セレナの幻獣とトルキス家のお出かけ
「そりゃあ、また……随分と博打打ったな……」
「なんでさ、父さん?」
「幻獣ってのは生き物を模してる訳だが、必ずしもセレナちゃんが好きな容姿とは限らないんだぜ? まさか考えてなかったわけじゃないだろ?」
「…………」
「考えてなかったんだな……」
ヤームとバークの間でそんな会話がなされたのはシローたちが城から戻ってきた後、夕食前の事だ。
庭に集まってセレナを囲んだウィルたちはその時を静かに待っていた。
「もう十分、魔力は溜まったであろう」
「はい」
一片に促されてセレナが指輪を嵌めた手をかざす。そのまま呼び掛けるように念じると魔力を帯びた幻獣石が白金の光を放ち始めた。
「この光は……」
「雷属性ですね〜」
「いったい、どんな幻獣が……」
マイナとミーシャ、アイカが心配そうに成り行きを見守る。
特にアイカはウィルから幻獣の正体を聞き出すことに失敗している。というか、ウィルも石の中で眠る幻獣の姿までは分からなかった、というのが真相だが。
セレナの指輪から溢れた魔力光が時折弾けるように輪郭を乱す。
「起きて……!」
セレナが集中して指輪の幻獣を呼び起こすと、一際強い光が瞬いた。
その眩しさに、全員が一瞬視線を逸らす。
「幻獣は……?」
セレナが慌ててその姿を確認しようとする。しかし、光を発した場所には何もいない。
周りにいたウィルたちもその姿を見失っていた。
「どこに……? きゃっ!?」
不意に首筋に触れる感触があってセレナが身をすくめる。
「キュゥ」
「これは……?」
幻獣の姿を見たシローが首をひねる。
「イタチっぽいな」
胴長で顔は小さく目はクリっとしている。
愛らしい容姿の小動物がセレナの頬にすり寄っていた。
「くすぐったい……」
そう言いながらセレナが頬をすり返して応えてやる。
その様子にバークは安堵して胸を撫で下ろしていた。見た目の愛らしさもあってセレナは幻獣を受け入れたようだ。
「ふむ……珍しいな」
「一片、これが何か分かるのか?」
セレナが両手に幻獣を乗せて一片に見せると一片はすぐにその正体を口にする。
「そやつは雷獣の子じゃ」
「らいじゅーさん♪」
「キュウ♪」
ウィルが目を輝かせて雷獣の背を撫でる。雷獣は大人しく、次々と撫でてくる子供たちに身を任せていた。
「でも、大丈夫でしょうか? 雷属性はコントロールが難しいと聞きますが……」
セシリアが頬に手を当てて雷獣と傍に控えるトマソンを交互に見る。この中ではトマソンが一番雷属性に対して理解が深い。
セシリアの問いに一片が落ち着いて返した。
「セレナは光と土、そして風の幻獣の加護を持っておる。確かに習得難易度は高いかもしれんが問題なかろう」
雷属性は光と土と風の複合属性だ。上位の魔法になるが、一片はそれでも太鼓判を押した。
「一片様のお墨付きとあれば……私も全力でセレナ様にご指導させて頂きます」
「うぃるもー!」
両手を上げるウィルに大人たちが苦笑いを浮かべる。
雷属性は使いどころが難しい魔法で攻撃魔法や身体強化魔法など、幼いウィルに教えたくない魔法が沢山あった。
「よろしくね、爺や」
「はい、セレナ様」
「うぃーるーはー!」
輪に入れてもらえないウィルが頬を膨らませる。
その背後から近付いたシローがウィルを抱き上げた。
「ウィル。ウィルにはちょっと父さんたちのお手伝いをしてもらいたいんだ」
「むー?」
納得いかずに唇を尖らせたまま、興味を惹かれたウィルがシローの腕の中で向き直る。
「なーに、とーさま?」
シローはウィルを抱え直しながらセシリアに目配せをした。
家族のことは二人で決めよう、というのがトルキス家の基本方針だ。これからウィルに話して聞かせることは二人で話し合った結果である。
セシリアは頷いてシローに続きを促した。
「ウィル、父さんとセシリアさんは王様のお願いで出かけなきゃいけなくなったんだ」
「う?」
シローの言葉にウィルが首を傾げ、「どこいくのー?」と催促してくる。
「飛竜が暴れまわった後処理だ」
ウィルの活躍もあり、被害のなかった王都近郊であるが、それは王都以北だけだ。飛竜の通過した以南は酷い有様のようだ。
そこでフィルファリア王国から南側に派兵して救援活動を行う事になった。
しかし、物資はまだしも従軍する治癒術士は圧倒的に足りていない。元々治癒魔法を使える者が少ないのだ。
「マエル先生も、もうお年だし……」
「まえるせんせー、おじーちゃんだもんね」
セシリアの言葉にウィルは首を縦に振って納得した。
マエルも未だ現役とはいえ、年々無理が効かなくなっている。
そこで今回トルキス家に白羽の矢が立ったのだ。
ウィルを合わせればトルキス家は治癒術士を四人も抱えている。大貴族でも個人でこれだけ抱えている家はそうないだろう。
もちろん今回の派兵はフィルファリア王国――というかアルベルト国王の打算が多く含まれている。
話し合いの結果、シローやセシリアの担当は隣国フラベルジュの村だ。幼いウィルと連れ立っての旅になる。
遅かれ早かれウィルの存在に気付かれるのであれば、しっかりした護衛体制の元で治癒に奔走するウィルの姿を宣伝しようという腹積もりなのだ。
そして隣国フラベルジュ王国であるが、フィルファリア王国建国以来の同盟国であり、双方の王家同士が縁戚関係にある。
当代であればフラベルジュ国王にアルベルトの姉が正妻として嫁いでいる。近隣諸国の中では一番信頼の置ける国であった。
三歳のウィルに遠出はどうか、という意見が無くはないがトルキス家に出動を要請する以上子供たちを放置というわけにはいかない。特にウィルは魔法が使えると聞けば何処へだって行きたがる行動派だ。
また、白いローブの集団がウィルを狙っているのではないかという指摘もあったが、それにしては敵方の対応がお粗末なためウィル個人を狙ったわけではないと判断していた。
「ウィルも一緒に行くか?」
「いくー♪」
シローの提案にウィルは目を輝かせた。
雷属性の魔法を教えてもらえない事はもう忘れ去ったようだ。
お出かけに連れて行ってもらえると知ってウィルはご機嫌である。
「れん、うぃるのりゅっくを!」
「ウィル様、出発は明後日でございます」
シローたちはフンフンと鼻息を荒くするウィルを宥めるまで、少し時間を要するのであった。




