウィルが「そっかー」と頷いた。


「ごーれむさーん、はなしてー」


 ウィルの命令にゴーレムが手を放して、女性を解放する。

 きょとんとした表情を浮かべる女性からゴーレムが一歩下がった。


「どうして? 私を解放したら、あなたは捕まっちゃうかもしれないのよ?」


 座りこんだまま尋ねてくる女性に、ウィルがにっこり微笑んだ。


「れんがおんなのこにはやさしくしなさい、ってー」

「……それだけ?」

「それだけー」


 ニコニコとした笑顔を崩さないウィル。

 逆に女性の方が呆気に取られてしまっていた。


「チャンスだ!」


 マントの男が喜色めいた笑みを浮かべる。

 トルキス家の面々にも緊張が走った。


「今だ! ガキを人質に取ってしまえ!」


 男の表情が勝ち誇った笑みに変わる。

 だが、女性は逡巡したまま動かなかった。


「ウィル!」


 セシリアの声にウィルが立ち上がる。


「だいじょうぶー」


 何が大丈夫なものか。

 トルキス家の使用人達と私兵達が同時に動き出そうとする。

 それをウィルの次の一言が押し止めた。


「おねーさんのまりょく、きれいだからー」

「「「……っ!?」」」


 言っている意味が分からず、全員の足が止まる。


「な、何を言ってやがる、クソガキ!」

「えー? おじさん、しらないのー?」


 マントの男の反応にウィルが可笑しそうに笑う。

 私兵達には、その純粋さが逆に恐ろしいモノに映っていた。


「いいひとのまりょくはきらきらなのー、きれいなのー。でも、わるいひとのまりょくはぎとぎとなのー、きたないのー」

「「「はっ……?」」」


 ウィルの言葉に、シロー以外の全員が揃って疑問符を浮かべる。

 そんな話は聞いた事がなかった。

 そもそもウィルのように魔力の流れが目に見えている者が稀なのである。


「幻獣様……?」


 真偽の程を確かめようとエリスが風の一片を見上げると、風狼は小さく嘆息した。


「事実である。お主らも、なんとなく信の置ける置けないを感じ取る事があるだろう。魔力も身の内から沸き立つモノ……その者の有り様は魔力が雄弁に語るものだ」


 初めて聞く話に全員が呆気に取られて言葉を失う。


「幻獣や精霊、もしくはその契約者の類はそれが分かる。因みに」


 黙ってしまった人間達に風の一片が気を利かせて一言付け加えた。


「シローが奥方を見染めたのも、それが大きく関わっておる」

「一片っ!? いまそれ関係なくね!?」


 いきなり暴露されて、シローが非難の声を上げる。

 セシリアの頬が見る間に紅く染まっていく。


「私の魔力が……」


 獣人の女性が自分に言い聞かせるように呟く。

 それを質問と取ったのか、ウィルが後を続けた。


「きれいだよー」


 なんの臆面もなく、そう言い切るウィルに女性が顔を上げた。

 戸惑う女性の頭をウィルが撫でる。


「いいこ、いいこ……」

「……っ!」


 男と偽ってゴロツキの中に身をやつしているくらいだ。

 彼女も順風満帆な道を歩んではいないだろう。

 ウィルの暖かな手に触れられ、獣人の女性は思わず涙を溢しそうになった。


「だ、だからなんだってんだ!」


 マントの男が懐から取り出した投げナイフを構える。

 男の声に反応したウィルが顔を上げた。


「危ないっ!」


 投擲されたナイフに気付いた獣人の女性がウィルに被さる。

 数本の投げナイフが女性の背後から襲い掛かった。


「ウィル!」


 悲鳴を上げるニーナ。

 しかし、ナイフはウィル達に届く前に何かに弾かれた。


「むー、むー!」

「きゃっ!?」


 女性の腕に抱き締められたウィルが彼女の胸に埋まって呻く。


「ごめんなさいっ!」


 窒息しそうになっているウィルを慌てて胸元から引き離した女性が何かに気づいて後ろを振り返った。

 宙には物理障壁が三枚並んで構成されていた。

 女性のものではない。

 それに気づいて女性がウィルの顔を覗き込んだ。


「うぃる、しょーへきのれんしゅうもしてるの!」


 可愛いドヤ顔を披露するウィル。

 意図してナイフを弾いた三歳児に女性はぽかんと口を開けてしまった。

 男もウィルの展開した障壁にナイフを放ったままの姿勢で固まる。


「嘘だろ……」

「はーっはっはっはっは!」


 高い所から甲高い笑い声が響き渡り、全員がそちらを振り向く。

 気絶させて積み上げた男達の山の天辺に足をかけたマイナが私兵達を睥睨していた。

 何故男の山を築き上げたのか、そして登っているのか、理解できずに私兵達が汗を垂らす。

 使用人達も嘆息して頭を抱えた。


「ウィル様は三歳にして障壁を我が物とし、私の頭突きすら完璧に遮る御方! 貴様ら如きの投げナイフなど、物の数ではないわ!」


 私兵達の汗が増えた。

 刃物が頭突きの格下にされている理由が分からない。


「とうっ!」


 短い掛け声と共にマイナが宙を舞う。

 くるりと一回転し、急降下した彼女は手頃な私兵に飛び蹴りをかました。


「ぱんつっ!?」


 謎の悲鳴を上げた男が顔面を蹴り飛ばされ、引っ繰り返る。

 それを見たウィルが非難の声を上げた。


「ああー! まいな、それ、うぃるのー!」


 ぷうっ、と頬を膨らませ唇を尖らせるウィル。

 ウィルの何であるか、その先は聞いてはいけない気がした。


「も、申し訳ございません! ウィル様!」


 むー、っと唸るウィルにマイナが慌てて頭を下げる。

 その後ろでレンに殴り飛ばされた私兵が地面を滑るようにすっ飛んでいった。

 歩み寄ってくるレンの姿に私兵達が後退る。


「あー! れんまで!」

「ウィル様」


 冷静な口調でレンに呼びかけられ、ウィルが頬を膨らませたまま押し黙る。


「もう、おしまいでございます。こちらは片付きました」

「「「はっ……!?」」」


 レンの言葉に私兵達が周りを見回すと、学舎の庭には叩きのめされた彼らの仲間達が無造作に転がされていた。

 ニコニコとしたミーシャが男達をひと固まりになるようにまとめている。


「う、嘘だろっ……何人いたと……」


 マントの男が震える声で呟く。

 それを聞いたレンが鼻で笑った。


「貴様ら如き、物の数ではない」

「うっ……」


 言葉をつまらせ、私兵達が距離を取ろうとする。

 学舎の門には騎士達が駆けつけているのが見えた。

 先頭に立った髭面の大男が部下に指示を出している。


「くそっ……」


 逃げ場を探す私兵達。

 その頭上を覆うように影が射した。


「おあっ!?」


 伸びてきた何かに危険を感じ、マントの男が身を躱した。

 いつの間に近づいていたのか、ウィルのゴーレムがその腕を伸ばし、ゴロツキ達を捕獲しようとする。


「うぃるのー! うぃるの、えーもーのーなーのー!」


 言い切った。これがお仕置きという名の狩りである、と。

 しかし、振り回すゴーレムの腕はなかなか私兵達を捕らえられない。


「あ、あぶねぇ!」

「チッ……こんな危なっかしいモン、振り回すんじゃねーよ」


 追撃してくるゴーレムの腕をマントの男がバックステップで躱す。

 ウィルの戦闘経験のなさか、ゴーレムの動きは掴むというよりは薙ぎ倒すような勢いに近かった。

 結果、攻撃の軌道を読まれてしまい、ゴーレムの腕は私兵達に躱されてしまう。


「ウィル様……仕方ありませんね……」


 レンは小さく嘆息したが、レン自身も私兵達を許す気はなかった。

 相手はウィルを手にかけようとしたのだ。


「止めねぇのかよっ!?」


 ウィルの行動を容認するレンにマントの男が喚く。

 それをレンが凍てつくような視線で突き刺した。


「止める理由が、どこに?」

「お前らんとこの幼児教育はどうなってんだぁぁぁ!?」


 ゴーレムの腕を掻い潜りながらマントの男が悲鳴を上げる。


 レンは距離を置いて足を止めた。

 どうやらこの場でウィルにゴーレムを用いた魔法の練習をさせるつもりらしい。


 間違えている。何かを絶対間違えている――


 私兵達の知る世間一般の常識はトルキス家の人々には通じなかった。

 彼らは皆、静観する姿勢でこちらを見守っていた。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 学校の校門での防衛線をしている感じだったのに、『学舎の庭には叩きのめされた彼らの仲間達が無造作に転がされていた』って簡単に突破されてるし、それぞれの位置関係がさっぱりわからない。 門は…
[良い点] 面白くて可愛くて好きだったけど女だからなんでも許すってのは違くないか?作者どんだけ女好きなんだよ。一気に冷めたわ
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