時は少し流れて……
天国のお父さん、お母さんへ
わたしとモニカお姉ちゃんがトルキス家のおせわになるようになってからもうすぐ一年がたとうとしています。
わたしたちのせいかつもびっくりするぐらいよくなり、まいにちたのしいです。
とくにお姉ちゃんはルーシェさんやぼうけんしゃなかまとお休みにぼうけんできるのがとてもうれしいみたい。ぜんぜん女の子っぽくありません。お姉ちゃん、美人なのに。もうちょっとおしゃれしたらいいと思うんだけど。こないだ、お給料で買った剣をじまんしてました。ほんとに、もう……
わたしはおないどしのニーナちゃんとあそんだりべんきょうしたりしています。
お家のお手伝いもしたいけど、セシリアさまは「子供だから、まだいいのよ。ニーナとあそんであげてね」といってくれます。
とてもやさしい人です。
シローさまもおみやげをかってくれたりします。よくじょうだんをいってレンさんにたたかれてます。いたそうです。
ニーナちゃんはじっとしているのがにがてらしく、べんきょうのときはたいくつそうなのですが、剣や魔法のおけいこの時はものすごいです。
あと、おともだちもたくさんいて、わたしもいっぱいしょうかいしてもらいました。その中に王女さまのフレデリカさまがいたのにはびっくりしました。
フレデリカさまはニーナちゃんのことを「こころのとも」とよんでいて、なんでかわたしもこころのともになりました。なんでも「こころのとものこころのともはこころのとも」らしいです。わけがわかりません。
わたしがべんきょうでわからないときは、セレナお姉ちゃんやメイドの人たちがおしえてくれます。
セレナお姉ちゃんはすごいです。魔法もべんきょうもまなびやで1ばんなのだそうです。おしえてくれるととてもわかりやすいです。
あと、よくセレナお姉ちゃんに会いにおじいさんたちがお家にきます。なんでも、セレナお姉ちゃんはこまを使ったゲームがとても強いらしく、対戦しようとおじいさんたちが来るそうです。
あまりにいっぱいくるのでオルフェスおじいちゃんがサロンを作る、と言っていました。サロンってなに?
あと、そんなセレナお姉ちゃんですが、魔法では「ウィルちゃんにはかなわない」といっていました。
ウィルちゃんはすごいです。むずかしい魔法もかんたんに使えるようになってしまいます。
わたしもウィルちゃんにすこし魔法をおそわりました。
そのおかげで、なんとわたしは水の回復魔法が使えるようになったんです。モニカお姉ちゃんやニーナちゃんがよくケガをするのでとってもやくだっています。
同じ水属性がとくいなルーシェさんやエリスさんにもいろいろならっていますが、ウィルちゃんにコツを聞くとすぐに使えるようになります。
そんなウィルちゃんですが、さいきんよく「ウィルはお兄ちゃんになったんです」といっています。
ウィルちゃんが4さいになったのもありますが、わたしたちになかまがひとりふえたからです。
エジルさんとステラさんの間に女の子――メルディアちゃんが生まれたんです。
わたしたち子供の中ではウィルちゃんが1番年下だったから、ウィルちゃんはとってもよろこんでいました。もちろんトルキス家のみんなでお祝いしました。
わたしもあたらしい家族がふえたみたいでとてもうれしいです。エジルさんの幻獣、ブラウンもつきっきりでメルディアちゃんを見守っています。なんか微笑ましいです。
また、なにかあったら書きます。少しのあいだ、さびしいかもしれませんがお父さんもお母さんもみんなを見守っていてください。それでは、また。アニアより。
「……ふぅ」
日記を書き終えたアニアがペンを置いて軽く伸びを打つ。
革張りのしっかりした日記帳である。トルキス家の世話になってから少し、勉強を始めたアニアに姉のモニカが買ってくれたお気に入りの日記帳である。
アニアはここに日々の出来事や亡き両親に当てた手紙を綴っている。
病床の折にはできなかった勉強や魔法の修練はアニアにとって新鮮で、アニアもその力をメキメキと上達させている。
教える講師陣が優秀という事もあるが、魔法に関してはウィルの存在が大きい。
目で見て魔力や魔法の良し悪しを判断できるウィルのアドバイスは語彙足らずでありながらも的確で修練を積む者の実力を伸ばしていく。
そして、それはトルキス家内に留まらず、ウィルの行く先々で同様の事が起こっていた。
レティスを拠点とする冒険者などは特にその恩恵を多く受けると共に、ウィルの特異性をおおっぴらに広言したりせず、大切に見守っていたりする。
自分たちの実力向上を秘匿したいという打算がなかったわけではないが、貴族や平民共にそれがどれほど異質で、公になることを誰もが望んでいないと分かっていたからだ。
その為か、時折訪れる素行の悪い冒険者などはレティスを拠点とする冒険者に秒で鎮圧される。
それが「レティスの冒険者たちは質が高い」と噂されるにいたり、余程の者でない限り、素行の悪い者は寄り付かなくなり、レティスの治安をより良いものに高めていた。
ウィルの功績は秘匿されても、回復魔法や人々を笑顔にしようと頑張るウィルはレティスの住人たちの間で大人気なのである。【レティスの天使】を始め、人々は非公式ながらウィルに様々な二つ名を与えて賞賛していた。
そんなウィルであるが、目下の関心事は新しい家族のメルディアであった。
「うぃるはおにーちゃんなんだからね。なんでもいってね!」
「あぅー」
「ウィル、メルちゃんはまだ赤ちゃんなんだから言っても分からないわよ」
「そんなことないもん、ねー?」
「あー」
ステラに抱きかかえられたメルディアに一生懸命語りかけるウィルを見て、セシリアも苦笑する。
ウィルだけではなく、子供たちの関心はみんなメルディアに向いている。
「今日もやってるな」
「とーさま!」
「おかえりなさいませ、シロー様」
リビングに姿を見せたシローもメルディアの頭を優しく撫でる。
今日は城に出向いていたシローは正装をしており、セシリアが上着を預かった。
「今日はどうでした?」
「国王からプライベートにお招き頂いたよ。なんでも、フラベルジュ国王陛下がお見えになるそうだ」
シローが告げると使用人達からも感嘆の声が上がる。
フラベルジュ王国から親善訪問があり、フラベルジュの国王と王妃も参加するのだそうだ。大々的に晩餐会が催され、その中のプライベートな一幕にトルキス家も招待されたという。
「それでは、ナディナル従姉様もお見えになられるのですね」
「そう聞いているよ」
ナディナルとはセシリアの従姉妹であり、フラベルジュ王国の王妃である。現フィルファリア国王アルベルトの姉に当たる。
セシリアも幼い頃からよく遊んでもらっていた。
「だれー?」
ウィルを始め、子供たちが首を傾げるのも無理のないことである。最後に会ったのはセレナがまだ物心つく前のことなのだ。
セシリアがナディナルについて説明すると、ウィルは王様たちに会えるということを何となく理解した。
「それじゃーおしろでまってよーか?」
「まだ早いわよ、ウィル」
早速お出かけしようとするウィルにシローもセシリアも思わず苦笑いを浮かべるのであった。




